第2話
「ねえ、イエナ!冒険者になるわよ!」
忘れもしない。始まったのは多分、ここからだ。7歳の時に、金髪の可愛らしい少女がそう言い放ってからだ。
「どうしたんだよ?エレノア。急に」
「こんな田舎にいたら、ダメよ!」
身振り手振りを大きく使って、金髪の少女「エレノア」は俺に力説した。
「都会に出て、良いギルド?パーティ?に入って、冒険者にならなきゃダメなのよ!」
「突然、どうしたんだよ?」
「お姉ちゃんがそう言ってたの!さっき、ご飯食べてたら、急に。」
「なんて?」
「お姉ちゃんはギルド?っていう奴の受付になるんだって。それで、S級冒険者の奥さんになるんだって」
だけど、どうにも腑に落ちない。
「その、「S級冒険者」っていうのはなんだ?」
「なんか、凄い偉い冒険者らしいの。国から認められた勇者様のパーティしか、なれないんだって」
「勇者様?それはすげえ!!」
小さい時のことだから、当時はきっと、S級冒険者がなんなのかは分かってはいなかったはずだ。多分、唯一、知っている勇者様という言葉に驚いただけだ。
「それで、そのS級冒険者っていうのは、王都にしかいないみたいで」
「それでね、それでね」
エレノアは少し興奮して、その白い肌を少し赤くしながら話す。
「お給料が毎月100万シルクもあるんだって!」
「100万シルク??って、どのくらいなんだ?」
「えっとね、お姉ちゃんに聞いてきたら、この辺りの田舎だったら、一軒家が100万シルクあったら買えるんだって」
「一軒家?」
「そう!庭付きの一軒家が」
「一ヶ月に一回?」
「そう!凄いよね!」
そうやって、その日はずっと冒険者について話していた。目をキラキラとさせながら。
しかし、それがおかしくなって行ったのが、12歳の時だ。
生きとし生ける全ての人々に与えられる職業。それが12歳になって、授与された時の事だ。
「エレノア・・・・・・・・・は、勇者だ」
村の全員。足腰が弱いおばあさんですらも集まった中で、イエナ達の村で唯一の魔法を使える牧師のおじいさんはそう言った。
「こんな田舎の村から勇者が出るとは信じられないが。しかも、白の精霊?まだ、確認された事のない精霊だと?」
村にお医者さんがいないからという理由で、専門は牧師なのに普段からイエナ達のお医者さんをやってくれている牧師さんという尊敬されている人がそんな興奮した様子だったからかもしれない。
徐々に徐々に周りは騒ぎ出した。「確か、勇者って、一番最後に出たのが2年前だよな?」「そもそも、この村から農民とか商人とか生産系じゃない職業が出たのが初めてじゃない?」とか、そんな風に。
しかし、次の牧師さんの一言で、うるさかった人たちは静まった。
「・・・・・毒術師」
「イエナは毒術師だ」
なんなんだ、それ?毒術士?死霊術士とかの仲間か?
疑問が湧く。でも、牧師さんの言葉はイエナの求めていた答えにならなかった。
「私も初めて見た。毒術士というのは。あいにく、私の知っている術士じゃないが、喜べ。この小さな村から戦闘職が二人も出たぞ。今夜は宴だ。みんなの分の酒ぐらいは私が出そう。」
でも、そうは言いつつ、村の人達と話しながらイエナから離れていく、牧師さんの不安そうな表情が気になって、牧師さんに話しかけようとした時に、服の袖を引っ張られた。
「良かったじゃない!」
「いや、でも・・牧師さんの表情が」
だけど、浮かない表情を浮かべているイエナに対して、当のエレノアはそんな事は気にせずにワクワクした顔でイエナを見る。
「これで、パーティが組めるわね!」
「え?」
「え、何よ?」
「お、お前俺とパーティを組むつもりなのか・・・・お前は、勇者だったんだぞ?」
「そうだけど、何よ?」
「もっと、上の人達とパーティ組めばいいじゃねえか。すぐにS級冒険者になれるぞ」
「はああ・・・」
しかし、エレノアはそんな事を言うイエナにチッチッチッと指を振る。
「それだから、イエナはダメなのよ!そんなんだから、「雑食系男子」なのよ!」
「お前、お姉ちゃんに言われた言葉、もうちょい考えて使えよ」
「あれ、草食系だったかも?ま、まあ、いいわ。とにかく。」
「良くないけどな」
「自分の力で、Sランク冒険者にならなきゃ意味がないの」
「へえ、そうなんだ」
「いや、違うわね。あなたと一緒にだわね。イエナ。」
「俺?」
「そうよ。この村が世界最強のパーティを作ったあなたと私を輩出した村となるようにね。」
エレノアの事を可愛いと思ったのはここが最初で、だから、頑張ってやろうと思ったのだ。
「そうか。じゃあ、頑張るか」
悪夢が始まったのはここからだと言う事を知らずに。