怪ノ肆「仙宮満彦〜憤り狂う紅い鬼〜2」
周りの子ども達は驚愕していた。いや、唖然としていた、と言った方が正しいかもしれない。
それ程、今眼の前にいる大人が自分達の思い描いていた姿と違うのだから。
その姿は最早不良、ヤクザと言っても良いかもしれない。風貌、口調、おそらく、中身も。
こんな威圧的な教師は他にいるのだろうか?
一番窓際、前から数えても後ろから数えても3番目の席に着いていた少年、鬼丸京介はそう思った。
煙草を吸い終えたのか、男は携帯灰皿を取り出し、煙草を其処へ入れる。
「まあ、自己紹介も済んだことだし、出席、取るぞ。
えぇ〜と最初は………愛染飛鳥! いたら返事しろ〜」
先程の低い、威圧的な声からは程遠い、気の抜けた声で出欠を取り始める男。
一番最初に呼ばれた子は不意を突かれて、一瞬たじろいだもののすぐさま返事をする。
「ハ、ハイ!」
声の高さからいって、女の子だろう。
男が窓際の最前席に眼を遣ると、やはり一人の黒髪の少女が手を挙げていた。やはり女の子だったようだ。
男は愛染飛鳥の出席を確認し、続いて次の子どもの名を呼ぶ。
「良し、次は…………鬼束紫子!」
「はぁーい!」
さっきのか弱い印象からうって変わって、活発な声で返事が聞こえた。
愛染飛鳥のすぐ後ろの、紫の髪をした少女が手を挙げている。
確認を完了して、また次の子どもの名前を、アイウエオ順に読み上げていく。
そして全員の名前を呼び終えると、日誌を閉じた。
――総勢30名、本日欠席者、及び遅刻者無し。
出欠が終わり、一瞬静まる空気。それを破るように男、仙宮満彦は子ども達に語り掛ける。
「良いか、今日からテメエらはこの環境の中で勉学に励む訳だが、まあそんなことはあんまり気にすんな。
俺としちゃ、出来るだけ沢山の友達を作って、沢山の思い出を残してくれれば万々歳だ。
正直俺も教師なんて今年が初めての身分だ。あまり偉そうなこた言えねえが、ま、テメエらと一緒に成長していければ良いと思ってるよ。
これから一年間、宜しくお願いしてくれ」
頭を下げながら言う仙宮、何となく、根拠はないが、この先生で良かったなと、子ども逹は思った。
自然、周りから拍手がパラパラと聞こえてきた。
頭を上げた仙宮は、不器用な微笑みを浮かべて、「何か質問はあるか?」と子ども達に投げ掛ける。すると、一人の少年が手を挙げ、仙宮が指すまでもなく、勝手に話し出す。
「ハイハイ、先生ってお嫁さんとか持ってるんですか?」
その質問に、仙宮は一瞬驚きつつ困り顔で答える。
「……いや、今はいねえな。嫁さんどころか、彼女もいない。
今はフリーだ。」
答える仙宮の表情を見て、子ども逹の顔が変わる。それはきっと、新しい玩具を買って貰った顔だ。
――これはマズイ。仙宮の後悔も遅く、一斉に子ども逹が挙手をする。
「先生っていまなん才なんですか?」
「…………32だ」
「好きな食べ物はなんですか?」
「今は……カレー、かな」
「身長は?」
「……181センチ」
「じゃあじゃあ、体重は?」
「……79キロ」
「………座高?」
「んなもんいちいち覚えてねえ!」
「……短足」
「ほっとけ!!」
「いますきなのはカレー、じゃあ昔すきなのは?」
「テメエら! もういい加減にしやがれーーーー!」
散々な程の質問攻めにみっともなく倒れる仙宮。
その姿を見た全ての児童が満足の表情を浮かべ、そしてこう思った。
――――この大人チョロい、と
そしてたった1日で、見かけ倒しの顔だけ不良教師は、皆と打ち解けることに成功したのだ。
鬼丸京介少年も、勿論その中に入っている。
京介は仙宮を見て、笑っていた。変なヤツに教えてもらう羽目になってしまったと。そう思って笑っていた。
四年四組、総勢30名、欠席者、遅刻者、及び早退者、今日も無し。