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孤児院

「行方不明とはどう言う事だ?」


王太子は先程までの笑顔がすっかり消えて剣呑な目で侯爵を睨む。普段の王太子は適度な長さの茶色の短髪、髪と同じヘーゼル色の瞳で整った容姿、背丈もそれなりにあり何と言ってもスタイルがいい。令嬢も虜になってしまう。そんな美丈夫が怒りに満ちると恐ろしい。

王太子の魔力もまた強い。2属性の持ち主で水属性と風属性を持っている。その気になれば余裕で一国を一瞬にして凍らせる力がある。

侯爵は流石に震えた。魔力の圧力だけで殺されるかと思った。


「昨夜の晩餐までは屋敷にいた事は間違いありません。侍女達が確認しております。」


「では、アルテシアは何処へ行ったと言うのだ?」


侯爵が答えに戸惑っていると騎士の一人が答える。


「昨夜からはアルテシア様らしき人は見ていないと、護衛騎士全員から報告を受けましたが‥‥。関係無い内容かと思われますが‥‥。」


「何でもよい。知ってる事を全部、報告しろ!!」


「はい。今朝早くに、侍女らしき者が自分の親が危篤だから急いで家に帰らなければならないと裏門から出て行った者が一人。」


(間違いない。アルテシアだ!)


王太子は直感で思った。

侍女の振りをして出て行ったと言う事は誘拐ではないな。どこかの男と駆け落ちか、いやそんな筈はない。王宮にいた頃はしっかりと監視をしていた。そんな報告は受けていない。


「港を塞げ!年頃の令嬢を調べろ!下町の娘もだ!あれだけの美姫だ!直ぐに分かる筈だ!草の根分けてでも探せ。何かあれば私が直接行く!」


護衛の騎士は返事と共に慌てて散って行った。


(何故、私から逃げたか皆目見当もつかないが逃れられると思うな愛しのアルテシア。直ぐに見つけてやる。)


一方、アルテシアは孤児院の所へ駆け込んでいた。シスターには親に身売りをされそうだったので匿って欲しいと頼んだ。あながち嘘ではないので余り良心は痛まなかった。シスターは大層同情して快くアルテシアを受け入れてくれた。ここの孤児院は、両親を亡くした上に持病持ちで引き取り手がない子達や親が生活苦で病気の子を育てられなくなった子達が送られてくる。


ここに来て1か月が経とうとしている。孤児院ではシンシアと名乗っている。

子供達の看病をしながら聖属性の魔法を少しずつかけて行く。アルテシアは身体の部分的再生までも容易にできる。本当なら魔法で一気に治せてしまう病ばかりだが、大量の魔力を使った事がバレてしまうと父達に居場所がバレてしまうので少しずつ治していく事にした。薬が効いていると思わせる必要がある。


「シンシアが来てくれて本当に助かるわ。子供達も喜んでるわ。病は気からっていうけど病状も良くなっているし。」


「私は何もしていませんわ。逆に子供達から活力を貰ってます。元気になっていく子供達と過ごせて幸せですわ。」


「本当、貴方は見た目だけでなく心まで美しいのね。」


「そんな事はありません。私だってやましい心を持っております。」


「まぁ、ごめんなさい。辛い顔しないで、人は全て完璧に美しい心だけの持ち主はいませんよ。だから何度も失敗したり誤ちを繰り返しては立ち直るのですよ。」


「シスターのお言葉にはいつも救われますわ。」


ここにずっといたいとアルテシアは心の底から思った。父も国王陛下も王太子殿下も早く私を忘れて欲しいと願った。

しかしそんなアルテシアの願いも叶わず追手は直ぐ間近に迫っていた。


そして王宮では、アルテシアが逃亡して1ヶ月が経とうとしている。国王の執務室では焦った国王とアッシュレの姿があった。


「アルテシアが消えてから1か月。もし聖女が遺体で見つかったりしたら一大事だ。仮に他国の手に聖女が捕らえられたとしたら、考えるだけでも恐ろしい。その前に聖女は神に選ばれた愛しの人だ。きっと何かあれば神の怒りに触れるであろう。やはり、あの時に無理にでも王宮へ連れて帰るべきだった。」


国王が顔を真っ青にして嘆いている。


「そもそも、私がリチャード伯爵令嬢になびいてしまったのが悪いのです。幾ら魔力を持った女性は貴重だったからといって。」


そう、アッシュレの逃した魚は大きかった。


「ああ後悔の言葉しか出てこないとは国王としてなさけない。」


「しかし不思議ですね、父上。アルテシア程の強い魔力なら感じとれる筈なのですが‥。アルテシアはあの神託で初めて聖属性の魔力が目覚めたのですよね。」


「うむ、そうだと侯爵から聞いている。確かに不思議だ。あの神託以来、私もアルテシアの魔力を感じない。」


「あの強い魔力を使いこなすには相当な訓練が必要ですよね。」


「そうだな、もし魔力を隠しているならば結界を張らねばならん。結界を張るには魔導士でもかなりの上級者でないと無理だな。しかもあの魔力量だ。相当強い結界でないと隠せないな。」


「憶測ですが、もしやアルテシアはもう随分前から聖属性の魔力が使えたのではないでしょうか?何処かで魔法の練習をしていたとしたら。聖属性の魔法を訓練する場所として考えられるのは、病院か孤児院が適当な場所かと思います。」 


「なるほど、病院はともかく孤児院はほぼ町外れにあるな。」


「我々がまだ、探してない所です。アルテシアがいかにも隠れ家に選びそうな所ですね。そこを見逃してたなんて僕達は間抜けでした。はっはっは。やられましたね。」


アッシュレはお腹を抱えて笑った。


(アルテシア、僕を出し抜けるのは君ぐらいだよ。君はやっぱり最高だね。)

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― 新着の感想 ―
[一言] その最高な女を婚約解消したんけ?オマエ。阿呆だな。王子オマエ(๑╹ω╹๑)
[一言] アルテシア頑張れ! 王子からにげろ~
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