第七十九話 元凶退治終・零の夏の悲劇1
「…死んでも百年後にはこちらに戻ってくるが?」
そこは「そんな簡単に死んでやらん」とか否定文で答えるもんなんじゃないのか、とか思ったけど、よくよく考えればこいつ被害者とか何とか言ってたな。んでタキト君はこいつが加害者だと。
今は地に足付けて、[獄炎焦土]の効果も消した彼は、どこか悔やむような、悲しいような、そんな顔をしていた。
地味に痛かったから助かるけど、なぜ、わざわざ相手の利になるようなことするんだ?
訳が分からない。
タキト君の真正面に立ったまま質問をしている…ってことは。
まさかこいつ自分から死にに行く気か?
「俺も御存命だ、その都度お前の首かっさらっていってやるよ」
「あっそ…。まあ俺も捨てられた身だ。今更自分の身体どうこうされようと気にしない」
はぁ。と短くため息をついたそいつはやけに落ち着いているように見える。
見える、じゃない。
実際落ち着いているのだろう。
「最期に言い残すことは?」
ベタな少年漫画のセリフを吐くタキト君に対して彼は最期じゃないんだがと軽く突っ込み、少し悩んだ後にあーと頭を掻きながら声を発した。
「一応人類の中では俺達って四天王っていう認識だよな」
「そうだが?」
「今代の場合俺らは四天王を下ろされた。故にそこら辺にいる上位悪魔にちょっと色付けたぐらいだ」
…‥。
「はぁ?」
「まあわからんでいい。これを気にするのは勇者だけだ」
さ、殺すんだろ。どうせなら派手にやれよなとタキト君の前にしれっと立つ。
タキト君は迷いがあるような顔をしたが、直後、閃光が一瞬でロシュートの身体を貫く。
倒れる音もたてず、黒い粒子が宙に舞っていく。
その粒子さえ虚空に消えたのを見て、タキト君は一つ浅い溜息を出す。
「とりあえず、帰りましょうか。お話は…その後で」
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オルトさんやガルドさんに過去最高レベルのお礼を言われた後、取った宿で九人全員集まっていた。
タキト君は少し辛そうだ。
朱夏が無理しないでもいいと声をかけたが、ここまで復讐に巻き込んでおいてそれはできないと一蹴し、ようやく口を開き始めた。
「じゃあ、あの日のこと、話しますね」
ゆったりとした口調で始まったその話は、その声音に似合わず、悲しくてやりきれない、苦しいものだった。
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種族以外はごく普通の家庭だった。
イチリア帝国ではこのクォーターと言う表現も当たり前のように使われる。
クォーターだから、ハーフだから、ミックスだから。
そんな差別はどこにもなくて、少しずつ違う見た目は互いに憧れるものだった。
両親は元々冒険者で、俺が生まれた直後に引退して、稼いだお金と少しだけやっている薬草採集や国の中の手伝いなどで生計を立てていた。
リュウヤや、タリィ、フルノも同じようなものだ。
種族ごとに様々な風習があるが、魔族は15歳になったらマントを贈るという風習がある。
一人前の証であり、社会人の特権であり、同時に進路を確定させるものでもあった。
誕生日は6月下旬だから、もう少しあるな、早く時間がたたないかな、なんて、あの時は考えていた。
その過ぎ去ってしまった時間は戻ってこないとは知らずに。
6月5日。
大声で俺を呼ぶ母さんの声。
たたき起こされてなんだよと悪態をつこうとしたが、その言葉は喉の奥まで戻ってしまった。
夜中を指す時計とは反対に、外が嫌な感じに赤く血のような色で光っている。
父さんはいなかったからどこへ行ったと聞けば、空を少し指さされて、手を取られて母と一緒に走り出した。
空を見れば、吐きそうになるほどのモンスターの大群。
その見た目は魔族と酷似しているが、鞭のような尾と背中に生える翼にその考えは覆される。
悪魔種のモンスターだ、と本能的に理解した。
知識はそれなりに会ったからわかるが、わからなくても肌で感じる威圧感がそこら辺にいる雑魚モンスターとは天と地ほどの差がある。
正直言って怖かった。
王城が安全だからと連れられた先にいつものメンバーもいた。
だが、彼らの親御さんは俺の両親と同じようにモンスター討伐へ出向いていた。
母さんも加勢してくると言って外に出ていった。
王城に避難したのは戦えない老人と、力不足の子供。
でも、街の人は全員無事だという謎の確信感があった。
子供らしく現実逃避の夢を見ていた。
その確信はたやすくひっくり返されるなんて、今までの戦いでも大量にあったはずなのに。
一夜明け、街の空が煙で黒ずんでいるのを見て、終わったんだと悟る。
でも、王城の窓から見えた景色とは裏腹に、家に帰ろうと出た門の外は悲惨な光景が広がっていた。
黒くなり崩壊した建物。
赤黒く染まりきった街道。
そして、倒れている大量の人。
上空にたたずむただ一人残った悪魔の姿。
嫌な予感がして俺達は走り出した。
帰る場所へ。
家が焼けたくらいならどうだってよかった。
もちろん家は焼けていた。
だが、近くに急遽設置された簡易病院と、死体が置いてある広場で、全員が絶望した。
呼んでも返事の返ってこない愛しい家族。
原形はとどめていれど、やけどに切り傷、打撲、擦り傷…道にばらまかれた赤黒い液体と同じ色がついているさまは、見ていたくもなかった。
子供ながらに理解した。
ああ、ここは地獄になってしまって、大切なものを奪っていったんだと。
戦いは終わり、過去へ飛ぶ




