怪ノ肆「仙宮満彦〜憤り狂う紅い鬼〜8」
目の前で闘っていたのは、仙宮先生と殺人鬼。
闘いの結果は仙宮先生が勝った。飛鳥を殺したあの忌々しい殺人鬼を、仙宮先生は倒してくれた。
でも、仙宮先生は其奴を殺さなかった。
なんで? どうして飛鳥が死んだのに、彼奴が生きているの?
そんなの、許される訳ないじゃないか!
そうだよ、許される訳がない。
先生が殺さないなら、先生が殺せないなら、俺が、俺が…………
――――俺が彼奴を喰らってやる。
彼奴を喰った時の気分は最高だった。本当に最高だった。
身体に力が溢れてきた。こんなゴミクズを喰っただけで、こんなにも力が湧くのなら、皆を喰らったら、一体どれだけの力になるだろう。
ああ、腹が減った。耐えきれない。この空腹を埋められるのは、彼処しかない。
――――――四年四組の教室で、少しばかり腹を満たそう。
きっと、それで俺の空腹は満たされる。
「さあ、愉しい愉しい宴の始まりだ!」
ほんの一瞬、たった数秒目を離した時、男は深紅の死体になっていた。
人が、モノに変わる瞬間。何時見ても気分が良いものではないが、それ以上に、この死体を作り上げた少年に仙宮は驚愕した。
「……京介」
姿は全く違う。合っているのは、恐らく背丈だけ、服も真っ赤に染まっていた。
それが鬼丸京介だと認識できるものが殆んど無い中、仙宮はそれが京介だと何故か判った。
京介は男を喰らうと、すぐにその場からいなくなる。
ヒャハハハと不気味な嗤い声だけが辺りに響く。そこで仙宮は気付く。
――――教室が危ない。と。
予想していた、想定外。
仙宮にとって最低以上の最悪が、此処に起きてしまった。
急いで教室まで駆ける仙宮。然し先の闘いで傷付いた彼の身体は、中々思うように動かない。
その道程は、彼にとって永遠より長い時間に感じた。
仙宮が教室に入った時、丁度それは終わっていた。
京介が、最後の一人、剣乃助の左胸を貫き、その遺体を持ち上げていた。
返り血を浴びた碧鬼の表情は、恍惚に溺れたように嗤い、その瞳は快楽に溢れていた。
「京介、テメエ……」
半ば放心状態のまま、仙宮は京介に呟くように言う。
仙宮に気が付いたのか、京介も仙宮に向き直る。
嗤う京介、憤る仙宮。
静かに、感情を押し殺すような低い声で仙宮は京介に言う。
「オイ京介、テメエ何遣ってんだ。流石に今日は、角が生えるだけじゃ済まねえぞ!」
「ヒャハハハ!
愉しい事を言ってくれるな若僧、ならこの俺にどうしろと?」
嘲笑うように言うそれの声は、最早京介のものではなかった。
京介の中の鬼が、今完全に京介を支配している。
「…………成る程、そういうことか、畜生。
取り敢えず、説教は後回しみたいだな」
面倒そうに、仙宮はそう言って碧鬼に突っ込んだ。
四年四組、欠席、遅刻、及び早退者無し。
………………死亡者、38名。