聖女の恋人
クラウドはアルテシアにまだ話したい事があったが、無理矢理ソフィアに腕を引っ張られて、庭に連れて行かれた。
(アルテシアに何を話すと言うんだ。身分も全てを明かせばアルテシアは、受け入れてくれるのか?彼女の事だ、受け入れるくれるが身分を明かせば妹が人質みたいになっている事に気付くだろう。話せないな…)
と思い直し、クラウドは冷静になり、ソフィアの方を見た。クラウドは妹の事を思い出す。今のソフィアのように腕をに手を絡ませよく話しかけてきた。成人の女性だと言う事を忘れそうになる。
「お兄様、お名前は?」
「クラウドだ」
「名前で呼んでいい?私はソフィアよ」
「好きに呼べばいい。では、ソフィア嬢」
「ソフィア!」
プックと頬を膨らませて言う。クラウドも思わず笑いが溢れる。
「では、ソフィア、今から何処へ行くんだ?」
「朝のお散歩よ!パパの許可なら取ったわ」
「その割には使用人の姿見えないが…どうせ黙って出てきたのだろう?今頃、使用人達も探しているだろうな」
「エヘヘ…」
クラウドは少し困った顔をして溜息吐く。部屋に篭ってばかりでたまらないのであろうと思い、クラウドは折れる事にした。
「仕方ない少し歩いて戻るか…今日はハルクが戻る日なんだろう?」
ソフィアがまた頬を膨らませて機嫌が悪くなる。
「どうした?嬉しくないのか?」
「それは嬉しい決まってるわ!昨日から眠れないぐらい!でも…あの綺麗な人が突然来て…ハルクお兄様の恋人なのかしら?」
「違うと思うが…なぜ、そう思う?」
「それは…ずっと長い間ハルクお兄様は帰って来なかったわ。あの人が来た途端に帰って来るって!きっとパパに言って婚約者にさせるつもりなのよ!ハルクお兄様が奪われてしまうわ!」
「ソフィアは随分とませた事を考えるのだな。いや?ませてないのか?ソフィアはいくつなんだ?」
ソフィアはクラウドの問いに戸惑う、今まで自分の年齢も聞かれた事も無かった。最近では使用人は鏡もあまり見せてくれない。ソフィアも見たいとは思っていなかった。
「私の歳…知らない…」
ソフィアと呟くと両手を口に当て段々と青ざめて震えている。クラウドが異変に気づき慌てて誤魔化す。
「いや、私も君ぐらいの妹がいるから…きっと妹と同じ歳ぐらいだろう」
実際はクラウドの妹よりソフィアは遥かに年上だがソフィアの精神的年齢それぐらいだとクラウドは推測した。ソフィアは現実を突きつけられると混乱するようだった。
「クラウドには妹がいるの?」
どうやらクラウドの思惑通りに話しが反らせた。
「ああ、普段は従順らしいが俺の前だとソフィアと一緒で我儘になる」
「ねぇ、クラウドはあの人の従者なの?」
「あの人…アルテシア令嬢の事か?」
「多分…一緒にいた綺麗な女の人!」
「それならアルテシア令嬢の事かぁ。いや違う、仮の護衛?って、ところかな?」
「護衛?クラウドは恋人ではないの?」
「な、何を、突然言うんだ!」
クラウドがソフィアの言葉に顔が真っ赤になる。
「えー違うの?あんな綺麗な人がもし恋人もいなかったらきっと…ううん、絶対にハルクお兄様を取られてしまうわ!ねぇ、クラウド、アルテシア様は恋人はいないの?あれ…クラウド、顔が真っ赤だわ。どうしたの?」
クラウドは一瞬、アルテシアに恋人だと?と考えたが、つい最近まで男装をしていてその前はアッシュレの婚約者だった。まぁ、いないだろうと心の中で安堵していた。
「何でもない。いないと思うぞ。それに、全ての男が容姿が綺麗なだけで惚れるわけでもないぞ。」
クラウドは照れを隠すために空いてる片手で口元を覆う。
「恋人がいないって事は、アルテシア様は性格が良くないのね」
「性格は悪くない!」
クラウドは思わずムキになって声が大きくなった。ケラケラ笑うソフィアを見て完全に失態を晒し事に気が付いた、クラウドは酷く落ち込んだ。
「へぇークラウドの片思いね」
クラウドは耳まで赤くしてソフィアを睨む。
「そんなんじゃない!生意気だぞ!」
「エヘヘ…いいなぁ。いつか私も王子様みたいな人が現れて迎えに来るといいな…」
「だから、そんなんではない。まぁ、ソフィアなら求婚する相手が幾らでも現れるだろう。この屋敷の中に閉じこもっていたら自由な恋愛は無理かもしれないが…」
ソフィアは儚げにクラウドを見上げる。
「ここから出たらパパは悲しむわ。やっぱり王子様は諦める」
クラウドは何処か寂しいそうなソフィアを見る。次に顔を上げるとアルテシアがテラスで座っている姿が目に入った。
アルテシアはクラウド達の方を見て和やかに笑っているがクラウドには泣いているようにも見える。
何故、悲しんでいるのだろうか?僅かに離れていた間に何かあったのであろうか?クラウドはアルテシアの事が心配になりテラスの方へ向かう。
アルテシアは席を立ちクラウド達の方に歩いて近くとソフィアの前で片膝を付き両胸の前で腕をクロスさせ挨拶をする。
「ソフィア様、ご挨拶が遅れました。私、アルターナ国、ロレーヌ侯爵家の…」
「アルテシア様ね。知ってるわ!」
ソフィアが言葉を遮るように言う。アルテシアが驚いた顔をしていると老執事が慌ててソフィアに駆け寄って来る。
「ソフィア様!旦那様に言いつけますよ!」
アルテシアは執事を止めると、
「いいえ、わたくしもソフィアにご挨拶が遅れてしまいましたので…」
「しかし、アルテシア様は旦那様の大事なお客様です」
ソフィアが頬を膨らませて俯きながら言う。
「私、やっぱりアルテシア様の事が大っ嫌い!綺麗で優しいなんて好きじゃない!」
「ソフィア様!」
老執事はがソフィアを咎めるようと更に言おうとするとアルテシアが老執事を止める。
アルテシアは嫌いと言う言葉に戸惑ったが、理由が可愛らしいと思って思わず微笑んでしまった。今の過去に囚われた生活でなくソフィアには解放された幸せな生活して欲しいと思った。
「ソフィア様、しかしながら私は貴方様を好きになりました。とても愛らしいと思います。お心がとても素直なのですね。そして、人のいいところを素直に受け止めれる聡明さに感服しましたわ」
「聞こえなかったの?私はアルテシア様の事を大っ嫌いと言ったのよ?」
アルテシアはソフィアのむきになる姿を益々、愛らしいと笑いが溢れた。
「しかしながら、大っ嫌いと言いながらそのまま貶さずわたくしを褒めて頂きました。とても嬉しいですよ」
ソフィアは自分の言った事に後悔したがこれ以上、口ではアルテシアには勝てないと悟り黙り込んでしまった。
「ソフィア様、貴方がこの屋敷に閉じこもっているのは私は良くないと思います。ソフィア様はもっと外に出てソフィアのよさをもっと多くの人に知ってもらいたいです。外に出るには、ほんの一時、お辛いかも知れませんが今の殻を破る必要があります」
ソフィアは顔が強張り後退りをする。
「何を言っているの?私は今の生活で充分よ!やめて、パパが悲しむわ!」
アルテシアは優しく微笑み更に話し続ける。
「ソフィア様はやはり心が清らかでお優しいです。全ては伯爵様の為だとご理解されています。ではソフィア様のお気持ちはどうでしょうか?ソフィアの解放される事で伯爵も過去から解放されるのではないでしょうか?ソフィア様の本当のお気持ちをお聞かせ下さい。私ならソフィア様をお心を解放する事が出来るかも知れません」
「私は…」
突然の提案にソフィアは答えに戸惑う。アルテシアもレナルド抜きでゆっくりとソフィアと話せる機会が早々ないだろうと思い引く気はなかった。ソフィアはチラッと老執事を見る。老執事は優しい目でソフィアを見守っていた。アルテシアに目線を戻すソフィアはアルテシアを嫌いと言ったが実際は嫌いではない。アルテシアは何もかも知っていてソフィアの全てを包み込む様な気がした。ソフィアはアルテシアを受け入れたら全てが変わってしまう事が怖かった。
「ソフィアの嫌がる事は致しません。ただ、伯爵様とは関係なくソフィア様にどうしたいか選んで頂きたいと…」
「私が選ぶ?いいの?本当の気持ちを言っても言ってもいいの?お父様は悲しまない?」
アルテシアは誰も咎める事ないと言って頷く。ソフィアは今まで我慢していた事を吐き出した。
「本当は鏡を見る度に嫌だったの。外にもいっぱい出たい!でも、私は病気だからきっと他の人は変な目で見るわ。大人の姿の自分が…でも大きくなる度にパパが悲しい顔になるの。私は大人になっていけない。小さい頃の事もハルクお兄様の事も覚えているのにお母様の事だけが思い出せない…。本当の私なのに私じゃないみたい」
目に涙を浮かべながら必死に訴えてかけるソフィアをアルテシアは思わず抱きしめた。
「ソフィア様も伯爵様もずっと苦しんできたのですね。伯爵様はソフィア様の成長が悲しかったのではないのですよ。ソフィア様の悲しい記憶が解かれるのを恐れているのです。しかしながらソフィア様を乗り越えられる強さがあります。本来のソフィア様が解き放れる事を恐れないで下さい。過去と向き会って下さい。ソフィア様の気持ちは良く伝わりました」
一度、アルテシアは抱きしめていたソフィアを解放すると神に祈り捧げ始めた。
「神よ、私たちが命である愛のよきおとずれを宣べ証しすることを決して妨げないよう、愛のしるしを識別することを得させて下さい。そして、私たち自身もこの愛に生きるために過去に捕らわれない者として下さい。私たちが過去と立ち向かう勇気と力をお与え下さい」
アルテシアが神に祈り捧げると神力のがアルテシアから溢れ出すように光が溢れ出す。
ソフィアは何かを思い出したように青ざめていく。
「ごめんなさい。お母様、私…、私だけ助かってごめんなさい。叫び声が聞こえたの!みんな、苦しんで死んでいった…何も出来なかったわ。ごめんなさい」
そして、何かの異変に気付いたのかレナルドが走ってソフィアの元へやって来るとアルテシアとソフィアの姿を見つけて叫んだ。
「あー、ソフィア。やめてくれ!これ以上、娘を苦しめないでくれ!」
アルテシアはレナルドの存在に気付いたが尽かさず、アルテシアは更に神に祈り捧げた。
「神よ、私にソフィアの苦しみを分け与えたまえ。共に苦しみ、過去に立ち向かう力をお与え下さい」
そして青ざめて震えるソフィアをアルテシアから溢れ出す光と共にソフィアを抱きしめた。




