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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
29/63

怪ノ肆「仙宮満彦〜憤り狂う紅い鬼〜5」

 所で、京介達の通う学校の名は私立神野学園という。

 訳あり、つまり何か特異な能力を所有している子ども逹ばかりを抱える学校で、その為校内で起きた事件に関しては表に出るということは先ずない。

 校外だったとしても、可能であればその事件を抹消する。

 そんな学校であり、京介や剣乃助、紫子、飛鳥もその例外に漏れていない。

 何故今更、こんなことを話す必要があったのか、それはこの景色を見て察して戴きたい。







 ――――ウサギ小屋の前、それは息を引き取っていた。

 引き千切られた四肢は辺りに無造作に投げ棄てられ、本体もぐちゃぐちゃになるまで破壊されていた。顔まで破壊されていて、殺されたのが誰だかはさっぱり分からない。真っ白だったウサギ逹は返り血でどれもその眼と同じ深紅に染め上げられ、其処に初めからあったかのように臓器はウサギ逹の前に散乱している。その臓器にもう温かさは感じられない。

 ――殺人、それは正にそう呼ぶに相応しい光景だ。

 誰しもが眼を背け、顔を覆いたくなるようなその場所は、今完全に立ち入りを禁止されている。


 その中に、男が一人しゃがんでいた。

 仙宮満彦、彼は今眼前にいる肉塊が、自分のクラスの女の子だと思っていた。

 数日前から、その子は行方不明だったのだから。


「間に合わなかったか。いらないはずの、犠牲が出ちまった」


 これから始まる惨劇、その最悪の事態を、仙宮は想定していた。

 否、今自分が想像出来うる中で最も悪い状況を頭の中で再確認しただけだ。それ以上の悪があることを、彼は知っている。

 だから、彼はその時覚悟していた。今以上の最悪に対して、これ以上の災厄に対して、そして、想定以上の罪悪に対して。










 ――――――愛染飛鳥の、遺体の前で。





 翌日、葬儀は学園の中で行われた。

 教師、児童全員が黒い服を着て、約800人の人々が飛鳥を見送っていた。中には泣き出してしまっている子さえいる。

 紫子に至っては喚き、取り乱して、今は保健室に隔離されている。大きく拡大された写真の中の飛鳥は、笑っていた。無邪気とか、無垢とかいう言葉は、きっと彼女の為にあるようなものなんだと、京介は思った。

 そうでも考えていないと、彼はその理性を保てなかった。

 数日前はバカみたいにはしゃいでいたのに、バカみたいにじゃれ合っていたのに、バカみたいに、笑い合っていたのに、なんで、なんで? なんでなんでなんで? ナンデナンデナンデナンデナンデ?


 頭の中で何度も疑問を繰り返す。答えてくれる声などあるわけがない。

 聞こえるのは、壇上にいる先生の放つ、難しい言葉だけ。

 そんな言葉が京介に届くはずがなく、ただ彼にとって無駄な時間が過ぎていくだけだった。

 いつまでも、一緒にいることが当たり前だったのに、バカみたいにはしゃぐのが当たり前だったのに、そんな当たり前が簡単に壊れた。

 悔しさを噛み締める京介の頬に、一粒の雫が一筋の道を作る。

 何も出来なかった自分を、何もしなかった自分を、ただひたすらに悔やんで、ただひたすらに自分を責めた。

 式は滞りなく行われ、夕刻には殆んどの児童は解散した。

 四年四組のクラスの何人かだけが、その場に未だ残っていた。

 無論、その場にいたのは、いつも飛鳥と遊んでいた京介等三人である。

 取り乱していた紫子も今はなんとか平静を取り戻し、焼香を出来るまでには回復している。


「……あす……か……」


 拡大された笑顔の飛鳥に向かって、紫子は呟いた。

 なんとか、本当にギリギリの所で感情を押し殺し、必死で出した一言。

 それ以上は何も言えず、その場に跪いてしまう。


「……あすか……あすかぁ!」


 とうとう泣き出してしまう紫子。

 それを後ろから眺める二人の少年も、やはり涙を流していた。

 今度は、声を上げて、きっと、他人の眼など気にしないで、いつまでも、外が暗くなっても泣き叫んでいた。


 ……その外では、仙宮が立っていた。

 彼もまた、泣いていた。初めて受け持った児童を死なせてしまった責任と悲しみで、声も上げずに、涙を流さずに泣いていた。


 この惨劇の犯人を、決して赦さないと、必ず己の手で葬ると三人に誓いながら、仙宮はその場を後にした。

 その時の彼の姿は、まるで(いか)り狂う紅い鬼のようだった。


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