第一話
所々に穴の空いたボロボロの服。はだけた胸から見えている奴隷紋。暴れられないようにと手足を鎖で縛られて、完全に拘束されている姿。奴隷という言葉で表すのにピッタリすぎるその表情。
パックリと開いた傷口も相まって、思わずハッと息を飲んでしまうほどに痛々しい。
しかし、一番気になったのはその少女の表情。その美しい顔に浮かべていた無表情な表情。
明らかに年端もいかない少女には大きすぎる鉄の鎖で縛られているのに対する、怒りでも悲しみでもなく、何にも浮かべていない表情が気になったのだ。
どこか自分を思い出すような気がして。
だから、イエナは「分かりました」と、答えた。
力不足なのは分かっていた。というか、明白だった。
「なあ、いつまで使えない毒術師を飼っておくんだ?このままじゃ、僕たちは一生上に上がれないぞ」
メガネをかけた神経質そうな少年はイライラした口調で話す。
「そんなの、分かってるわよ。あなたに言われなくても私が一番!」
「でも、本当にどうするんですか?いくらエレノアの幼馴染といっても、これ以上は援護のしようがありませんよ?」
可愛いというよりも綺麗な顔をした少女も賛同する。
「そんなの、幼馴染の私が一番分かってるわよ。」
「だとしたら、それはもう幼馴染の甘さだよな?力がないっていう事が明白なのにあいつの事をこのパーティから追い出さないのは?」
いかにも血気盛んそうな、赤い髪の毛をしたをした少年が詰め寄る。
「・・・・・・」
金髪の少女は何も言わずに黙る。
パーティメンバーが作戦会議をするからと言って、宿屋に付属されている小さな部屋に行ったのは10分ほど前だ。
最近は当然のように同じパーティメンバーであるはずのイエナはその作戦会議からは除外されているが、彼らは果たしてイエナが同じ宿に泊まっているのを知っているのだろうか。
いや、知らないわけがないだろう。知っていて、あえてイエナに聞かせる為に、彼らはイエナなどを歯牙にかけないほどの天才たちの集まりなのだから。
「俺もさすがに全部を否定したい訳じゃねえ。あいつが弱いから、戦えない職業だからっていって、追い出したい訳じゃない。確かに、あいつは最初の時はまだ良かったぞ。薬草を作ったり、罠を仕込んだりして、戦えないなりに戦っていた。だけど、なんだよ?あいつの今日の態度?」
「あ、あ、あれは私が悪かったの。私が嫌な事言ったから」
「そんな訳ねえだろ!戦えねえ奴に戦うなっていう事が何が悪いんだよ?」
「それは、そうだけど。でも、イエナに私たちだけでダンジョンに行くから、宿で待っとけっていうのはさすがにやりすぎよ。さすがにイエナも怒って当然よ。」
だけど、メガネの少年はその金髪の少女に真っ向から反対した。
「じゃあ、どうするんだ?これからも僕らはイエナを入れてパーティを続けるのか?彼がいなかった今日のダンジョン攻略はこんなに上手くいったのに?」
今日、言い渡されたのは待機していろという事。難度の高いダンジョンを攻略するという事で、宿で待機していろと言われたのだ。さすがにそれはないだろうと揉めに揉めたのだが、結果から言うと、イエナを抜いたダンジョン攻略は上手くいったらしい。
「意味が分かるか?パーティの中の回復枠のあいつがいない方が上手くいくって言う事は、あいつを庇いながら戦う方が手間がかかっているっていう事だぞ?」
「でも・・・」
そうして、トドメを刺すように別の少女の声が響く。
「それに、ここらが潮時でしょう。イエナとしても。エステルには申し訳ありませんが、彼の力は少なくとも冒険者をやるレベルには達していません。」
そうして、その言葉を聞いて、ああ、もうおれはだめなんだど、イエナは勇者エレノアのパーティを辞める覚悟を決めた。