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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
19/63

怪ノ参「中井深雪〜終り無き数え唄〜5」

気が付けば2000PVを越えていました。


こんな駄作を読んで戴いて感謝の気持ちで一杯です。


これからも精一杯努めさせて戴きます。どうぞ宜しくお願い致します。

 一台の車が、ある家の前に停まった。

 其処から降りてきたのは二人、青年と少女。

 青年は怒ったような、少女は憐れんだような表情をしている。

 一体何に対して怒っているのか、一体何を対象に憐れんでいるのか。

 それはこれから起こる事?

 それはあの時起きた事?


 青年は、眼前の家の扉に手を掛ける。するとその青年の手へ電流を流し込むように、音を立てて激しい痛みが走った。


「チッ、結界か。切丸の野郎、随分と効果が強いものを張ってくれたじゃないか」


 呆れたように、然し嬉しそうに、鬼丸京介はそう呟いた。








 部屋の中は、異形の宝庫になっている。

 その中でも特に異彩を放っていたのは、一羽の(とり)、その光沢のある黒い羽毛の所為で一見鴉のようにも見えるが、尾羽は長く大きさは鴉よりも一回り小さい。

 黒い鳳は少年の右腕に留まっていた。そしてジッと、視えない妖しを静視していた。

 それを操っている少年は、視えない妖しに対して口を開く。


「何処に居るんやろうなぁ一体。僕には視えへんからなぁ。

 どうしようなかなぁ」


 言葉とは裏腹に、酷く冷たくその声は響く。まるで既に手は打ってあるとでも言うように。


「どうしよっかなぁ〜」


 もう一度、切丸は呟く。呟いて、呟きながら蹲る少女へと歩を進める。


「深雪ちゃん、ちょっとこっち向いて……」


 不意な言葉に、深雪と呼ばれた少女は「え?」と疑問の声を漏らす。

 顔を上げた深雪の前には、朝の時とはまるで雰囲気の違う切丸の姿がいた。


「な、なに?」


 混乱の上に困惑が上乗せされたような、そんな上擦った声を上げて少女は切丸に答える。

 少年はそんな少女の返事を待つこともなく、少女の顔に手を添える。


「堪忍な、ちょっとだけ、暗い思いしてて」


 切丸がそう言うと同時に深雪の視界から何もかもがなくなった。あるのは、闇だけ。


「え? ちょっと、なに? 一体、どうなってんの?」


 追い込まれ続けた深雪は、もう何が何だか分からなくなってきていた。隣の切丸が、然も簡単と言うような顔で、誰にでもなく訥々と説明し始める。


黒雛(くろびな)能力(ちから)は奪うことや。

 だから奪ったんや。あんたを視る為に、唯一あんたを視ることの出来る深雪ちゃんから、その視力を」


 誇るでもなく、半ば自嘲気味に、切丸は言った。

 そして、言葉を紡ぐ。


「せやから視えるで。これから此処は、僕の猟場(かりば)や。」


 はっきりと、眼前にいる霊に向かってそう言った。


 白いシャツの下に赤いスカート、黒い髪を横に二つ結っている少女が、其処に居た。

 一見無害に見えるその少女は、幼女と言った方が正しいかもしれない。然しその幼女の周りには禍々しいまでの障気が立ち込め、それが危険な存在だということをはっきりと物語っている。


「きゅう、きゅう、きゅう………」


 幼女は台本通り、物語通りにその言葉を連呼する。


「ほぉ、随分可愛らしいお嬢ちゃんやないの。

 もっと違う出逢い方しとったら、きっと気に入ったんやけどなぁ」


 無感動に、何より無関心に切丸はそう呟く。そして右手に留まっている黒雛を放すと、幼女に向かって突撃させる。

 ――突撃させる。正にそんな表現が嵌まるように、黒雛は幼女に向かって飛んでいく。

 黒雛が幼女の体をすり抜けると、幼女の腹部からは決して少ないとはいえない量の血液が零れ出す。


「意外やなぁ。幽霊さんでも、血は流れるんやね」


 酷く冷たく、全くの無感動に、切丸はそう言った。

 幼女もその言葉に答えることはなく、ただきゅう、きゅうと機械的に語り続けているだけ。表情すらも、初めて見た時と変わらず薄ら笑いを浮かべている。


 宛ら指揮者のように、切丸は右手を大きく振り上げる。

 それに呼応するかのように黒雛も、幼女に向かって大きく旋回する。


 黒雛の爪が、翼が、その嘴が、幼女の体に一つ、また一つと傷を創っていく。

 幼女は例えるならまるで人形のように、顔色を変えず表情を崩さず、然し避けることもないまま、甘んじているかのように黒雛の猛攻を一身に受ける。


「これで終いや。征け、黒雛」


 切丸の囁きと共に、黒雛は幼女の体を矢の如く貫く。

 幼女の体はまるで紙のように散り散りなって、周囲に四散する。

 ――途端、幼女が消えていく様子を見て、切丸の顔色が変わった。


「……式……神?」


 一瞬だった、切丸が言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、切丸の足元にそれはあった。

 幼女が跳んでいた、その真下にあったはずのマンホールが……驚いた切丸は其処から離れるため、後ろへ跳んで後退する。



 ――そう、後ろに跳んで…


 失態といえばそれが最大の失態だったろう、後退するつもりで跳んだ切丸の足元にはやはり、マンホールが存在していたのだから。


「なぁっ!? んな阿呆な!」


 足元のマンホールから現れたのは真っ白な、無数の細腕、つまり、白骨の腕。それが切丸の身体に向かって、拘束しようと纏わりつく。

 予想以上に強力な圧迫感が彼を襲い、切丸はそのまま穴の中へと沈んでいった。

 主を失った黒雛は、そのまま溶けるように影の中へと消えていく。



 残されたのは、視力を失くした少女だけ。

 少女、中井深雪は未だに震えていた。ぶるぶると小刻みに……


「フ、フフフ。フフフ、フハハハハ!!」


 深雪は顔を上げたかと思うと、突然、狂ったように嗤いだす。

 腹を抱えて、声を張って、そして嗤い続けて、いないはずの切丸に対して語りだす。


「ありがとう、切丸さん。おかげで私、死なずに済みました。

 式神が私を襲おうとしたのは予想外だったけど、まさかあんな方法で私の代わりに呪われてくれるなんて、もっと違う出逢い方をしとけば、惚れていたかも」


 ケラケラと甲高い声で嗤う深雪に、応えてくれる声は既に無い。

 然し、いつでも彼女の耳には、この言葉が聴こえていた。


「きゅう、きゅう、きゅう……」


 何人襲っても、何十人襲ってもその声は変わらない。


「きゅう、きゅう、きゅう…………」


 終り無き数え唄が、彼女の耳に今も谺していた。

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