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全裸男と全裸女の恋と結婚

作者: 青水

 この町には現在、二人の露出狂が存在している。全裸男と全裸女である。

 彼らはともにサングラスとマスクで顔を隠し、ロングコートを身にまとっている。そして、道行く人々に向かって、ロングコートの内の自らの肉体を見せつけるのである。


 最近、二人は共に露出活動に励んでいる。

 二人並んで道を歩き、道行く人々に向かって、同時に裸を見せつける。あるいは、道の両側から挟み込むような形で、裸を見せつける。


 人々にとって、全裸男と全裸女は恐怖の対象だった。

 彼らが出没する時間帯に出歩く人々は減り、警察の見回りが強化された。よって、露出活動の難易度が上がり、成功率は下がっていった。


「やれやれ」全裸男はため息をついた。「フラストレーションがたまるな」

「ええ、本当に」全裸女は頷いた。「あなた相手に裸を見せつけたところで、欲望は満たされないし……」

「どうしたものか……」


 全裸男の家である。

 外ではないので、二人はサングラスとマスクはしていない。素顔である。二人とも変態の割に(?)端正な顔立ちをしている。年齢はともに二四歳。

 ロングコートももちろん着ていないが、だからといって服を着ているわけでもない。二人とも全裸である。全裸の男女が椅子に座って、深刻な顔をして話し合っている様は、実にシュールで愉快である。


「ねえ、あなた」全裸女は言った。「恋人、できたことある?」

「いや、恥ずかしながら……ない」

「別に恥ずかしがる必要なんてないわ。私だってないのだから」

「ふうん、そうなのか。誰かと付き合おうと思ったことはないのか?」

「そうね……。私のこの性癖を十全に理解して尊重してくれるような人に出会ったことがないから」


 露出癖に理解があり、尊重してくれるような人は、世の中にそうそういないだろう。


「俺も、そうだな」全裸男は頷いた。それから、しみじみと言う。「俺たちは変態で、きわめてマイノリティーなのだな」

「マイノリティーとかマジョリティーとか、そういう次元の話ではないわね。だって、私たちが日々行っていることは、立派な犯罪ですもの」

「それもそうだな」


 街中での露出行為は立派な犯罪である。

 犯罪だからこそ、二人は顔バレしないようにサングラスとマスクで変装するし、警察に追い回されるのだ。


「よき理解者がいれば、付き合いたいのだがな……」


 そこで、全裸男は向かいに座っている全裸女の顔をじっと見つめた。

 二人は同好の士であり、よき理解者でもある。彼女といるときは、素の自分をさらけ出すことができる――。


「もしかして、私?」

「うーむ、でもなぁ……」


 彼女と恋人という関係になってしまっていいものか、と躊躇った。


「別に付き合ってあげても構わないわよ。あなただったら、私は素の自分をこうやってさらけ出すことができるし、本音で話すこともできるから」

「では、試しに付き合ってみるか」

「ええ」


 というわけで、全裸男と全裸女の交際が始まった。

 きちんと服を着てデートをすることもあれば、いつもの格好で露出デートを嗜むこともある。一般的な交際をすることによって、二人の露出欲は低下していった。ゼロになったわけではないが、街中に出没する回数は減っていった。


 今宵は久しぶりの露出活動である。

 しかし、一般人は見つからず、遭遇したのは見回りを行っていた警察官だった。妥協して二人は彼にコートの中の肉体を見せつけた。


「出たな! 全裸男と全裸女!」


 警察官は眼光鋭く、鼻息荒く、二人に向かって走り出した。


「現行犯逮捕してやるっ!」


 手をぎゅっと繋いでいた二人は、若い警察官に見せつけるかのように、見つめ合ってキスをすると、身を翻して走り出した。二人とも学生時代は陸上部(短距離選手)だったので、走るのは得意である。


 警察官を振り切ると、二人は人気のない橋の上で足を止めた。


「久しぶりの露出、なかなか楽しかったわ」

「ああ、そうだな」


 そう言うと、全裸男はロングコートのポケットから小箱を取り出して、全裸女の前でぱかりと開けた。中に入っていたのは指輪である。


「結婚しよう」

「はい。喜んで」


 そして、二人は『全裸男』と『全裸女』から、『全裸夫婦』となった(ちなみに、結婚後も二人の露出活動は続いている)。




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