第3話
「ねえ、イエナ。大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だから、エレノアは向こうに行ってた方が良い。移るかもしれないからな」
「そんな訳ないでしょ!あなたがそんな事信じてどうするのよ」
「でも、否定はできないからな。こんな顔をしてたらな」
イエナは自分の化け物のように腫れてしまった顔を撫でる。そうして、何度目か分からないため息をついた。
職業を授与されてから3年が経った。つまり、イエナに毒術士という職業が与えられてから三年。そうして、その職業は間違いなくイエナの体を蝕んでいた。
「凄い強い毒を作れるのになあ」
毒術士という職業は簡単に言えば、毒を使って戦う職業だった。毒を体内で生成して、それを放出して戦う。控えめに言って、強い。だけど、それも自分で制御できなければ、ただの自傷行為にしかならない。
だから、イエナは毒術士の能力を使う度に、自分の体に悪い影響が出し、顔は半分以上は腫れていて、視力もほとんど失って、体中は吹き出物だらけというような化け物のような姿になっていた。
その為、だんだんと村からイエナの居場所は無くなっていった。最初は、家族と寝室を分けられた事。次は食事を一緒に食べられなくなった事。そして、家から出て行くのを求められた時。
しかし、それも今から考えたらまだマシだ。今のイエナは馬小屋から出る事を許されていないほとんど軟禁状態だ。もしかしたら、次は殺されるかもしれないと思うのも無理もない。
だからこそ、エレノアだけはその村の中では、明らかに異常だった。
「ほら!薬飲んで!」
「だから、薬なんて意味ないって」
「そんなん分かんないでしょ!やってみなきゃ!」
そう言って、イエナの歪んでいる顔を掴んで、薬を流し込む。
「お前、気持ち悪くないのか?」
「何がよ?」
「俺の顔が」
「そんな訳ないでしょ。私、あなたの幼馴染なのよ。」
そうして、エレノアはイエナの住んでいる馬小屋を掃除し始める。もう視力がほとんどないイエナには汚いか綺麗かどうかも分からないのだ。
「ごめんな。掃除なんかやらして」
「良いじゃない。なんか、新婚さんみたいで」
笑い返す気力も起きない。そもそも、エレノアの顔すら見えない。情けないという思いが尽きない。
だから、つい泣き出しそうになった時に、エレノアの声が聞こえた。
「逃げちゃおっか」
「え?」
「この村を置いて、逃げちゃおっか?」
「何を言ってるんだよ?」
「パーティを組むのが少し早まっただけよ。それで、王都に行くのが少し早くなっただけよ」
「でも、お前には家族がいるだろ。お姉ちゃんとか、おばさんとか」
だけど、エステルはゆっくりと
「私はね、イエナが一番大事なの」
エレノアの顔はよく見えなかったが、その時にもエレノアが可愛く見えたのだ。
そうして、イエナとエレノアは15歳の時に王都でパーティ「白の毒」を結成した。