怪ノ伍「矢木文一~歪な異性の愛し方~3」
昼休み、学生逹が各々好き好きに談笑しながら昼食を食べる時間。
その中で三人の若者が楽しい食事を過ごしていた。
先ず一人はこの大学に潜入した鬼取屋の工作員、天童切丸。彼は目の前を通る麗しい女子大生をオカズに、白飯を三杯は平らげている。
もう一人はこの大学の正規学生、矢木文一。彼は目の前の弁当から幾つかのおかずを箸で摘まみ、そして口に運ぶ。
最後の一人、性別は女性。名前は榊美雨、17歳。彼女は自分で持ってきたはずの弁当を口にしながら、切丸と文一の二人組に馴染んでいた。
「な、なあ天童、この目の前にいるお嬢さんはなんなんだ?」
「ええー、忘れちゃったんですか文一さん?
文一さんが依頼に来たときにいたじゃないですか?
鬼取屋のマスコット、榊美雨ちゃんです」
ウィンクなんかして、可愛らしいはずのポーズを決める美雨。
……言っちゃ悪いが、完全にスベっている。
そんな美雨の行動を無視するかのように、文一は切丸に先程の質問を繰り返す。
「で、この娘はなんだ?」
切丸は引き吊った笑顔を見せながら、少し呆れ気味で問いに答える。
「うーん、僕が腹減ったって事務所に電話入れたら来てしもた。
で、美雨ちゃんが持ってきてくれたお弁当にこんなんが付いてた」
言うと同時に出した切丸の手には、手紙が一枚握られていた。
その手紙には、『もう限界です。そっちで面倒見てください。京介より』と丁寧な字で書いてあった。
文一は無言で成る程なと頷き、食事を再開した。
平和な時間は、この日ゆっくりと流れていた。
午後の講義も特に目立った問題はなく、切丸、文一、そして美雨の三人は充実したキャンパスライフを送ることが出来た。
そして夕刻を少し過ぎた現在、三人は文一が借りているアパートにいた。
勿論、切丸は文一に何かがあった時に対応出来るように、美雨はただの暇潰しである。
アパート、と一口に言っても、なかなか侮れたものではない。
恐らく文一が借りているアパートの家賃を聞いたら、切丸や京介等は鳥肌が立つ程の値であろう。
そう、それはアパートというよりも、マンションと形容した方が正しい代物だった。
「あの~、文一さん。失礼やけど此処の宿の家賃て、一体誰が払っとるん?」
恐る恐る訊く切丸。そんな切丸の質問を、文一は平静のまま答える。
「え? ああ、ウチの親だけどなにかマズイことでもあった?」
予想はしていたものの、やはり仰天は避けられない。まあ、これだけ巨大なら来客が急に増えても問題ないだろう。
切丸達三名は、誘い込まれるように文一宅へと歩を進めて行った。