第五話 初戦闘と初スキルと
フォース国探索から一夜明け、いつも通りの木漏れ日あふれる森の中で朱夏は伸びをして言った。
「てことで今から魔法屋行ってくるわ」
「「「「どういうこと⁉」」」」
魔法を早く手に入れたいのはよくわかるが、まだLvは1のままだ。普通Lv2からだと思うのだが・・・。そんな心配を見て取ったのか朱夏は平然とした顔で
「大丈夫!冗談冗談!今日はレベル上げに行くだけだから!」
「この冗談娘…」
私は木から木へと飛び移り、目測で距離を測りながら言う。なかなかに高所作業なので怖いが、これを取得しないとどうにも戦闘は難しいような気がする。
(現実と同じでダメージは重さ×スピードで決まるらしいからAGI極振りも悪くはないかな…。絶対勝負の前線氷人と朱夏がドンパチやるんだろうけど)
朱夏が説明も早々に拠点を離れようとすると、氷人が止める。
「…この世界死んだら終わるから…俺もいかないと…心配」
「ありがと♪」
性格までイケメンな氷人は今現在最強の矛である。魔法使いが仲間になるのは序章の終盤というのはお約束だが、それはひとえに序盤からだと魔法の使えない足手まといになるだけだからである。
まああの二人なら大丈夫だろう。そう思って、拠点建築の準備に戻った。
拠点から徒歩五分、もちろんバリケード外の森林。初戦闘にしてはなかなかハードルが高いが多分大丈夫だ。それくらい氷人の戦闘面においての信頼はすごい。
周りの茂みから典型的なスライム、そして中盤あたりで出てきそうなゴースト系のモンスターが顔を出す。スライムは割と大きめだが、ゴーストの場合は宙に浮いている。
AGIに振っていない彼らは普通のゲームなら即死に戻りを経験することになるが、そこは現実とゲームの違いである。ゲームの設定上、プレイヤー全員がある程度成長しきった体格とスピードを手に入れている。
赤子との違いはもはや歴然、天と地ほどの差である。
だが、現実に転じてみれば先ほどの推測通りこの世界の住人は基本的には8歳ほどまでステータスを振らず、武器を持つこともない。要するに生まれた時と同速でしか歩けないし走れないのだ。肉体の成長の関係もあって自動的に少し補正が入ったりするが、その効果は微々たるものである。
さて、これを含め考えると彼らは既にこの世界で言うAGIを100ほど保持しているのと同じスピードを持っていることになる。そしてこのあたりのモンスターは雑魚。故に。
「おっそ」
死ぬリスクはほぼ0に近い。
突撃してきたスライムをものともせずに避け、かがんだ瞬間に足元にあった小石をスライムに投げる。見事命中し、それは黒い光となって消え、薬草らしきものが入った袋をドロップした。氷人がそれを拾い上げると白い光となって消える。恐らくインベントリは健在なのだろう。インベントリの確認中、チャンスだと思ったのかゴーストが火球を飛ばす。
だがそれも無意味だ。
「っぶないことするな・・・」
その言葉と共に彼は顔をそらして避ける。装備品の短刀を抜き、ナイフ投げのように投げる。見事クリーンヒットして黒い光を散らして消えた。ドロップ品は特になしである。
今の戦いで氷人のLvは2へと上がる。朱夏もおこぼれを貰っているので経験値は少しずつたまるのだが、やはり貢献度によって違うようでまだLvが上がっている様子はない。
「君のが大概危ないことしてるよ?」
だいぶひやひやしながら見ていた朱夏はそういう。制服じゃなかったらもっと動けるんだろうということを考えようとしてやめた。小石を投げてあの攻撃力でなおかつまだまだ強くなる可能性があることを考えるのに疲れたのだ。
先ほどの戦闘を皮切りに大量のスライムとゴーストが姿を現す。この数は流石に朱夏も参加しなければならない。
「杖だとあんまり攻撃力期待できないんだけどな…まいっか」
「…無理はしないでね」
氷人は剣を抜き、朱夏は杖を構える。
ゴーストが大量に火球を飛ばしてくるが、全てそれぞれで避けきり、朱夏は下でうろうろしているスライムを杖で叩く。AGI同様ATKもそれなりにあるようなものなので割と素早く対処できる。氷人は剣で空中に浮かぶゴーストたちを次々と切っていく。スライムたちは相変わらず薬草をドロップし続け、ゴーストたちは黒い光となって消えていく。
この一団を蹴散らした後には数十個の薬草と氷人がLv10、朱夏がLv5になるほどの経験値が残された。因みに1レベル上がるごとに次のレベルに必要な経験値数はおよそ1.5倍になる。最終的にどれくらいの必要経験値になるのかは後で蒼桜に頑張ってもらうとして、今は戦闘である。
ただ、5分ほど待ってもモンスターは現れない。ここら一帯を狩りつくしたのかもしれない…そう思って氷人は気を抜いた。
ほんの一瞬、気を抜いた。
だが、その一瞬が仲間の命取りになる。
「っ!朱夏後ろ!」
「…!うっそ…」
振り返った時には遅いように思われた。狼型のモンスター_後にモンスター図鑑で“ラーナウルフ”という名前だということが分かった_が朱夏の真上、その体を引き裂かんとばかりにとびかかってきたからである。その爪が朱夏の身体にかかる1秒前。
あの白いパネルが空気を読まずに人工音を鳴らしながら現れたのだ。
(死の間際にのんきに表れたのはすごくイラっと来たけどお手柄だから許す!)
「『渦潮』!」
MP消費を代償にそのスキルはそのモンスターを水の渦に閉じ込め切り裂いた。
これにより、朱夏は初スキル取得と同時に命の危険を回避したのである。
[渦潮:消費MP10]
[水の渦で相手を閉じ込め切り裂く]
「んまあ名前のまんまだけど威力すごいことになってたな…」
朱夏としてはもう少しかわいいものを想像していたのだが、結構あっさりモンスターの身体が切れていたので自分も極振りで異常であることを思い出す。いずれにしろこの5人は異常…もっと言えば人外の仲間入りを果たしたのかもしれないなと思う。
ただ、この時の推測は間違っていない。




