家族
朝になりアルテシアは目覚め、男装して教会を発った。出掛けに神父から一通の手紙を受け取った。ロンと言う港で働いている男に渡せば良くしてくれるだろうと神父は言った。アルテシアは何度も何度もお礼をいい港へ向かった。
ロンと言う男は港では有名な男らしく港で通り下りの人に聞けば直ぐに居場所が分かった。
恐らくあれがロンの船であろう。近くに行くと男が一人船から積荷を下ろしていた。歳はアルテシアの父よりも少し若い。背は高く体付きもしっかりしており、仏頂面の厳つい顔付の男だったので声をかけるのに躊躇したが、周りをみても誰も居ないので仕方がなく声を掛けた。
「あの‥。」
「なんだ?随分と綺麗なお兄ちゃんがなんかようか?」
「あの、ロン様を探していまして‥‥。」
「ロン様だと!ガッハッハ。で、そのロン様になんのようだ坊主。」
からかわれている事にアルテシアは少し腹が立ったが事情を話した。
「僕、外国へ行きたいんだ。それで教会の神父様にロン様を頼れって言われてここまで来た。ほら、神父様に貰った手紙もある。ロン様に会いたいんだ。ロン様を知らないか?」
「教会の神父だと?坊主、それを早く言え!」
「えっ!?」
「ハッハハ、俺がお前が探してるロン様だ!」
アルテシアはロンに神父様からの手紙を渡した。それを読んだロンはアルテシアにいう。
「おい、坊主、名前は?」
「ルークだ。」
「神父様の手紙の内容からだと行き先が決まってないようだな。よし、丁度、明日から隣国のバガラル国へ出航する予定だ。目的地はそこでいいな。バガラル国なら治安がいいしこの国とも近いから風習もあまり変わらん。住みやすいぞ」
あっさりと事が進んだ事をアルテシアは驚いた。
「他ならぬ神父様の頼みだ。坊主、神父様に感謝しろよな」
「坊主じゃない!ルークだ!」
「悪い、悪い。ではルーク、明日の朝に出発だからな。遅れるな。それよりお前、どこか泊まる当てがあるのか?」
「今夜も教会へ泊めて貰うことにするよ」
「今からだと教会に着くのが夜になるぞ。すぐそこにある、俺の家に泊まるか?」
「それは有難いけど‥‥。いいのか?」
「まぁ、遠慮するな。狭いがエルサの作る料理は美味いぞ。よし、決まりだ!ちょっと待っててくれ明日の準備があるからな」
少し強引だが、ロンに甘える事にした。そして港から直ぐ近い屋根の赤い家に案内された。
「おーい。今帰ったぞ!」
ロンが家の入り口の扉の前の大きな声で言うと。小さい男の子が扉から顔を出して迎えてくれた。
「父ちゃん、お帰‥‥。」
男の子はアルテシアの顔をマジマジと見て叫んで扉の奥へ走って行った。
「姉ちゃん!!大変だー!父ちゃんが父ちゃんが!天使様見たいな子、攫ってきたー!!父ちゃん、人攫いしてきたー!」
「こら!ルカ!待て!人攫いとは何だ!父ちゃんはそんな事しないぞ!!」
「もう、ルカ!母さんが起きちゃうでしょ!!静かにしなさい!!父さんも!」
妹のリリアンと同じぐらいの年の女の子が男の子の首根っこ掴んで家の入り口の扉のところまで来た。
「母さんがやっと休んだところ‥‥」
女の子はアルテシアの顔を見るなり耳まで真っ赤になってしまった。
「と、父さん、本当に人攫いをしたの?」
「バカ言え!するわけないだろう!客だよ客。ルーク、うちの自慢の娘のエルサだ。この落ち着きない奴が息子のルカだ」
「今晩一晩、お世話になるルークと言います」
エルサは顔を真っ赤にして小さな声で言った。
「ルーク様、う、うちで宜しければゆっくりして下さい」
「ありがとうございます。エルサ様」
「なんだ、エルサ、顔が赤いぞ?ははぁーん、そうかそうかルークは綺麗な顔しているからな」
「父さんのバカ!変なこと言わないで!夕飯抜きだからね」
「おい、まだ何にも言ってないぞ。夕飯抜きは勘弁してくれ、明日からまた、海の上なんだぞ。まともなメシが食えなくなるんだぞ」
「もう、知らない!」
家の中に入ると広くはないが綺麗に整頓されている。台所では夕飯の支度の途中なのかいい匂いがする。アルテシアは孤児院にいた頃、食事準備の手伝いはしていたので多少料理はできる。
「エルサ様、私も手伝いましょうか?」
「エルサ様って‥。エルサでいいですよ。ルーク様。」
「ふふ、それは可笑しいでしょう?ルークでいい。エルサ。」
「やだ、私ったら‥‥。では、そちらの鍋の火加減を見てて貰えますか。私は母さんの様子を見て来ますので」
エルサは顔と耳が真っ赤になっていた。
「わぁ〜、姉ちゃん顔真っ赤だぁー。いつもの話し方と違う。変変変変‥」
「ルカ!!あんた煩い!!黙りなさい!あんたも夕飯抜きにするよ!‥‥やだ、私ったらルーク様の前で。」
「ハハハ、君たちは仲がいいんだね。君達のお母様はご病気なの?」
急にエルサとルカが沈んだ顔になった。
「母さんは元々体が弱かったんだけどルカが生まれて直ぐに体を壊してずっと床に伏せてて、父さんがいろんな医者を連れてくるけどみんな治らないって、でも父さんが必ず治せる医者を連れてくるからって‥『諦めるな』って、でも母さんどんどん痩せてご飯も食べる度に咽せて‥‥」
「ごめんね。エルサ、ルカ、辛い事を聞いたね。僕も後で君たちお母様にご挨拶しなくてはね。エルサ、ここは僕が見ているから早く行っておいで。」
「ありがとう。ルーク様。」
どうやらエルサは様付けを辞めないつもりらしい。残りの料理を仕上げてしまおう。少しでもエルサの家事の負担を減らす為に‥‥。
料理が出来上がったぐらいにエルサが戻って来た。
「母さん、今日は気分がいいみたい。今なら話が出来ると思うわ。母さんもルーク様の事話したら会いたいって。えっ、もう夕飯の支度が終わってる‥‥。ルーク様は男の子なのに料理が上手なのね」
「味の保証はないけどね。エルサ、温かいうちに君のお母様のところに食事を持って行こう」