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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
31/63

怪ノ肆「仙宮満彦〜憤り狂う紅い鬼〜7」

 職員室の中、紫子と剣乃助の二人は仙宮の前に立っていた。

 椅子に腰掛ける仙宮に、俯いた表情を見せている。

 ほぼ同時に、二人は重々しく口を開く。


「「すいませんでした」」


 今にも泣きそうな表情で言う二人に、仙宮はボリボリと頭を掻きながら答える。


「ま、まあ今日はどっちかってぇと俺のが大人げなかったな。

 ちょっと俺の方も色々ショックだったもんで……スマン」


 互いに謝罪をした後、紫子と剣乃助は職員室を後にした。

 仙宮はその姿を見送ると、自身も少し遅れて職員室を出る。その先にあるのは、例のウサギ小屋。

 ウサギ小屋の前には、一人の男が立っていた。

 男は不気味な笑顔を見せ、仙宮を見つめている。


「今日ハ大人カ、一体ドンナ味ガスルノカナ?」


 まるで子どものように嗤って、男は言う。

 ――此奴が飛鳥を。

 仙宮は男を睨み付け、その前に堂々と立ちはだかる。


「テメエ、よくも俺の子に手ぇ出しやがって、角が生えるだけじゃ済まねえぞ!」


 言葉と共に仙宮の姿は陽炎に包まれ、みるみる内に変わっていく。

 陽炎の中から現れたのは、最早人間ではなかった。


 紅い、鋼のような肌。ボサボサの髪はそのままに、額から覗く二振りの角。顔は凶暴な形相を隠すように惣面で覆われている。


「さあ、久々の獲物だ。ゆっくり味わおうぜ、紅鬼(あかおに)。」


 仙宮は独り言のように言い放ち、紅鬼として男と向かい合う。

 満面の笑みを浮かべる男の背後からは、青々とした悪魔の姿が現れる。

 悪魔は厭な嗤い顔を浮かべながら紅鬼の前に舞い降りる。


「ヒャヒャヒャ!! 今日ハ上玉ダナ!!!」


 今此処に、紅き鬼と青い悪魔、憤怒と歓喜の化身同士の闘いの火蓋が切って落とされた。

 先に動いたのは、紅鬼。

 真っ直ぐ、言ってしまえば馬鹿正直に青鬼に向かって突進する。

 青鬼はそれを見るなり嗤い顔を崩さず、意図も簡単にそれを避ける。 

 更には何食わぬ顔で、攻撃に合わせたカウンターをくらわす。


「カハッ!」


 短く渇いた呻き声を上げ、仙宮はその場にだらしなく倒れ込む。

 その様子を可笑しそうに眺める青鬼は、まるで幼子のようにはしゃいでいる。


「ヒャヒャヒャ、大シタコトナイ人間ダ!!」


 仙宮が起き上がるのを待たずに、青鬼は容赦ない猛攻を浴びせる。

 頑強な鎧であるはずの皮膚は傷つけられ、紅の肌から、黒の混じった赤が流れ出す。

 然しそれでも、青鬼の攻撃は止まらない。


「ドウシタ!? ドウシタ人間!? オレサマガ許セナインジャナカッタノカ?」


 残酷に嗤う青鬼の攻撃、その猛襲からなんとか仙宮は抜け出す。

 距離を取った仙宮は、思考した。どうやってこの殺人鬼を倒すか? ただそれだけを。

 血が、止めどなく流れている。然し、これ程の傷を負って尚、仙宮は自身が死ぬことなど微塵も怖れてはいなかった。

 目の前の妖怪と自分とでは性能にも経験にも、圧倒的なまでの差があったのだから。


「死ね、殺人鬼!」


 刹那の間に、仙宮と青鬼の距離はなくなる。

 青鬼が、事態を理解する前に仙宮は青鬼の腹に手を置き、何かを唱える。


「……邪魂強剥(じゃごんごうはく)


 言霊と共に、青鬼は叫び声を上げて吹き飛んだ。


「ヒギャアアア!!」


 青鬼の身体は霧散し、其処には人間の姿だった頃の男だけが残った。

 気を失っている男に、仙宮は呟くように語り掛ける。


「テメエの身体(ナカ)の悪霊は追い出した。

 もうテメエは誰も殺さなくなるだろうよ。

 だけど、テメエが遣ったことまでは消えやしねえ、これからテメエが遣らなきゃいけねえことは、どう今までの罪を償うかだ。それを絶対に忘れんな」


 眠る男に、返事はない。だが、これで終わった。

 きっと、これで飛鳥も安らかに眠れるだろう。


 息を吐き、肩の荷を下ろす仙宮。

 そんな彼の後ろから、不意に声が聞こえた。


「そんなんじゃ甘いよ先生、此奴にはもっと重い罰を与えないと」


 声と同時に、男の姿は亡くなっていた。

 あるのは、ただ血に塗れた肉の塊。

 その横に、それは立っていた。


 悪寒が走る程の嗤い顔、恐怖を感じる程の嗤い声。短く生えた二振りの角、青い、碧い肌。









 ――鬼丸京介の身体を借りて、碧鬼は覚醒した。


「ヒャハハハ!さあ、愉しい愉しい宴の始まりだ!」

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