愚者と呼ばれたぐうたら魔法使いのお師匠様と婚約者から悪役令嬢と言われて婚約破棄された私のスローライフ、いえお師匠様の世話係です。破棄されて3年後に元婚約者が訪ねてきまして…。
私はエミリア・スカーレット、魔女だ。
魔女といっても見習い魔女、魔法の勉強を15歳からはじめたのでスタートが遅すぎた。
「お師匠様、靴下、裏返しておいてくださいといったはずです!」
「あー、忘れてたごめーん、エミリア君」
えへへと笑う男性、年齢は私の父ほどに見える。私のお父様は32歳になったばかりだ。
父くらいの年齢か? と尋ねたときそれは秘密といったお師匠様だったが、何か悲しそうな顔をしたので突っ込みはいれないでおいた。
「婚約破棄されて、断罪の後、辺境送りで偶然隣国の王太子に出会って婚約とか、すごく奇跡に頼らないとだめだよね。この小説」
「恋愛小説に事細かい説明はいらないと思いますが」
私は巷で流行っている恋愛小説をお師匠様が読んでいるのを見て、少し嫌だった。
その主人公そのままの人生だったのだ……3年前の自分は。
「隣国の王太子ではなくて悪かったね」
「お師匠様に拾ってもらえてよかった」
私は隣国の王太子の婚約者だった女です。
顔が地味すぎると文句を言われ、真実の愛を見つけたといわれ、真実の愛の相手をいじめた罪で、婚約破棄、辺境送りになるところだった公爵令嬢で。
辺境送りの馬車から逃げ出し、森で道に迷い野垂れ児ぬ所を師匠に拾われたのだった。
お願いだから弟子にしてくれと頼みこみ、なしくずしに3年が経過していた。まだ見習いだ。
「そういえば君の元婚約者、本部で魔法の依頼に来てたよ」
「……は?」
「真実の愛の相手が失踪したから、行方を捜してくれとか」
「はあ」
私は庶民の真実の恋の相手、メアリさんが逃げたのかと思い至る。
しかし、王太子が行方を見つけられないなんてねえ笑える。
「魔法使いのエミリオさんがいると……」
からんからんと訪問者用の鐘がなり、私は現れた人物にいらっしゃいませ薬の依頼ですか? 声をかけると驚いたように「エミリア?」と聞いてきた人。
私を婚約破棄した原因そのものだった。
「あ、こっちに来ちゃったか、でもどうしてぐうたら魔法使いという称号を持つ僕のところに?」
自分で言うかと思いましたが、それはその通り、すると私の元婚約者はあなたが国一番の魔法使いと聞いたのでときました。
一応隣国一の魔法使いと言われている人ですがね。
そういえば私の祖国は魔法使いがほぼいないから、こっちに来たのか。
「依頼は確か、いなくなった婚約者探しだね」
お師匠様がふわあとあくびをしながら、わかったわかったと頷きます。長い銀の髪、青い瞳の美青年ですが、ぐうたらなので需要があまりない。
「どうして君がここに? 辺境で行方不明になったと」
「お師匠様に拾われて、魔女として隣国で登録しました。だから断罪する! と言われてももうどうにもできないと思い知れ」
隣国までは法は届かないからと師匠に泣きついたのもありました。
私が言うとそうだねとあっさりとそうかいと言う元婚約者のクリス様。
「失踪した理由は?」
「もう周りの人たちのいじめに耐えられないと……」
貴族だったら渡り合えますが、庶民が王太子の婚約者というのなら、王太子が少々頼りないから無理だったかと思う。
「はいはい、まあそれはいいか、えっとそうだね、対価は……君に任せるよエミリア」
「え?」
「君が要求していいよ」
「はい……」
師匠は水晶玉に手をかざし、にこっと笑います。私の弟子入りの時でさえ、笑っていたのだから……。仕方ないなあといって笑ったその顔はいつもと違いましたが。
子供のいたずらを咎める大人の顔だったなあと。
「ほい、ここに隠れてるよ」
さらさらと紙に書いてクリス様に渡すお師匠様、水晶玉に映るのを期待していたのだが、何も映らない。いつものパフォーマンスだったらしい。
「ありがとうございます!」
「対価はどうする?」
「私は無実の罪だった。だからそれを認めて、私に謝罪を」
私がそういうと、確かに君がいじめた証拠なんてメアリが言うだけだったとクリス様は悪かったと頭を下げたが……。
「あとの対価はまた今度で」
私はこれだけじゃないからと言いました。しかしこの人、これだけじゃダメなのかと言いますが、人探しって割と魔力を使うのに知らないとは笑えるというか。
「はい、ではまた後日ということで解散!」
昼寝の時間だと笑うお師匠様、そしてクリス様を見て「惚れた女の一人も守れない男なんて最低だな」と笑いました。
顔を真っ赤にして怒るクリス様。
でもねえ、お師匠様曰く、最低な男らしいですし、この人。
「俺は惚れた女を守り切れなかったが、お前は二人の女を不幸にした最低男だな」
「お前!」
「はいさようなら!」
お師匠様は笑い、指をひょいっと動かすと、とびかかろうとしたクリス様の姿が消えていった。
ああ、しかし少し溜飲が下がったというか。
「それで、後の対価はどうする?」
「そうですね、メアリさんが見つかったら……二人まとめて」
「その時あいつらを呼び出してあげるね」
私はふわあとあくびをしてソファーに横になるお師匠様に毛布を掛けました。
ふふ、あれに対する対価なんてもっともっとすごいものにするにきまっている。
それにメアリさん、あなたの行方がわかったのならこっちのもの。
「お師匠様、私絶対にあの人にもっとねちねち意地悪して思い知らせてやります!」
「うーんはいはい」
私はどんな対価を要求してやろうかと考え、ニヤリと笑ったのだった。
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