第百二十二話 めんどくさい
『で、あいつからの伝言な』
あー、そんなものもありましたね。
そんな現実逃避は当たり前だが相手に伝わるわけもない。
『次の世界一ギルド決定戦は楽しみにしてるってさ』
「遠回しに出ろってことですね」
そういうとうん…と小さく答えが返ってきた。
ほぼ強制参加だというのに念を押してこられるのはちょっと困る。
そして出て決勝戦で戦おうぜと?
レンゴクさんだから、その立ち位置。
もちろんその考えなどナカビさんが知る由もない。
『そして遠回しに俺ら負けるって言われているようなもので』
「ネイルスさん達に勝ったのでまあ…」
口からぽろっと出てしまった言葉でさぞかしはらわた煮えくりかえるだろうなと思ってしまう。
でも、普通に考えればそういう感じに、なるよね・・?
という思いとは裏腹にナカビさんは軽快に笑うだけである。
『まー、そうなるわな。俺としては世界10位以内にはいれるだけでいいんだよ…つーか、もともと強くなることを目的としてギルド作ったわけじゃないからな』
ほお。
ならば普通にそういう感想にもなるか。
だからといって、失礼なことを言ったことには変わりないため、謝罪する。
そうすれば、いいよと軽く笑った。
「ちなみにその理由は?」
『家出目的に決まってるだろ』
でーすーよーねー。
そんなとこだろうと思った………。
さて、あのあとは少し世間話をして電話を切った。
そして、今は所変わってフォース国城下町の職人街にいる。
メラルドさんの店から大体二ブロックほど離れているその店は余計な装飾をしていないが、一発で高級店だとわかる荘厳さがあった。
この店がキースさんの店である。
なんだかここで買うのに躊躇いを持っている自分がいるが、前世でも時々恐ろしいほど高い__といっても1、2万程度だが__服を買ったことはある。
だから、大丈夫だと腹を括る。
そして、軽快なベルの音とともに店に入った。
開店直後だからか、客は一人しかいない。
そして、その客の接待をしているのがキースさんだ。
金髪碧眼で耳が長い。
つまりエルフである。
ちなみにおすすめしてくれたのはマリアさんで、マリアさんの遠縁にあたるそうだ。
つまりクラリスさんの遠縁でもあるわけだが。
そして、お客は常連なのか、親しげに話している。
体が中性的で、声はどちらかといえば男性的で、口調も男性的であることからおそらく男性だろう。
顔は猫の半面で隠されているためわかりにくい。
少し長く黒い髪をまとめている。
格好は庶民のそれと大差ないが、近未来的な感じがする。
どうやら正式な場で着る服装の相談をしているらしく、もうしばらくかかりそうなので私たちは生地や並べてある様々な服を見始めた。
もちろん、キースさん以外にも働いている人はいるのだろうが、現状見当たらないのでこれから来るのだろう。
男性とキースさんの会話を聞いていると、どうやら男性はキリアさんというらしい。なかなか女性らしい名前だが、異世界だしそれもありである。
「あと残りの三人分も頼むわー」
「いつになく無茶振りを飛ばしてきますねぇ」
そんな一際大きい会話と、その後に続く笑い声で、なんとなくこちらもクスリと笑ってしまったのだった。
そして、キリアさんは、あらかた話し終えたらしく、キースさんに会釈して、私たちにも「待たせてごめんな」と軽く謝罪をしてまた軽快なベルの音と共に店を去っていった。
キースさんがこちらに向き直り、あ、という顔をして朱夏を見た。
「マリアが言ってた子達だね、待たせてすまない」
さっきの軽々しい口調ではなく、丁寧な接客といった感じの口調でキースさんは語りかけてくる。
少し長めの髪だが、丁寧に編み込みにされているため、実際よりは短く見える。
余談だが、朱夏は二次元だとロン毛が好きらしい・・・。
ただ、実際結婚するなら短髪の方が好みということで、氷人はそのままにしているようだ。
これで三次元もロン毛が好きだったら割と悲惨なことになっていたかもしれない・・・。
多分氷人の場合似合うんだろうけど。
イケメンだし。
イケメンはなんでも似合うってのは世の摂理だからな。
さて、そんな誰も求めてない豆知識は置いておいて、本題に入る。
私達は、とりあえず世界トップ4のお茶会に及ばれしたというのは隠して、正式な場で着る正装が欲しいという旨を伝えた。あと、ネクタイとかの流用についても。
さすがに隠さないと普通の人には信じてもらえないからな…。
その気遣いあってか二つ返事で了承してもらえた。
気づかいなくても了承してもらえたかもしれんがな。
一応な。
因みに、お茶会は一週間後である。
招待状に日時書いて無くね???って思ったら便箋の裏に小さく書いてあった。
何でこんなことするんだよ。
普通に書いてくれよ普通に。
「じゃあ、明後日にまた取りに来てね」
「分かりました」
明後日ってめちゃくちゃ早いと思うんだけど、そこのところは気にしないことにしようと、五人の中で暗黙の了解となったのだった。