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逃亡

なんて、勝手な人達なの?


そして横にいる父をみると歓喜で震えている。


「なんて、ありがたいお言葉。喜んで陛下の仰せのままに致します。」


父は迷わずに答える。なんて調子がいいんだろう。昨日までは修道院に行く事を賛成していたのに‥‥。

聖女でなければ、私の為に涙を流したのであろうか。

昨日も、捨てられて帰って来ても同情の涙一つ流さなかった癖に。

このままだと王宮に連れて行かれてまた飼い殺しだわ。こんな自分勝手な人達のために聖なる力を使いたくない。こんな見返りばかり求める人達の為なんかに‥‥。


アルテシアは怒りから声を振り絞った。


「お待ち下さい!!このまま王宮には行けません!!せめて最後に家族と過ごすお時間を頂けないでしょうか?」


父はビックリして固まった。私がどんな形にしろ声を上げて意見を言ったのは初めてである。勿論、家族と過ごしたいなど心の隅にも思ってない。

王宮に行けば必ず閉じ込められる。まだ、自宅の屋敷の方が逃げる機会がある。

父が我に返り青筋を立てて怒鳴る。


「アルテシア!何を言う!折角の国王陛下のご厚意を無駄にするのか!!仰せの通り王宮へ行かせて貰いなさい!」


「まぁまぁ、侯爵殿。アルテシアの言う通りだ。警護の方は多少心配だが、王宮から手配しよう。明日一番に迎えを寄越すから、家族との時間を味わって来なさい。」


「アルテシア、明日は私が直々に迎えに行こう。昨日は心が切り裂かれるような思いだったが、神はやはり私達の事を祝福しているようだ。明日を楽しみにしているよ。」


王太子殿下も満面の笑顔でそんな事よく言うわ、一度捨てた癖に。


「ありがたき幸せ。」


と皮肉を込めて言った。


屋敷に戻ると今度は、母とリリアンが待ち構えていた。


「アルテシア、なんて事でしょう。貴方が聖女なんて夢みたいだわ。我が家が二人も魔力を持った子に恵まれるなんて。」


「アルテシアお姉様、私、聖女様の妹になれるなんて本当に夢を見ているみたい!社交会で自慢するわ!」


「そうね。きっと、貴方にもいい縁談が舞い込んで来るわ。だって、聖女様の妹ですもの。もしかしたらアルテシアは王太子妃殿下になるかもしれないわ。」


「わぁ!!凄いわ!!次の夜会が楽しみ。」


と二人で会話を楽しみながら私をギュギュっと抱きしめてくる。


(結局、自分の事ばかりじゃない。)


母や妹の発言は貴族の女性達であれば当たり前の言動であろう。特別に悪意のあるものではない。わかっているけど私は逃亡の決意を固めさせられる。

体調が悪い事を理由にして部屋へ下がらせて貰った。別に私が居なくても話が盛り上がっていたのでその場から容易に抜けられた。


部屋に戻り直ぐに侍女達を下がらせた。

一番軽くて目立たなさそうなカバンに地味なドレス2着、お忍びで修道院に行っていた時に着ていたワンピースを3着ぐらいつめた。ドレスは何処かで売れば幾らかのお金にはなるだろう。あまり高価なドレスや宝石だと足がつく。なるべく少なく荷物を纏めた。

現金はアルテシアは余り持っていなかった。貴族の令嬢はお金を使う機会が少ないからだ。


(大丈夫、このお金すら持てなくても生きている人は沢山いる。私は恵まれてる方よ。)


朝方なら警護も薄くなってるいる筈。いつものお忍びに行くときのワンピースに着替え、髪は銀髪が目立たない様に後ろで纏める。アルテシアは朝方までワンピースのまま仮眠をする事にした。朝日が登る少し前に部屋を出ようとしたが、いつもはいる筈がない騎士が扉の外で護衛していた。


(きっと、王宮からきたのね。)


ここは2階、魔力で自分自身に強化の魔法をかける。カーテンを外しロープ代わりにバルコニーに結び部屋から抜け出した。


裏門の方へ行くとそこにも騎士が配備されていたが、私の顔までは知らないようだ。侍女の振りして抜け出す事は容易であった。


行き先は決まっている。何度かお忍びで通った孤児院である。聖属性の魔法を何回か使って子供達の病気を治した事がある。

そこのシスターは温厚な方なので暫くは匿って貰えると思う。

勿論、身分を隠して訪問しているので父達にバレる事は無いと思う。

孤児院へ足を向けた。


一方、アルテシアの屋敷は朝になって、侍女達が王宮に上がる為の準備でアルテシアを起こしに行ったが、部屋から返事がない。部屋の中にアルテシアがいない事に気付いたのはもう日が高くなった頃である。アルテシアが居なくなった事に侯爵は慌てふためき、屋敷の執事やメイドに八つ当たりで怒鳴り散らし途方にくれた。部屋を調べても特に部屋から持ち出された物はなく、高価なドレスも宝石も荒らされた形跡はない。

しかし、皆、古いドレスやワンピースが数枚無い事に誰も気が付かなかった。

間もなく王太子殿下の馬車が到着し、ご機嫌で降りて来たが侯爵の姿を見て怪訝な顔になった。侯爵の出迎えにアルテシアが隣にいない事で良くない状況を察したようだ。


「侯爵殿、私の見間違えでなければ、アルテシアが居ないように見えるが‥‥。何処か体調でも崩したのかな?」


「王太子殿下、大変申しにくい事ですが、今朝程から姿が見えず行方不明なのです。」


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― 新着の感想 ―
[一言] 聖女を軽んじて聖女に棄てられた惨めな国として世界史に名を刻むんですね。わかります。
[一言] 主人公も勝手ですよね 自分の事は全肯定、一切悪くない そんな自分自身を振り返れない主人公がなろうで流行りなんですかね
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