第八十四話 野宿祭
まあ、逃げるコマンドなんてものMMORPGの世界観のこの世界であるはずもなく。
そもそもどんなボスよりも怖いこの人たちから逃げられる気がしない。
つまり必然的に逃げるコマンドはどっか行くんですよハハッ。
もうあきらめだよね。
実力という権力から逃れられるのは神様くらいだわ。
存在自体が権力の塊だしね。
永遠と歩いてるんだけど終わりが見えない。
正直言うとこの湖東西に長いからズイカに行く時よりも時間がかかるのはお約束なんだ。
円周的に。
だからねー。
2,3泊しないとちょっとあれかな。って感じ。
はぁ。
野宿は嫌だな。
マルアカの魔林よりかは安全だろうけど、動物は基本的に光に集まる。
モンスターともなればより敏感なわけで。
まあ、だから野宿の鉄則としてはさっさと料理して食べて火を消すっていう。
なんだけど、このメンツだからね。
絶対そんな気の利いたことやってくれないだろうなっていうのが、うん。
正直な感想だけどこの気持ちを抱いた直後から勇者様と鬼の威圧が一気に膨れ上がったので一瞬でその考えを飛ばした。
ワタシハナニモカンガエテマセン。
永遠と変わらない景色の代わりに、太陽はどんどん位置を変える。
もう少しで野宿コースまっしぐらかなと思っていると、不意に横にスライムの大群が出現した。
あ、雑魚だ。
そして薬草だ。
カイトさんが反応して動くよりも私が[桜]を放ってスライムを全消しする方が早かった。
黒のエフェクトがキレイに空に消えていく。
空属性魔法を使ってサクッと薬草を全回収する。
よし、貴重な回復薬ゲット。
朱夏が戦闘不能になったら回復の手段が皆無になってしまうからね。
「はっやぁ…」
カイトさんがめっちゃびっくりしているけど、はて、何のことか。
勇者様ならこれ以上の攻撃できるだろうし、あんまりびっくりしないでもいい気がするんだけど。
まあ、決めつけはだめだから、しれっとしとこ。
「…そう言えば、倒した四天王の中で意味深な発言をしていた奴はいましたか?」
フリーズした空気を壊したのは氷人。
話題提供ありがとう。
ロシュさんは「捨てられた」とか「お前も被害者か」とか「四天王を下ろされた」とか。
あれで上級悪魔に色付けたくらいだって?
それはないだろと思ったものである。
「…そっちの‥紅もなんか言ってた?まあ、黒と青の場合、ね」
ルージュとかノアって言うのは四天王、エビルと呼ばれるそれに一緒についてくる二つ名みたいなものだ。金央曰くフランス語らしい。
だからタキト君はロシュさんのことを『紅の四天王』って呼んだんだね。
中二病めいとる。異世界なんてそんなもんか。
「はい、『捨てられた』『お前も被害者か』『四天王を下ろされた』…重要そうなのはそれくらいですね」
「なるほどねぇ。黒は『上には上がいる』『今代はただの悪魔』『本来ならもっと強い』、青は『お前だろうと今代の方々にはかなうまい』『ようやく魔王様が世界を手にする時が来る』だったかな。青のはイラっと来たからソッコーで消し炭にしてやったけど」
あなたでもそういうことはあるんですねと言いたい。
そう言えばポセイドンって割と荒れてる系の神様だったっけ。
「まるで今回はカイトさんが負けるとでも言いたそうですね」
「そうだな~。まあ、俺もその魔王がどれくらい強いのかはわからん。もしかしたらステータスカンストしてたりするかもしれないし。まあ、やれる全力で挑むよ」
ぶれないな。
というか、やっぱり人間だれしも慢心してるわけじゃないんだな。
世界で一位っていう称号を持ってるからちょっとくらい慢心しそうなものだけど。
まあ、レンゴクさんがぎりぎりで負けてるってだけだからちょっと必死にはなるのかな。
そういう意味ではいいライバルを持ってるな。
そんな話をしていたら黄昏時が近くなってきた。
すぐにテントを設営してインベントリから食材もろもろを出す。
同行している二組はそれぞれライナさんとイースさんが調理係になっているが、こっちは氷人が担当している。時々朱夏が手伝うくらいだ。
氷人は女子力がほぼカンストしていると思う。
なんでこんなチート野郎がいるんだと思ったけど、朱夏も料理がうまいから似たもの夫婦だ。
お似合いだな~。
他メンツはテントを設営した後は寄ってくるモンスターをちょいちょい倒している。
まあ、朱夏と氷人が毒と呪いをばらまきまくったのであんまり必要じゃないけど。
速攻で死んでいく雑魚モンスターを見てカイトさんとナカビさんが顔を見合わせていたけど、どうしたんだろう?
まあ、いっか。
星がきれいだ。
そろそろ秋なので、夏の星座も終わる。
こっちの星座もまあまあ覚えた。
だから、その形を見つけた時はちょっと感動する。
カイトさんも遠くの星を眺めて遠い昔を懐かしむような目線で空を見つめていた。
星か。
オリオン座とかもう一回みたいな~。
後天の川。
こっちでも見えるけど、いかんせん地球とは違う感じがする。
ハァ。
懐かしい。
惚けたように空に見入る私を見つめる秋白の目線に気付くことはなかった。




