失ったもの
失ったもの
私の失ったもの・・・はなんだろう?
一度、いっとき
意図もなく私の手の内にあり
私を支配している脳が操っていた
いつの間にか何の考えもなく
単に忘れてしまったまま
どこかに置き忘れてきたのはきっと
確かに私に責任があるのだけれどあまり深く
考えたことがないのは多分
さほど大切なものではなかったと
考えるべきなのだろうか
失った物を覚えているのなら
本当は失っていないのかもしれない
形も存在ももうなくなったのに
思い出は心のどこかで
失ったものは失った形で
黄泉の国に囚われたから
追いかけて行くことはできないけれど
亡くなった人も、別れた恋人も
私の時間の中で生きている
お墓まいりに行き、古い手紙を読み
押入れの奥の箱の中の写真を捨てきれず
心の奥底から剥ぎ取ってしまったなら
流れ去ったコメットが残す星屑のように
私は何の存在感も無くなってしまう
私と失ったものとの繋がりは
移り変わる季節のように
春がきて梅の香りとぼんぼりの灯りのように
夏が来て蝉の鳴き声に一日中悩まされるように
秋が来て長い散歩道に降り散る枯葉に足を取られながら
枯れ枝の伸ばす枝の向こうの薄青い空白の空を見たときのように
冬が来てネオンやビルボードの絶え間なく点滅する落ち着かない街に
から風が吹き抜けるように
幸せに思い、鬱陶しく思い
寂しさに掻き立てられ、星が消えた街路で
懐かしさと恋しさに胸が痛くなるとき
赤信号が青に変わるのを待つように
わずかな瞬間がきらめきのように光り
私を安心させる
失ったものとの出会いは
いつも哀しく愛おしい
辛かったことも怒りや憎しみさえも緩和され
懐かしさが夜の帳のように訪れる
水面に浮かぶ満月の穏やかで静謐な夜
鎮魂がいく重にも広がっていく
広がった輪はやがて
ガラスのように滑らかになって
心は静かな朝を迎える
失ったものは何もない




