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伝説の偽者  作者: ひじき
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10話 タイセツなサンカイ

「あやつら、どこへ行ったんじゃ。どこにも見当たらなんだ」

私は、少しはしゃぎすぎたことを反省した。

久方ぶりの来客、それもあんなに面白いふたりが来たものだから少々ハメを外しすぎてしまった。

それにしたって染木の方は分からんでもないが、高峰は諦めて帰るような性質(たち)ではないと思ったんじゃが……

腑に落ちない点に頭を割きながら、私は一階に降り立つ。いい加減に座り疲れたで、一旦は椅子から降り、徒歩で確認をしようとして。


「あれ先輩。随分と余裕ですね。」


私はふと頭上からした声に振り向きつつ、しまったと思った。

らせん階段の上の方、3階へと続く辺りに仁王立ちしているのは高峰りんその人だった。

私に存在をかすかにも気取らせずあんな所まで。それだけでも十分に驚異であり、また脅威足りうるのだが、問題はそこじゃない。


「私、こっちにいますね。先輩は()()()()()がお好きみたいなので、ご自由に飛び回っててください。」


そう宣言して3階へと消えていく彼女に、私の中の警鐘が鳴り響く。


「まさかあやつ、気付きおったのか」


私が3階の本棚エリアを()()()()通路としてしか使わなかった事を。そしてその理由を。

「シャナ!急務じゃ!」

飛んできたシャナに飛び乗り、3階へと全速力で向かう。シャナには申し訳無いが、椅子だからと座ってやる余裕も今は無いんじゃ。

アレを開かれるわけにはいかない。万が一つにも。




「うはぁ本当に追ってくるじゃん。なんで分かったの、天才?」


先輩の慌てた声を聞きながら私は「おそらく3階の本棚にはなにかあるから、そこに逃げ込めば追ってくると思う」とした染木くんに驚きを隠せなかった。


彼、別に特待生でもなんでもないんだよね?信じられない!私一応入学次席の秀才なはずなんだけどなぁ。彼に頭脳で勝てる気がしない。

私のことだって私以上に分かってるし、周りもよく見えてて……いや、頼りになりますよ!?してますけども!!


……負けたくないじゃないですか。

だからこの作戦で見返してやろうと思ったんですよ。彼、私が先輩を捕まえられるとは思ってないみたいだったので。やってやりますよ!


実際には走ってもいないくせに息を切らした先輩が血眼で上がってくる。

1,2階とは異なり吹き抜けではない構造に加えて天井も大した高さがない3階に。

「追ってくる相手を逆に追いかけるなんて面白い趣味ですね先輩!」

「白々しいぞ高峰!」

うわこっっわ。

予想以上の気迫に若干気圧されつつも、そんなに大事なものがあるならここでは飛び回ることも私になにかすることもできないと安心して、そして。


「リオ!!」

油断していた。

「うおおっ!?」

私は女子らしからぬ奇声を発しながら向かい来る大蛇を間一髪で躱す。

「先輩の嘘つき!」

そう絶叫しつつ躱した勢いで、棚の影に隠れて考える。


まず誤算が多すぎる。防衛手段としてなにかあるだろうっていうのは考えてたけど、あってもカラーボールとか黒板消しとか…そういうのかと思ってたのに。あれどうみても大蛇だったよね。超本気じゃん。死ぬよ?あんなのまともに受けたら死ぬよ!?

「嘘つきとはまた子どものような悪口じゃな。私は防衛機構を持たぬとは一言も言っておらんだろうに。」


かっちーん。

先輩が大蛇を使ったことを普通にとぼけるもんだから私頭にきちゃって。

「生物には使えないんじゃなかったんですかその能力!!」

気付いたら棚の影から叫んでた。


「……?ああいや、確かに一度だけ成功した例はあったが……今関係あったかえ?」

「使ってたでしょう今!大蛇にっ!!」

「大……え?」


先までの勢いをなくして疑問符を浮かべる先輩に、でも私の怒りは収まらない。というか、私は先輩の変調に気付いていない。しょうがないじゃん、怒ってるんだもの。


「だーかーらー!!」


とぼけ続ける先輩に対して痺れを切らした私は、隠れることも逃げることも忘れて棚の影から躍り出る。先輩の傍らに今もいるであろう大蛇を指さして糾弾するために。言い逃れができない、完璧な物証を掴むために。


……え?

私は躍り出て指をさした先、そこにあった太く長いモノを見て硬直する。

大蛇じゃ…ない?

「え、あ、ああ。ロープ、ロープか。」

私の勘違いに私よりも早く気付いた先輩が合点に首を振る。そこには馬鹿にしたり笑ったりという感情は全く無く、ただ納得したという満足感があって。

一方の私はというと、もちろん恥ずかしさに悶え苦しんでました。顔が火を吹く勢いで熱くなり、頭の中もオーバーヒート。

かなりの速度が出ていたとはいえ、ロープと蛇を間違えるなんて。小学生じゃないんだし。


〜〜〜っ!!


「いや、ほら。こう見れば抜け殻くらいには見えるし……」

その苦し紛れの慰めが、恥ずかしさで削れた心を更に削るのでした。


「私、今からでも特待生辞退しようかな。」


終いには、私がこの鬼ごっこを受けたときの彼のように地面に両膝と両手をついて涙するのでした。


……ところで、今私なんて言った?

「鬼ごっこ?」


「リオ。」

「っくう!忘れてた!!」

私今、鬼ごっこをしてたんだった!でも追いかける側だったような気がするんだけ、ど!?

容赦なく追撃してくるロープをギリギリで躱しながらの思考は、驚くほど散り散りしていてまとまらない。

「とりあえずっ、捕まっちゃだめだよね。」

なにか決心してたはずなんだけど今は思い出せないから、とりあえず目の前のこれを避ける!それでいいよね!

私は脳内で顔もぼんやりとしている青年に一方的な確認をとって、あとは避けることに集中する。

きっとこの状況はこの青年がなんとかしてくれると信じて。



「って、全然なんとかしてくれないじゃん!それどころか出てきすらしないし!」

避け始めてから何分経ったかな。5分?10分?いや実際にはそんなに経ってないかも。とりあえずはまだ避けれてるけど、正直けっこーギリギリ。このままだと本当に捕まっちゃう。

だから避けながら考えてたんだけど。なんかやばくなったら降りてきていいみたいな。言われてたような。

それでも確証が得られないからこのスペースで逃げ回るしかないんだけどね!彼はどこに行ったんだか!!


右から迫るロープをイナバウアーのように腰をそらして躱し、折返しで逆方向から迫ってくるロープはロンダートの要領で躱し、そのままロープの来た方へ飛ぶ。すかさず追尾してくるロープを、次は棚に手をかけてそこを軸にしてくるっと半回転。頭と足が位置を交換したところで手を離して着地、そのままペタっと地面に体をつけて追撃も躱す。

次には対策を折り込んで迫ってくるロープに、我ながらよくやっていたと思う。でも流石に。

大きく動き回っていたロープに気を取られていた私は、密かに迫っていた細いロープに気が付かなかった。気付いたときには、もう足首に巻き付きそうでーー


「こっちだ、りん!!」


私は呼んだ声の主が誰かもわからないままに、その声が聞こえた方に手を伸ばした。伸ばした手はしかし、少し届かない。あと少しがもどかしい距離。

それを受け止められ強く握り返されたとき、私は思い出す。


「あのときもーー」


「あとは任せろ。」


彼はこんなふうに、不敵に笑っていた。


ご一読いただきありがとうございました。

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