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鬼取屋  作者: 石馬
第弐幕「鬼取屋」
18/63

怪ノ参「中井深雪〜終り無き数え唄〜4」

 時は遡る。場所は移る。


「んで、どうなってんだ、舞?」


 鬼丸京介は、カタカタとパソコンを操作している彼の妹、鬼丸舞の後ろでそう尋ねた。京介の目を見ずに、舞は答える。


「うん、まだ情報が集まりきってないけど、この事件結構危ないと思います。」


「それって、どういう意味だ?」


 訊かなくても解っているくせに、そう言いたげに舞は京介の方を向く。多分、少し怒っている。


「この事件、被害者はもう既に10人を越えている。」


 静かに、然し強い口調で、舞は京介にそう言った。








 時は戻る。場所は移る。


 ガタガタと音を立てる家、震え蹲る少女、困惑する少年、霊視出来ない霊、在る筈もなく、視ることも出来ないマンホール。

 それを全て確認できているのは、蹲る少女だけ。

 きっと、彼女には聞こえているのだろう。霊の声が、「きゅう、きゅう、きゅう、きゅう……」と、そして霊はこうも言っているだろう、「ねぇ、あなたも跳んでみない?」と……


「イヤ! 私がなにかしたっていうの!

 もう良いじゃない! さっさといなくなってよ!!」


 まるで乞うように、願うように、祈るように少女は叫ぶ。

 視えないそれは答えることもなく、ただ少女を見詰めている。ただ楽しそうに、少女、中井深雪を誘うように見詰めていた。

 その霊を視ることが出来ないでいる少年、天童切丸はただ戸惑うしかなかった。


「あかん、もうなんも分からん。一体何がどうなってんねん?」


 本来彼に備わっている力、それで視ることができるはずの存在が今、彼の眼には映っていない。

 有り得ないものが視えないということが、彼にとっては有り得ないことなのに、何故?

 切丸は思考するが、皆目見当もつかない。こんなことは、初めてだ。眼前の少女は目を閉じ、耳を塞ぎ、奇声を上げて助けを求めている。

 なのに、なのに自分は、何も出来ないでいる。

 ついさっきやっと見せてくれた笑顔も今はもうない。この子に何が出来る?一体自分に、何が出来るというのだ。

 考えても始まらない、切丸は深雪の下に駆け寄り、肩を抱きながら耳元で穏やかに囁いた。


「深雪ちゃん落ち着いて。目を逸らしたらあかん。

 良えか? よく聞き。深雪ちゃん、今その女の子は一体何処に居る?」


 切丸の問いに、錯乱した深雪は答えるでもなく言う。


「どこ? どこって、あれが視えないの? あそこにいるじゃない! あそこよ! ほら、今だってこっちを見てるわ!」


 彼女が指す先には、ただ白い壁あるばかりで、他には何もない。

 然しそれで十分だった。彼には、それだけでもう十分だった。

 どんな妖怪の仕業だったとしても、どんな呪術の影響だったとしても、やっと笑ってくれた、あの笑顔を奪った存在を、天童切丸は赦せなかった。

 切丸は静かに、視えない霊に向かって口を開く。


「全く、敵わんわぁ。せっかく女の子と二人っきりであんなことやこんなことができる思うてる時に、どんだけ空気読めん妖怪やねん、ほんまに腹立つわ。

 ……ほんま、あかんわぁ。せっかく笑った娘の笑顔を奪うんは僕、めっちゃムカツクねん」


 ふっ、と、切丸は壁に向かって右手を翳す。その手には、真っ黒な、然し艶やかな羽毛を纏った一羽の(とり)が留まっていた。


「奪ったるわ、アンタの総てを」


 今まで発したことがない程冷たく、その少年は視えない妖しにそう言った。


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