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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
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怪ノ肆「仙宮満彦〜憤り狂う紅い鬼〜6」

 ……あの日、俺達は泣いていた。

 当たり前のもの、かけがえのないものを失う辛さを知ったから、だから俺達は泣いていた。


 でも不思議と、その日の事はあまり覚えてない。

 雨が降っていたかもしれないし、晴れていたかもしれない。

 どこか必死で、忘れようとしていたのかもしれない。

 それとも、その後の惨劇の方が………

 ――――――俺には忘れられない事だったのかもしれない。


 ただ一つ言える事は、俺は飛鳥を殺した奴を絶対に許せないって事だ。


 だから決めたんだ。皆は俺が守るって、誰にも殺させないって、だって皆を殺していいのは、絶対に俺なんだって、その時までの俺は、本気でそう思ってたんだから。








 惨劇の現場であったウサギ小屋は、その影を完全に消していた。

 紅に染まったウサギ達も、皆真っ白な毛並みに戻っている。

 あの日を思い出させる風景は、もうすっかり無くなり、あの日を思い出させる空気は、今や四年四組の教室だけとなった。

 暗く、重い空気。普段は絶えない笑い声が、今日は一度も出ていない。

 辺りに響くのは、事務的な仙宮の声だけ。

 子ども達にはそれが頭に入っているのか、そんなことも考えさせない程淡々と口を進める声。

 そんな仙宮の声は、子ども達にどれだけ冷たく聞こえたことだろう。

 勿論、仙宮とてショックを受けていない訳ではない。彼は大人なのだ。子ども達と一緒に悲しみに暮れることは許されない。

 だから、なるべくいつも通りの授業をする。

 なるべくいつも通りの環境を子ども達に提供する。

 それが仙宮に出来る、子ども達への精一杯の行為だった。


 然し、その時だった。


 バンッ!と机を叩く音と共に、一人の児童が立ち上がる。

 後ろで一つに結んだ紫色の髪を振り乱し、黒板に目を遣っている満彦を睨み付ける。


「……紫子……」


 立ち上がる少女を見て、京介は呟く。

 立っているのは、飛鳥と最も仲良くしていた少女、鬼束紫子。

 紫子は、その視線を揺らすことなく仙宮に怒声を浴びせる。


「……なんで? なんで飛鳥がいないのに、わたしたちはいつも通りのことしてんの?

 もう飛鳥はいないんだよ? それなのに、勉強なんかできるわけないじゃん!」


 仙宮は黙って聞いていた。

 何か言いたそうな顔をしているがそれでも、やはり何も言わない。

 紫子はそんな仙宮の態度が気に入らなかったのか、また激しい剣幕で怒鳴り散らす。


「飛鳥は、もういないんだよ? みんなとなかよく遊んでた飛鳥は死んじゃったんだよ?

 みんな悲しくないの? なんで普通に勉強できるの? おかしいよ! みんな、おかしいよ!!」


 形振り構わず叫ぶ紫子を、仙宮は黙って見ていた。

 また何かを言おうとした紫子を止めたのは、意外な人物だった。


「止せよ、紫子。そんなにわめいたって、飛鳥は返ってこないだろ。」


 言葉を発したのは、仙宮でなければ、京介でもない。

 破摩剣乃助は、いつもなら絶対に見せない顔で、紫子にそう言った。

 何処かに思い切りぶつけたい怒りを、必死で堪えている表情。京介からは、そんな表情に見えた。


「オレたちがどんなに泣いても、怒っても、飛鳥が戻ってくるわけないんだ。

 オレだって、京ちゃんだって仙宮先生だって、飛鳥が死んで悲しいよ、寂しいよ!

 だからって、それでオレたちがなにもしなかったら、飛鳥だってむくわれないだろ?」


 必死で、多分自分に言い聞かせるように言う剣乃助。紫子はそれを見て、何も言い返せなくなる。

 然し、意地になっている紫子は自分が間違っていることを意識しつつも反論しようとする。


「でも、だって――――」


「テメエら二人後ろ行って立ってろ!!」


 突然、激しい怒りを露にした仙宮が紫子、剣乃助に怒鳴る。

 あまりにいきなり過ぎたその怒声に、教室内の全員が動揺する。

 紫子と剣乃助は呆然と立ったまま、顔だけを仙宮の方へ向き直る。

 二人が此方を向くことを確認もせず、仙宮はまた、話し出す。


「テメエら二人はいつまで授業の邪魔すりゃ気が済むんだ?

 そんなに勉強したくなきゃしなけりゃ良い。

 後ろで頭冷やしてこい!」


 真面目に授業をやらないだけでは、決して怒ることのなかった仙宮が、紫子と剣乃助に対して今までにない程激昂した。

 それは子ども達にとって、とても信じられない光景だった。

 紫子も剣乃助も、沈黙してそれに従った。

 その日の学校は、今までで一番つまらない学校だと京介は思った。








 学校の外には、一人の男が立っていた。


 さて、今日はどの子を食そうか? そんなことばかりを考えながら、其奴は外に立っていた。


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