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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
20/63

怪ノ参「中井深雪〜終り無き数え唄〜6」

「ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「きゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅう……」


 惨劇の後、残ったのは糸の切れた傀儡(にんぎょう)と幻聴だった。

 被害者の為に命を懸けた人間は消えた。被害者と引き換えに。

 糸の切れた傀儡、中井深雪は嗤い疲れることもなく、心底嬉しそうに嗤い続けていた。


「ハハハ、ハハ……」


 嗤うことに飽きたのか、深雪は誰に言う訳もなく独り言を話し始める。


「これで、これでみんな死んだよ。みんなずっと一緒にいられるよ。朱美」


 ブツブツと念仏を唱えるような声でそう言った深雪の目には、雫が溢れていた。


「これでなんにも怖がることなんかないんだよ。ずっとずっと、一緒なんだよ」


 両の肩を抱きながら、ふるふると震えながら、本当に嬉しそうに、彼女は呟く。


「随分と嬉しそうだな。俺も交ぜてくれよ」


 不意に聞こえたその言葉に深雪が振り向くと、其処には二つの人影がいた。

 一人は男、もう一人は女のシルエット。途端、深雪の表情はぐちゃぐちゃと歪みだす。


 それは彼女が他人に初めて見せた、敵意と殺意の具現化。明らかな害意。彼女はしっかりと男を見据え、男に問う。


「誰だぁ! 貴様は!?」


 男は肩を竦めて、彼女の問いに答えるでもなく語りだす。


「俺が見えてるのか。じゃあ、黒雛の呪はもう解けてるんだな」


 そう言って一歩、また一歩と男は足を進めていく。


「俺の事覚えてないか? 鬼丸京介、お前が依頼に来た事務所、鬼取屋の所長だよ。」


 京介はそう語り、足を止めた。


「今さらなんの用? 私ならこの通り無事よ。だから、アンタの仕事は――」


「まだ終わってないんだよな、これが」


深雪の言葉を、京介は最後まで聞かずに割り込む。


「まだ終わってないさ。式神はその飼主との契約が切れない限り、絶対に消えられないからな」


 京介は笑顔でそう言って、深雪の目を睨み付ける。


「へぇ、そう。じゃあ、早くその飼い主ってヤツを見つけてやっつけてよ。そうすれば、私の命は助かるんでしょ?」


 深雪は言う。バレてはいけない。いや、この時点で既にバレているのかもしれない。然し気取られてはいけない。向こうには証拠が無いのだ。最後まで知らぬ存ぜぬを通せば大丈夫。


 深雪はそう思っていた。然しそれは叶わない策だと知るのに、そう時間は掛からなかった。


「知らばっくれるなよ。此方はもうお前が当事者だって事は解りきっているんだから」


 何の迷いもなく、京介は言う。

 然し深雪もまた、決してそんなことは認めないと食い下がる。


「なに言ってんの!? ワケ分かんない、そんな証拠、どこにあるっていうのよ?

 だいたい私は被害者よ。被害者の私が当事者なんて、三流作家の推理小説じゃあるまいし、そんなワケないじゃない。」


 その深雪の問いに、京介は眼を瞑り、滔々と一人語りだす。




「少し、古い話をしようか。



 ――――今から大体、七、八年前の話、二人の女の子がいました。

 二人の女の子達はお互いにとても仲良しで、何時も何時も二人きりで遊んでいました」


 その話を聞いて、深雪の顔色がみるみるうちに青褪めていく。

 然し京介はそんな事は知らないとばかりに話を止めることをしない。


「二人はずっと一緒にいるものだ。二人とも同じ事を思っていました。…………だけれども、それも長くは続きませんでした」


「……ヤメロ」


 深雪は喉の奥から捻り出すように声を吐く。

 然しやはり、京介は話を止めない。


「女の子のうち、片方が苛めに合うようになってしまったのです。

 もう一人の女の子はその子を助けようとしましたが、苛めっ子達が、『あいつのこといじめないとあなたのこともいじめるから』と言われて、逆らう事も戦う事も出来ず従うしか出来ませんでした」


「ヤメロヤメロヤメロ!」


 深雪はとうとう、耳を塞ぎ下を向いて叫びだす。

 発狂、そんな言葉がぴったりと当て嵌まるような、そんな状態。


 それでも、京介は話を続け続ける。


「……そして、苛められた女の子は卒業式の前日、



 遂に、










 自殺してしまいました」


「ヤメローーーーー!!!」


 泣き叫ぶ深雪、それを見て京介は呟くように言う。


「これが、中井深雪と宇田川朱美の、哀れな悲劇の話第一章。



 そして、第二章。


 生き残った片割れ、中井深雪は苛めっ子グループに復讐するべく、禁忌に手を出してしまいました。

 然し、禁忌には代償は付き物、深雪は代償として、人知れず自殺した朱美の存在を払いました。

 それが其処にいる式神、妖怪『狂骨』」


 京介が指差すその先には、あの女の子が立っていた。

 無機質な笑顔で、きゅうきゅうきゅうきゅうと呟きながら、彼女、いや、それもまた京介を見詰めていた。


「操っている本人と、襲われる標的にしか視えない呪術か、確かに切丸の奴じゃ見破れないはずだな。

だけど俺には通用しない」


 紅い紅い焔を纏いながら、京介は語る。

 否、その姿は既に鬼丸京介の姿ではない。

 紅鬼、それが今の彼の姿、それが今の彼の名、そしてそれが、今の彼の存在だった。


「なんで、なんで私が当事者だって分かったの?」


 深雪は俯いたまま紅鬼に問う。紅鬼は答える。


「何大した事じゃない。

 俺等の事務所には、存在しなくなったはずの人間の情報を存在している時間まで戻って調べられる、反則的な技が使える天才ハッカーがいるだけさ」


 後ろの少女、鬼丸舞を親指で指差しながら、誇らしげに京介は言った。


「そう、そういうこと。

 分かったわ。それじゃあ、アンタは私を殺しに来たのね。」


 そういう事だ。と京介は言い、互いは睨み合う。

 深雪の後ろの幼女は、何時の間にか其処から消えていた。代わりにいたのは、下半身が無くなり宙に浮いている真っ白な骸骨。


 鬼と骨は、互いに威嚇し合うように瞳を合わせる。


「ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうギュウギュウギュウギュウギュウギュウギュウギュウギュウ…………」


「死人を操るのは感心しないが、安心しろ。直ぐに正してやる。

……死人は死人の世界で、平和に暮らせ」

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