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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
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怪ノ伍「矢木文一〜歪な異性の愛し方〜4」

皆さん、こんにちは。最近影が薄くなり始めたこの話の唯一無二完全無欠の可愛いヒロイン、榊美雨です。忘れてないですよね?覚えていてくれてますよね?

因みにここは文一さんの部屋。部屋の中は綺麗に整頓されて、男の人にしては少し潔癖過ぎる気もします。

元々、男性が一人で暮らすには広すぎるようで、使わない部屋は物置か来客用になっているようです。

 ……で、ここで問題。お客様用の部屋は残念ながら一つしかない。その部屋を私こと鬼取屋のマスコット、榊美雨ちゃんと、鬼取屋の穀潰し、天童切丸さんが二人で使って一夜を過ごすのは誰の目から見ても危険なのです。

 だから切丸さんは文一さんの部屋で、私はお客様用の部屋に止まることになったのですが……

 現在、文一さん宅の中には私一人がポツンと寂しく取り残されている状態になっています。

 何故って? そんなの、文一さんと切丸さんが夕食の買い出しに行ってしまったからに決まってるじゃないですか!!

 か弱き乙女をたった一人を部屋に残し、男二人でどっかに行ってしまうなんて、なんて薄情連中かしら。


 ……確かにさぁ、文一さんの部屋はセキュリティ高いし、妖怪さんは文一さん一人しか狙ってないから、私は部屋にいた方が安全っちゃ安全だろうけど、それにしたって二人で買い出し行く必要ないじゃん!


 一人で二人の召し使いを待つ姫君のように、私は退屈だった。そして私は、退屈の二文字がこの世で一番大嫌いだった。


「暇だあー! ヒマヒマヒマヒマヒマヒマヒマ!!

 なんか面白いこととか面白いものとかないの?」


 ああ、思わず叫んじゃいました。いけないいけない、こんなはしたない姿を男性には見せられませんわ。

 …………なんだろう、今自分を見失った気がする。


 それもこれも、暇なのが悪いのよ!

 どうしたら良いのよ! 私一人でこの状況なにしたら良いのよ!

 あ〜あ、せめて京介さんがいてくれたら、イジメ倒してやるのに。

 なにしようかなぁ、どうしようかなぁ…………


「そうだ!」


 私は立ち上がり、言葉を繋ぐ。


「こういう時は…………、



 冒険だぁ!!」


 思い立ったが吉日、私は文一さん宅の各部屋の中へ入り、ベッドの下とかタンスの裏なんかを念入りに調べます。

 …………変態とか、言っちゃ、ヤだな。


 ………………なにも発見出来ませんでした。


「もう、男の一人暮らしなんだから、もっと見られちゃ恥ずかしいものとか隠してなさいよ!」


 私はタメ息混じりにそう言うと、気を取り直して次の部屋までレッツ・ゴーします。

 今度はなにかな♪

 私が入ろうとしている部屋は物置になっています。

 所謂、開かずの間。こういう所には中々面白いものが隠されていると相場は決まっているのですよ。

 特に鍵も掛かっていなかったし、物置の中へ侵入していくわ・た・し。


「一体ここには何があるんでヤンスかねぇ〜え。」


 そこ! キャラ崩壊とか言わないの。

 ワクワク……さてさて、その全貌とは!?










 ――――部屋に入った私の視界に広がっていたのは、無数の本だった。もちろん私が求めていたものじゃない。一気にシリアスな場面。

 その本一冊一冊は、どうやら手作りのよう、埃を被ってはいるけどまだ新しいものもある。

 きっと、つい最近まで誰かが文一さんに贈っていたのかな、いいや、もしかしたら、文一さんが誰かに贈っていたのかもしれない。


 その中の一冊に、私はは手を伸ばてみる。

 本の表紙には「貴方に捧げる文一つ〜桜の栞を添えて〜」という題名が表記されていた。


 作者の名前は書いていないけど、字が女の人みたいなので、文一さんが書いた訳じゃなさそう。


 ゆっくりと本の内容を読み解いていくと、その本は詩集らしかった。

 女性が男性に気持ちを伝える恋の(うた)

 一冊読めば、その人の想いが充分伝わる程、沢山の愛の(ことば)が並べられている。


 ……「文一つ」。きっと、この詩は文一さんに向けて書かれているんだろうなと思った。

 読んでいるだけで、とても優しい気持ちになれる。


「ああ、面白かった。次はなにを読もうかなん♪」


 あっという間に一冊を読み終えてしまった。

 私は本棚を見渡すと、一冊だけ、明らかに他とは違う雰囲気の本があった。今度は題名さえ書いていない。


 それを手にすると、また詩の世界に浸かってしまう。

 ほんの数十ページ、だけどやっぱりその内容は、読んでいるこっちがくすぐったくなるような甘い(ことば)で飾られていた。


 ふと、その本からひらりと一枚の紙切れが落ちる。


 ……なんだろう、これ?

 栞だ。私はそれをゆっくり拾い上げ、まじまじと見つめる。

 桜色の、可愛らしい感じの栞。文一さんが持つには少し女の子過ぎる。

 栞には何か文字が書かれていた痕跡があるけど、滲んでしまってなんて書いてあったかはもう読めない。


 ――それがなければ、とても綺麗な栞なのに。

 そう思いながら元のページに栞を挟み、本を元の場所に戻した。


 ……よし、物色終わり! 余は満足じゃあ。


 私は元いた部屋に戻り、召し使い二人の帰りを静かに待っていた。





 切丸さん達、早く帰って来ないかな、私、お腹空いちゃったよ。

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