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忍び寄る影

アルテシアは、セスとジュリアンの家に来ていた。

カリーナ婆さんもジュリアンと赤ん坊の様子を見に部屋にいた。

ジュリアンはまだ床からは出る事は出来ないが痛み止めが効いているようで元気な様子だった。赤ん坊はまだ生まれたてにしては小さいのでアルテシアは念の為に回復魔法を少しづつかけてた。小さい手でルークの指をしっかり握っている。この小さな手から生命力が溢れんばかりのものを感じると愛おしいくて堪らなくなる。


「うわぁ、赤ちゃん。ちっちゃくてかわいいですね」


カリーナ婆さんも、昨日の緊張感が溶けて口調は変わらないが柔かな表情だ。


「ルークが居なかったら、この子とも会えなかっただろうね」


「俺達、なんと言ってお礼を言ったらいいか……」


ジュリアンとセスはアルテシアにまた、お礼を言った。


「いいえ、お礼はハルク先生に言ってください。僕はたまたま回復魔法が使えただけで、昨日、ここに来るように指示したのも実際に赤ちゃんを取り上げたのもハルク先生です」


「それでも、俺ら庶民が回復魔法をかけて貰える事はありがたい話だ。確かにハルク先生の手術も有難い話だけど‥‥」


カリーナ婆さんはつまら無そうな顔をして話を遮った。


「セス、ルークはハルクの所にいるぐらいだ。どうせ気の毒なぐらい金には疎いだろう。しかし、あたしゃ甘く無いからね。しっかり時間外の請求させて貰うよ。ここにいてもセスは役に立たないんだから、サッサっと店に戻って赤ん坊とジュリアンの為に稼いできな」


恐らくカリーナ婆さんもそんな事を言っていても大したことない金額しか請求しないのだろう。セスは、カリーナ婆さんに部屋から追い出された。


「聖属性魔導士もルークみたいに少しは庶民を助けてくれると助かる命も増えるんだがね……」


と、溜息混じりにカリーナ婆さん呟く。


「バガラルでもやはり聖属性魔道士は、貴重なんでしょうか?」


「どうだろうね、少ないじゃないかねえ。殆どは旧王族体制の貴族が抱えていると聞いているよ。一部の聖属性魔道士は王宮にいると聞いたことがあるが……そっちの話はハルクの方が詳しいんじゃないかい?」


「ハルク先生が?」


「なんだ、聞いていないのかい?ハルクは前国王陛下の時代に王宮で侍医の一人として働いていたんだよ」


「だから、あんなに町医者でも腕がいいわけですね。またなんで町医者に?」


「さぁね、ハルクは肝心な事は、はぐらかすからね。まぁ今、思えば辞めて正解だったよ。王宮があんな事なるなんて誰も予想してなかったからね」


アルテシアもバガラルの前国王の結末は知っていた。自分の子供に殺されたと考えるとなんともやるせない気分になる。

用を済ませるとアルテシアはセスとジュリアンの家を後にした。




クラウドは、男に魔力を察知した事を報告して一週間ぐらいたった。それから再び男から呼び出された。魔力を感じた町に留まる事を言ってきた。男はいつもは落ち着いて話すが、その時は何処かよそよそしかった。

何がおかしい。クラウドは疑問に感じた。まるで、アッシュレは、バガラルでクラウドが魔力を感じる事を始めから知っていたようだった。そして、草の根分けても探す指示を出すと思えばその場に留まれとは、どういう事だと……。


クラウドは、いつもの食堂で夕飯をすましていた。


(そもそもアッシュレは本当に俺にアルテシアを見付けさせる気があったのか?)


クラウドが絵姿と同一人物らしき娘を見つけてもアルテシアと判断するのは難しい。一枚の絵姿よりもアルテシアと面識ある者と同行して探した方が効率が良い筈だ。クラウドは一つの結論を出した。


(まさか、アッシュレはアルテシアの居場所を知りたいが俺とアルテシアを会わせたくないのか…)


突然、店から声がした。


「しつこい!何度も言っているけどあんたに興味無いし。店で口説くの辞めてよね。仕事の邪魔よ!食べ分、払って出ってよね」


「そう言うなよ。マーサ、店でもなきゃ口も聞いてくれないじゃないか。一度でいいから外で会ってくれよ」


クラウドの追加で頼んだ酒を持ってくる途中だった店員のマーサに若い男が絡んでいた。助け出ようとしたが、店の亭主の女将が怒りながらでて来て事は治まったようだ。男は連れの男と一緒に渋々、店から出て行った。娘は酒を持ってきた。


「絵姿のお兄さん。はい、追加の飲み物。騒がせて、ごめんね」


「いや、いいが……しつこいのか?」


「しつこいはしつこいけど、いつもは店の中で騒ぐ男じゃ無いんだけどね。どうしたんだろうね」


いつもでは無いなら口を出す事でも無いなとクラウドはそれ以上聞かなかった。


「そう言えば、お兄さん。愛しの絵姿の人、見つかった?」


「さぁな」


「さぁなって、それじゃわからないじゃない?遥々遠くから美しの女性を探し求めて。ってロマンチックな話なんだからちゃんと結末を教えてよ。」


「残念だが、そんなにロマンチックな話じゃない。仕事に戻らないと女将さんに()()怒られるぞ。早く行け」


「あー、もう、つまらない!」


マーサは不服そうに仕事に戻って行った。


出来れば、アルテシアに会わずにアルターナに戻りたいとクラウドは思っていた。アッシュレから逃げたと言うことは多かれ少なかれアッシュレの本質を見抜いての事だろう。嫌がるアルテシアがアッシュレに捕まれば恐らく自分の母親と同じ目に合わされるかもしれない。しかし、アルテシアと接点が無ければ助ける筋合いもない。だったら、自分の知らないところで終わらせて欲しい。自分の大事なのは会った事もない女性ではない、母が残したたった一人の妹だからだ。


(情けない話だな……)


自分で自分を罵倒した。


これ以上、考えたくないクラウドは早々に残りの酒も飲み干して食事を済ませて店を出た。


宿まで道のりはさほど遠くない。

宿を目指して少し歩き出したところで胸の動悸が激しく感じた。飲み過ぎたのか?さほど飲んでいなはずなのだが……。更に体がやけに重く感じる。気のせいだと言い聞かせそのまま歩き続けた。宿まで通り抜けが出来る人通りの少ない裏道に入り歩くがやたら目が霞む。


(何なんだ…体が思うに動かない……)


後もう少し次の曲り角まで行けば宿に到着するがやけに次の角が遠く感じる。手足の付け根が痺れて思うように動かない。クラウドはとうとう膝をつく。前に進めない。胸が苦しい……。


(まさか、俺は死ぬのか?)


意識が遠のくのを必死で堪えるがゆっくりと多い被さるように痺れと胸の苦しさが押し寄せてくる。


クラウドはそのまま意識を失い倒れた。




その頃、アルテシアは診療所にいた。今日一日、重症では無いが診療所を訪れる者が多かった。その中の一人、昼間、漁師が訪れ常備薬の処方の依頼があった。


『先生、いつもの頼むよ』


ハルクはメモに薬の名と量を書きアルテシアに渡す。


『また、遠方まで漁ですか?』


『でかいもんが取れればいいけど今回は水属性魔導師が船に一緒に乗ってくれるから、遠くまで漁ができる。そういや、今日は港が騒がしかったけどどうやら隣国から偉いさんが来たらしい』


『ほう、誰でしょう。私達、庶民には偉い方の話は耳にはりませんからね』


『アルターナの王子様らしい、お顔を拝見しようとしたが近くことも出来なかった』


『それは、残念でしたね』


ガッシャーン

アルテシアは、思わず手に持っていた薬を落としてしまった。ハルク先生が慌ててアルテシアの落として割れた薬の瓶の破片を片付けに来た。


『珍しいですね。ルーク君』


アルテシアは我に帰った。


『す、すみません。今、すぐに片付けます!』


(王太子殿下が来てる……)


その日は、動揺していたが次から次へと診療所に訪れる者が多く、考える間なくあっという間に夜になってしまった。


「遅くなってすいません。ルーク君、ジャン爺さんの家まで送りますよ」


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。一人で帰れます」


「君はまだまだ、子供ですから遠慮しないでください。ジャン爺さんにも用事があるので送って行きますよ。一応、荷馬車ぐらいならありますから」


これ以上、断るのも失礼だと思い送り届けてもらう事に同意した。

ハルクの準備を待ちながら残りの仕事を片付けていた。アルテシアは昼間の話を思い出していた。

この国にアッシュレが来ている。今、魔力を使ったらこの国にいる事がバレてしまう。アルテシアは聖属性魔法を使う事がないようと願うしかなかった。


その時、入り口の扉から小さな物音がした。


アルテシアは見上げると診療常の入口に人影が見えた。アルテシアは身構える。


(誰か、人がいる!)


扉は開く事はなかった。


ドッス


扉の向こうから何か大きな物が落ちる音がした。











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