またもや逃亡
アルテシアはいつものように子供達に魔法を少しずつかける為に病室を回っていました。
「シンシアお姉ちゃんが来ると体が軽くなるんだ。薬より凄いよ。」
「あら、ありがとう。でもね。それはお姉ちゃんとの秘密よ。お姉ちゃんは悪い人に追われてるの。きっと、捕まったらこの力を使われてしまうわ。」
「お姉ちゃんはいじめられているの?お姉ちゃんをいじめる奴は僕がやっつけてやる!」
「ありがとう。じゃぁ、まずは必ず元気になってね。」
「うん、絶対に元気になるからね。」
「大丈夫、絶対に元気になるんだよ。」
と、一人一人、話しながら魔法をかけていく。薬と言っても気休め程度の薬である。まともな医者に診せられる程この孤児院も決して裕福ではない。もしここにいる子供達全員を病院の先生に診せようと思ったら孤児院があと2、3軒は建つ金額が必要だろう。それだけ医療は高額なのだ。アルテシアはここを出ていく前にせめてでも全員を治したかった。
(貴族は病気でもないのに高いお金を出して医者を呼びつける癖に不公平だわ。)
と、アルテシアはいつも思っていた。休憩室に戻ろうとするとシスターと男の人の声がした。
慌てて息を潜め話をきく。
「ここに若い女性が働いていると聞いたのだが‥。」
「若いといっても、ここには様々な年齢の子供が沢山いるでしょう?どこからが若い娘なんでしょうか?」
「成人した年頃の娘だ。決まってるだろ。探しているのは美しい娘だ。それらしい娘はいないのか。」
「この孤児院に美しい娘とは騎士様、面白い事を言われますわ。」
シスターののらりくらりとした回答に騎士は苛立ちを隠せないようだ。
「シスター、もし仮にこの場で言った事が嘘だと分かった場合は、王宮から毎年の援助を無くすとの事だ。よく、考えて答えてくれ。」
(シスターダメよ。本当の事を言って!私なんかの為に援助が無くなったらきっと、あの子達死んでしまうわ!薬どころか食事も出来なくなってしまう!)
アルテシアは心底、そう思ったがシスターには心の声が届かなかった。
「騎士様、何度も言っているようにここに年頃の若くて‥‥、」
「どうした?シスター?」
アルテシアは我慢が出来なくなり魔法をつかった。
(ごめんなさい、シスター。)
「娘なら一人います。美しいかどうかは‥。今はここから離れた町まで買出しに行っています。町の教会に一泊してから戻るので明日の朝まで戻りません。」
アルテシアは自分の言葉を魔法でシスターに代弁させた。
「明日戻るのだな。明日の朝にまた来る。」
「はい、騎士様。」
騎士が立ち去った後、アルテシアはシスターの元に寄り添った。シスターは申し訳無さそうにアルテシアを見る。
「ごめんなさい。私の意思ではないの。信じられないと思うでしょうが勝手に言葉がでてしまったの。ああシンシア、私、騎士様にあなたの事を言ってしまったわ。」
「シスター、自分を責めないで。これも神の思し召しですよ。もうこれ以上、ご迷惑をかけられないわ。私は今日の内にここを出ます。」
「シンシア、ごめんなさい。」
シスターは泣き崩れた。
「いえ、シスター、謝るのは私です。最後に子供達の顔を見て行きます。私が出て行く事は子供達には言わないで下さい。」
アルテシアは子供達を一人一人回り、全ての子供の病気を完治させていった。
(これだけ魔力を使ったらきっと魔力の強い王太子殿下にもバレるわね。)
シスターが男の子用の服を持ってきた。
「シンシア、追手から逃れるなら性別を偽った方がいいと思うの。よければこれに着替えてちょうだい。」
「ありがとう。シスター、使わせて貰うわ。」
そして、シスターは、一通の手紙を渡した。
「この手紙を町の教会の神父様に渡せば、1、2日は匿ってくださるわ。」
「シスター、何とお礼を言ったらいいか‥。」
「ごめんなさい。私が貴方の事を話したばかりに‥‥。金品もお金もないからこれくらいしか出来ないけど。」
「シスター、今は言えないけどシスターのせいではないわ。ここに来て充分すぎる程、良くして貰ったわ。いつか恩返しが出来るといいんだけど‥。」
「恩返しなんていいの。さぁ、シンシア時間がないわ。早く着替えて。」
「分かったわ。」
胸は布で巻き付け、上から古びているが白いシャツ、茶色のズボン履き、ローブを纏い、後ろで髪は無造作に結んだ。銀髪は目立ち過ぎるので魔法で黒髪に変えた。アルテシアは背が低い方なので、実際は18歳だが男性として見ると13、14歳ぐらいにしか見えないが準備は整った。
「シンシア、気をつけるのよ。それとさっき子供達を見てきたけど、皆元気になっていたの。急にどうしたのかしら‥‥。えっあなた、髪の色が‥」
「シスター、今は何も聞かないで下さい。いつか話せる時が来たら全てお話しします。この御恩、一生忘れません。」
「事情があるのね。今は何も聞かないわ。必ずいつか戻ってきてね。それまで待ってるわ。気をつけるのよ。」
「では、シスターお世話になりました。子供達にもよろしく伝えて下さい。また、会う日までご機嫌よう‥、」
アルテシアは森へ消えていった。