第六話 花言葉に気づけよ
一週間後…
秋白の指導と金央の柔軟な作業によって拠点は半分できかけていた。拠点の部屋割りはそれぞれの希望によって決定し、現在つり橋を渡すために蒼桜が木の上を駆け回っているという状況だった。飛び移るのも慣れてきて、つり橋の板を支えるための紐を持って部屋と部屋の間をジャンプして紐をつけるという作業ももうすぐで終わりそうだ。
朱夏は所持金とLvが魔法を買うのにちょうどいいということで、他4人の希望する属性の魔法も買ってくるといって資金を募った。取得スキル一覧を見るとたくさんの属性が表示されていたため、それをもとに決めたのだ。
「地味に属性多くなかった?」
朱夏が魔法屋へと足を進め始めると紐を持った蒼桜は隣で板を張っている金央に聞いてみる。
「ああ、確かに…無、炎、水、木、地、金、光、闇、雷、毒、氷、聖、霊、空、魔、精霊、霧だっけ…これら何に使うの?」
ごもっともである。
「しらぬ…。まあどっちにしろ朱夏がヒント見つけて帰ってくるよ」
フォース国には魔法屋が多く点在しているが、そのうちの一つ、老舗のエリックに朱夏は来ていた。ただ、入ろうか入らないでおこうかは現在悩み中である。
理由は店前にいる男性である。花束を抱えて入ろうか入らないでおこうか渋っている。
ただ、いつまでも待てるほどやさしい朱夏でもないのでちょっと声をかけてみようと思った。
「すいませーん、此処で何を
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!?」
その男性は振り向く。整った顔立ちと金モールのついた服装からどこかのお偉いさんかなと朱夏は目星を付ける。
「こ、このことは口外禁止で!」
「あ、はい。で、どちら様ですか」
人の恋路よりも魔法への欲望が勝ったためか塩対応になる。その言葉に強く反応した彼は背筋を伸ばし、花束をさっと後ろに隠した。隠すの20秒遅かったなと思ったのは黙っておく。にっこりと笑って彼は自己紹介を始める。
「私、この国で左大臣をしているデルタと申します」
沈黙が10秒。
「はい?」
「よく国外の方から言われます。多分371回目くらいですね」
「くらいといわれてもカウントが具体的過ぎるんですが」
本当にこの人…おっと、デルタさんか。彼が左大臣なのか…と言われたら半信半疑だが、可能性は高いと思う。金モールがついている服を着ている人なんてそうそういないからだ。
私が頭を悩ませている間に彼の後ろに青年がいた。
「左大臣、いらしてたんですか」
左大臣、と呼ばれると恥ずかしそうに手を振る。
「デルタでいいですよ…」
こちらから見て左側の髪が長く、目が片方隠れている。赤のメッシュも入っている髪の間からのぞく目は黄色だ。ファーのような、狐の毛皮のようなふかふかしたマフラーの上には毛に埋もれるように“Ⅲ”と白字で書いてあるひし形の赤いバッジがついていた。そして、この暑い中パーカーとズボン、スニーカーと、なかなか暑めな恰好をしている。腰にはダガーが二本鞘に収まっている。
「ッと…そちらのお嬢さんは?」
視線を自分に移されて少しびくっとするが、返事をする。
「朱夏です…お二人とも花束持ってどうされたんですか?」
「「う゛っ」」
あからさまに変な声を出した彼らになんとなく目的が分かった朱夏はそれ以上聞かずに店の扉を開ける。
カランコロンと音が鳴った。
中は昔ながらの喫茶店といった感じで柔らかい斜光が店内を満たしていた。
一つ違う点を挙げるとすれば、そこは本棚が所狭しと並んでいるということだろう。なかなかに広いこの店の奥にカウンターがあり、そこに一人の少女が座っていた。白髪赤目、肌が抜けるように白いという点から見て彼女はアルビノだろう。初めてみたが、とてもきれいだなという印象を持った。彼女は立ち上がり、デルタさんを見るとにっこりとほほ笑む。
「今日もお花ですか?」
「は、はい。それと少しスキルを…」
少し恥ずかしそうに言う彼と、後ろにいるカザンさんを見て彼女は少しお待ちくださいという。少しすると奥から金髪をサイドテールにした子を連れて戻ってきた。アルビノの子に比べればとてもラフな格好をしている。彼女はカザンさんと私を見てお~という。
「彼女さん?」
「…違うよ。店先でばったり会っただけ」
この子は本当に…とカザンさんは彼女の頭をポンポンとなでる。アルビノの子はデルタさんの接客中なのでいかんせん暇だ。すると、カザンさんの手から抜け出してきた彼女が声をかけてくる。
「私クラリス~!君名前なんていうの?」
(一人称は普通だけど二人称がなんか…しっくりこないな)
「私は朱夏っていうの…ん?クラリスちゃんって…エルフ?」
今まで全体しか見ていなかったから気づかなかったが、耳が長くとがっている。そう聞くと今?とジト目で
言われた。
「そぉだよ~おねーちゃんと私はエルフ!エルフは生まれつき知能《INT》が高いから、魔法戦闘する子と魔法屋をする子に分かれるんだ~もちろん例外はいるけどね」
「ああそうなのね」
ものすごく棒読みで返す。それでも楽しそうに言う彼女はもとよりこういうかんじなのかそれとも・・・・緊張しているのか?
そう考えてあーないないと首を振る。
茶番にも似た会話をしているとカザンさんは手早く花束をクラリスちゃんに渡し、
「集合時間間に合わなくなっちゃうからこれで」
と店を後にした。デルタさんもスキルを買って花束を渡すと店を後にした。
店内には私とエルフ姉妹が残されたわけだが、剪定ばさみの音だけが響いている。
日は高く上ったままだが、窓ガラスを通すと何故か夕暮れ時かと思ってしまう。不思議な気分でボーっとしていると不意にハサミの音がやんだ。
「お待たせしました…私、ここの店主のマリアと申します!以後お見知りおきを」
「朱夏です…よろしくお願いします」
そう言った直後、思わず花を見る。
(マーガレットに白いストック…カスミソウ、キキョウ、ナデシコ…あれこれ全部花言葉愛系統…と、いうことは…。やっぱりあの二人この姉妹が好きなんだな(笑))
ポーカーフェイスでいたつもりなのだが、どうやら顔に出ていたらしく、心配するような眼で見られてしまった。
「お茶でもしながらお話いかがですか?」
マリアさんがそういう。
「ではお言葉に甘えて…」
些細な出会いだが、彼女の存在は彼らの道に大きな貢献をもたらすことになる。
ただ、彼女らはそれを知らず、紅茶とお茶菓子をたしなみながらお互いの身の上話に花を咲かすのだった…。