二人で逃げる
「連れて来ました」
近くに滞在していたのか直ぐに男は騎士に連れらて来た。
「第二王子が言っていた、魔力を感じた町はこの町ではないか?」
「そう、聞いておりますが?」
「お前は、王子が倒れたのを見たのは本当か?」
「はい、例の薬を飲ませてその後、宿屋の前で倒れたのを確認しました。その後は知りません」
アッシュレは、小さく舌打ちをしたこの男、呪毒薬の事を騎士達の前で話すとは…。
「例の薬を飲ませただと…お前は確かにクラウドに薬を飲ませたのだな」
「確かに飲ませました。そして、クラウド殿下は……」
アッシュレは一瞬、フッと口角を上げ笑った。
「この者をアルターナに連れて行け、第二王子の暗殺を図った者だ!」
男は、青ざめる。一番、恐れていた事が起きた事を悟った。
「殿下!私は殿下に渡された物をただ……」
アッシュレは男を見下しながら言い放つ。
「ふっ、私がお前にか?知らぬな、話は私がアルターナに戻ったら聞こう。それまでお前が生きていたらだがな。この男を調べろ!毒薬か何か持っている筈だ」
「殿下、これは酷い裏切りです!私が何をしたと言うんですか!」
「目障りだ、連れて行け!」
男は絶望と恐怖で呆然とし引きずられようにして騎士に連れられて行った。
この町にアルテシアはいる。クラウドが死んだと聞いても嫌な胸騒ぎがした。
クラウドが泊まっていた宿屋に向かう。クラウドの倒れていたというところには何も無かった。部屋は使われてたままで荷物も残っている。馬小屋を見ると馬がいない。元々馬がいなかったのか?馬を使って逃げたのか?
アッシュレは直感でクラウドはまだ生きていると確信した。あの呪毒薬を飲んで生きているとは……。
聖属性魔法でも回復は不可能な筈。
アッシュレは取り敢えずクラウドの居場所を探す事に集中する事にした。
山に向かう町の出口を目指した。港ではないのは確かだ。馬を使っての移動なら長距離であろう。
アッシュレは出入り口へ急いで向かった。
かなり前方に馬に乗った一人の男が見えた急いで近づこうとすると男は気配に気が付いたのか警戒して、間合いを保とうとして近づけない。
(クラウドなのか?この距離で気がつくとは…)
クラウドの独特の力強い魔力は感じられない。
月明かりが逆光となってアッシュレからは男の姿を細かく捉えられない。少し距離を縮めだところでアッシュレが痺れをきかせ思わず声をかけた。
「待たれよ。そこの男!」
クラウドはその言葉に従うつもりはなかった。そのままアッシュレの言葉を無視した。
クラウドが小声でアルテシアに耳打ちをする。
「分が悪い。アッシュレは軍事用の馬、こっちは旅用の馬、町では派手には魔法は使えない。このまま、町の外れまで行ければいいが……」
「クラウドさん、強化の魔法を馬にも貴方にもかけました。普段よりこの馬も走れると思います」
「そうか助かる」
「思いっきり走って下さい。振り落とされても私にも強化の魔法かけてありますから」
クラウドはアルテシアの言葉にムッとし舌打ちをした。
「ルーク、俺は絶対にお前は振り落とされる事がないから安心しろ。舌を噛むといけない。もう、話すな。」
クラウドは失礼と一言、アルテシアに言うとクラウドは片腕をアルテシアの腹に回し馬から落ちないように固定する。アルテシアがビックリしてクラウドを見上げる。
「俺は両手離しでも馬を扱える」
アッシュレは何も答えず自分を無視をする男に腹を立てた。
「何故、答えぬ!止まれと言っているんだ!」
クラウドはアッシュレが追っている男が自分だとまだ、気付いていない、前にいるルークも見えてはいない事を確信すると馬を一気に走らせた。
いつもより自分の身体も軽く馬もスピードを出してくれる。これなら馬の負担に気を使わなくても良さそうだ。
(これが、聖属性魔法の力か、アッシュレが欲しがるわけだ)
アッシュレも負けずと馬を走らせる。クラウドをひたすら追いかける。騎士も慌ててアッシュレに続く。
「相手が誰だか分からないければ手が出せない。しかし、あの馬は軍事用の馬でないのに何故追いつけない?」
と、アッシュレは呟く。周りの騎士達もクラウドの馬についていくのがやっとである。町からどんどん遠ざかり森を抜ける道を行くかと思えば険しい壁が崖になっている道を目指して走っている。
クラウドは、町から離れ山道に入り両側が崖壁で挟まれた道である。クラウドが魔力為の崖壁に向い魔力を放つと崖壁が崩れた。クラウドとアッシュレのあいだに崩れてきた土石が流れた。
アッシュレは砂埃の向こうの男が微かだが見え、男がアッシュレの方に振り向いたのが分かった。顔をハッキリ見えなかったがクラウドと面影は重なる。そして馬にはもう一人乗っていた。
「クラウドなのか?あれはクラウド、もう一人は誰だ?」
前方の土石は高い壁になって追いかける事が不可能だった。
(まさか?もう一人は…)
アッシュレはもし、一緒に馬に乗っていたのがアルテシアだったとしたら考えるだけで怒りが抑えられなかった。怒りで辺りの崖壁や前の土石が凍っていく。アッシュレの魔力が溢れ出す。騎士達も後退りをしている。
(クラウド、許せない。お前は、私の大事な者を奪っていくなら死をもって償って貰うからな!)
アッシュレは暫く閉ざされた前方を睨みつけ、バガラルの城へ戻って行った。
クラウドから土性魔法が唱えられ、アルテシア達は無事に逃げ切る事ができた。
クラウドは馬を止め後ろを確認し追ってくる気配がない事を確かめると再び馬を歩かせた。クラウドはあっと気づく。
「す、すまない」
慌ててアルテシアを固定していた片腕を引き抜く。
アルテシアも自分の顔の火照りから赤くなっているのが分かったがクラウドから見えていない事に安堵した。
「いえ、お陰で馬から振り落とされる心配はありませんでした。ありがとうございます…」
もう、辺りは夜明けに向かっていた。
「もう少し、先に行ったら休もう」
クラウドの提案にアルテシアは同意する。
「クラウドさんは…凄い魔力の持ち主だったんですね。土属性魔法ですよね」
「ルーク程ではない。どんなに凄いと言われてもあまり役に立ってないからな。この魔力で人を傷つける事は出来ても、癒すことは出来ない」
「それでもクラウドさんの魔力が無ければ逃げきれませんでした」
「そうだな、俺の魔力もたまには役に立ったな」
アルテシアは返事の代わりにクラウドに微笑んだ。
そして二人は先はラトゥールに向かった。




