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ラトゥールの過去

アルテシアとクラウドは険しい山を半日かけて登り何とか日の明るい内に反対側の山のふもとの村まで行くことが出来た。その晩は、野宿も覚悟していたが村の老夫婦の家に泊めてもらう事が出来た。村は町とは違い店は殆どない。夫婦は家の裏にある僅かな畑と何頭かの牛を飼って何とか生活をしのいでいる。

狭い所なのでタダで良いと言われたが、町で泊まる宿代ぐらいは払った。それでも申し訳ないのでクラウドは牛小屋掃除を手伝い、アルテシアは夕飯の食事の支度を手伝った。


夕飯が出来た事を知らせにアルテシアは牛小屋まで行った。


「うわぁ、クラウドさん牛の世話まで出来るんですか?」


「ああ、牛は初めてだが馬の世話はよくやっていた。ルークこそ、台所仕事が出来るのか?夫人を困らせたりしなかったか?」


クスクス笑って、クラウドに言う。


「そんなに心配しないでください。これでもジャンさんのとこでお世話になった時は食事も作っていましたから。早くいきましょう」


アルテシアはクラウドを食卓へ行くよう促す。

老夫婦も交えて一緒に食事をした。老夫婦には子供がいて二人とも今は結婚して家を出ている。夫婦は自分の子供が遊びに来たようだと大変よろこんでいた。

老夫婦がアルテシア達の旅の行き先を尋ねラトゥールと答えると寂しそうに沈んでしまった。


「ラトゥールと言う町は何かあるんですか?」


クラウドが尋ねると老夫婦顔見合わせ、言いにくそうに主人が口を開いた。


「ラトゥールの町はとてもいい町ですよ。でもね、ラトゥールと聞くと…領主様の事を思い出してね。私達も詳しい事は知らないが、それでもあまりにも酷い事だったんだ。すまないね、今から行く場所なのに嫌な事を聞かせたね」


と、主人が話を終わらせようとした。


「あの…もしよろしかったらその領主様の話を聞かせてもらってもいいですか?」


と、アルテシアは申し訳なさそうにして言う。

主人はクラウドの方に顔を向けてクラウドも聞きたいのかと無言で問うとクラウドも頷く。主人は暫く考えてから一度、溜息を吐き覚悟を決める。


「あまり、気分のいい話ではないがよろしいかな?」


「お願いします」


アルテシアは答える。


「バガラルの前国王の悪しき行いで国中が苦しい目にあっていました。だから、今の国王が前国王を倒した時は本当に嬉しかったし、今の生活も決して楽ではないが以前に比べて良くなっています。その今の生活もラトゥールの領主様の犠牲があって今があります」


「犠牲…」


クラウドが呟く。


「当時、領主様は王宮へ医官として勤められていた。領主様の奥様は領地へお残りになられました。領主様も奥様も美男美女でこの村でも大騒ぎする程です。お人柄もよく出来たご夫婦で誰もが領主夫妻に憧れていたんですよ。その評判がいけなかったんです。前国王は領主様の奥様を献上しろと要求しました。勿論、領主様は拒んだが、奥様は気を病んでしまい自ら命を絶ってしまいました」


「酷い…」


アルテシアは思わず言葉を溢す。


「領主様は怒り狂いました。元バガラル国王と一緒に前国王と王太子を倒されました。これも5年前の話なのですが、もっとあれから時が経っているような気がします」


主人はこの話は終えたと知らせるように茶をすする。しかしクラウドは話が終わった事に納得いかなかったのか主人に問う。


「今の話は、バガラル国の国民なら()()()()()()()()話ですよね。貴方はそれ以上の事を知っているんじゃないんですか?」


主人は驚きの目でクラウドの方を見る。

そして、主人はアルテシアの方に目線を移した。


「実に鋭い方だ。私の娘は領主様の屋敷の奥様付きのメイドをしていました。細かい事情までは知らないようですが当時の噂以上の事は知っていました。今の話だけでも充分に酷い話ですが、事実はもっと酷いはなしです。話してもいいですが子供や、女性には耐えられない話になりますが…」


主人はアルテシアを見つめる。アルテシアはクラウドを見る。


「人の辛い過去の話だ。ただの好奇心で聞くのなら辞めておいた方がいい。聞くならば全て受け止める覚悟がいる。ルークの恩師に関わる話だからな」


クラウドはアルテシアに言う。クラウドはどちらを選んでもいいと表情が物語っていた。

アルテシアは少し俯いて、覚悟を決めた。


「私は、大丈夫です。話をして下さい」


主人は溜息を吐き、話し出した。


「前国王は、横暴な方でした。気に入らない使用人には厳しい罰を与え、家臣達は国王の機嫌を損ねる事を恐れていつも怯えていたと聞いてます。王宮では使用人が度々、不明な死や難癖付けた処刑や罰を与えられていたとメイドや女中らがよく話していたと娘から聞いています。王宮へ勤める事は命懸けの仕事になると使用人達で話していたと…」


「だからか……貴方達のお子さん達と暮らしてないんですね。当時、王宮勤めにならないよう、早くに他の貴族に奉公させたんですね」


独り言か、呟いただけなのか分からないぐらいの声でクラウドは言った。


「当時は、みな必死でしたからね。娘と息子が王宮勤めに取られないように先に手を打っておかねばなりませんでした。特に王宮勤めに娘を取られたら……。当時の国王も王太子もやりたい放題だったと言われていました。国庫も厳しい取立ての為、常に潤っていたと聞いていて、その為、王族に盾をつける者がいませんでした。ラトゥールの領主様はその税金を払えるよう領地の人々に色々考え下さって他の領地よりはみな容易に税を納める事が出来ました。領地の民も口を揃えて言う程、奥様もそれはもうお姿だけでなくお心まで美しい方だったと聞いています。お子様達もご夫妻に似て賢く麗しく育ち、公子様は医官として領主様の手助けをし、公女様は愛らしい女性に育ったと。誰からも愛されていた筈のご家族でしたが前国王に目を付けられてしまいました」


そして、主人は一息つく。また、静かに話し出す。


「前国王は領主様に奥様を献上しろと言い出しました。かなりいい条件を付けたらしいのですが、勿論、領主様は断りました。国王は領主様が断った事に異常なまでに怒り狂いました。今度は公女様を王太子の妾にと王命を降し、領主様は公女様は病を患っていると王宮に上がる時期を先延ばしにして免れていたのですが……良からぬ事が起きてしまったのです。町から帰る途中の奥様と公女様の乗った馬車が行方不明になってしまって、そして翌朝共にいた従者も護衛も遺体で見つかりました。そして奥様も…。しかし、公女様は辛うじて生きて居られました。しかしもう、行方不明になる前の公女様ではなく。お心が完全に壊れてしまっていて、何が起こったのか聞くことは叶わない状態でした」


クラウドは、医官であった領主、レナルド ・ティソット伯爵には伯爵夫人の遺体の状態から何が起きたかおおよそ見当が付いたのであろうと予想がついた。主人はアルテシアが顔が蒼白くなるのを見て言葉を濁したのだろう。恐らく、前国王が無体を行ったのは間違いなさそうだ。クラウドも主人に敢えて聞かなかった。


「誰がやったのは明確にはなっていません。偶然か必然かは分かりませんが、その日、前国王は狩りにラトゥールの領地付近の別荘にいたらしいです。後は、先程、話した通りの事。バガラルの国王は他国では親兄弟殺しやら、気の狂った冷血な国王だと悪名が通っているが、私達、バガラル国の国民にとっては救世主なんですよ。だから、みな国の為に働き国が潤っています」


アルテシアは、何も言えなかった。ハルクの優しさの中に悲し過ぎる出来事があった事。あれだけ診療所で働くのは忙しさで悲しみを忘れたいからかもしれない。アルテシアが思いを巡らせていると、クラウドの手が肩に優しく置かれた。


「大丈夫、終わった事だ。もう、前国王はいない」


と、クラウドは優しくアルテシアに言った。


そして、二人は翌朝、村を発ちラトゥールに向かった。


クラウドもアルテシアもラトゥールの出会いが二人の運命を大きく変える事をまだ知らない。














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