王子の思惑
クラウドは診療所の前にいた。昨夜、食堂の娘から聞いたルークと言う男に会う為だ。
診療所の中に入ると、鍵が閉まっていないのに誰もいない事を不思議に思った。一応声をかけてみるが、やはり誰もいないようだ。特に行く当てもないので椅子にかけて待つ事にした。
間もなく、この診療所の主らしい男が入って来た。
男に聞くとやはり診療所の医者だという。助手のルークは留守らしい。
この医者に絵姿を見せようか考えた。何か少しでも情報が欲しかった。無駄だと思ったがこのまま帰るのも癪だったし、医者と会話している間にルークが戻ってくるかもしれないと思い姿絵を見せた。
絵姿の娘は美しく描かれている、この医者も称賛するのは当たり前だ。医者は絵の娘とルークの目の色が同じだと言う。
もしかしたらと思い、思わず口走る。
「この娘が助手に変装しているって事はないか?」
クラウドは言ってから後悔した。確かに絵姿の深いブルーの瞳は素晴らしく描かれているが、一般的には珍しくない。同じだと言ってもただの偶然なのではないか?何とも滑稽な質問をしてしまった。
やはり、この医者も馬鹿げた質問だと思ったのだろう。軽く否定されたが当然だ。このまま助手を待つかと言われたが、幼い男の子を見て落胆する自分を想像したら待つ気にはなれなかった。
「いや、いい。どうやら無駄足だったみたいだ。失礼する」
その後もクラウドは町から町へ渡り歩いた。何人に同じ事を尋ねたか覚えていない。結局、まともな情報があったのはあの診療所だけだった。診療所を訪れてから既に二週間が経とうとしている。
クラウドは、自分の好きな女だったらともかくあのアッシュレの為に探す事にも腹が立っていた。妹の事さえ無ければこんな馬鹿げた事は引き受けない。
バガルダ国へ行かなければ今頃、妹を王宮から連れ出し、あの国王をとっくに玉座から引きずり下ろしているはずだった。
クラウドは自分がアッシュレの言う事を聞いているうちは妹は無事だ、今は我慢するしかないと自分自身に言い聞かせて怒りを抑えた。
さて、次はどこに行くか……。気は進まないがもう一度、ルークと言う男を訪ねよう。
もう、当てがなくさ迷うのも嫌気が差して来た。
クラウドは港の近くの町へ戻った。
昼ごろに診療所へ訪れると鍵は閉まっていた。暫く待ってみたが誰も帰ってくる様子はない。
「ついていない。また、明日にでも訪れるか」
重い足取りで町の宿へ戻ろうとした時に強い魔力を感じた。バガルダに来て初めて強い魔力を感じた。
クラウドは魔力の感じる方へ走った。
途中、もう一度、強い魔力を感じた。恐らく強力な魔法を2度使ったのであろう。
魔力を使ったであろう場所までたどり着いた。あたりを見渡すが魔力の持ち主らしき人間はいない。
「確かにこの辺りにいる筈だが……」
クラウドは妙な視線を物陰から感じた。気付かない振りをする。
(誰だ。アルテシアか?アルテシアは私の顔を知らない筈。まさかアッシュレの配下か?)
クラウドはバガルダに来てからもアッシュレを警戒していた。疎ましい自分を殺す為に理由を付けて国外に行かせた可能性も考えていた。
クラウドは視線の主が目を離した瞬間を見逃さなかった。物陰の視線の主を捉えた。剣を突きつけ低い声で話す。
「誰だ、お前は」
視線の主は黙っている。どうやら子供だ。今までのアッシュレのやり方なら子供でも女でも使えるものは使う。油断は出来ない。
「何故、私を見ていた!誰かに雇われたのか?もしそうであれば雇い主を言え、言えば命は助けてやる」
アッシュレは王宮の国王の執務にいた。つい先程までアストラ教皇と協議を終えたところだ。
国王が深い溜息を吐いた。
「教皇が聖女を要求して来るとは……舐めたことを……」
「聖女が行方不明になっているのを知っていながら言ってきたと言う事は、教皇の方も何か動くつもりなのでしょうか。万が一、教皇側が先に聖女を確保したら不味いですね」
国王は怪訝な顔で言った。
「アルテシアの事でわかったことはないか?」
「あれから王都を隈なく探しましたが、手掛かりすら見つかりません。アルターナで魔力を感じないので既に国外にいる可能性もありますが、今は女性が国外に出ることは固く禁止してますので……ただ、もし国外に出たとしたら可能性がある国はバガルダ国かと……」
「だとしたら、また厄介な国に逃げたな。」
「そうですね。」
バガルダとアルターナの関係は険悪ではないが友好国でもない。バガルダ国はここ最近、第二継承者の王子が反乱により元国王と第一王子を殺し、国王となったばかりである。元国王との親交が深かったアルターナは嫌厭されていた。
「何故、クラウドを聖女の捜索に行かせた?クラウドの元に聖女が付くと不味い。クラウドの母、エレンの子だからと生かしておいたが失敗した、クラウドは最近不穏な動きがあったと聞いている。あいつも所詮は庶民の血を半分引いているだけあって下世話な真似をする奴だ。心配なのはバガルダ国でクラウドが聖女を取り入れる可能性だ。そうなると反乱を起こされたら不味い」
「安心して下さい。クラウドに渡した情報でアルテシアを探すのは不可能です。しかも、クラウドはアルテシアが聖女だと知りません。例え、アルテシアを見つけても王女の為に私に差し出すでしょう」
「尚更、何故、クラウドを使う?それではアルテシアが見つからない」
「クラウドをバガルダ国に行かせた目的はアルテシアが聖属性魔法を使うのを見張らせる為ですよ。アルテシアは恐らくまた聖属性魔法を使います。アルテシアは慈悲深いことに、追われる身であっても短い期間で2回も使いました。クラウドの魔力だったらアルテシアが魔力を使えば必ず気付き、おおよその居場所まで突き止めるでしょう。もしもクラウドと接触してもアルテシアは自ら聖女とは名乗らないので、クラウドはアルテシアが聖女だと気付く事はありませんよ」
(クラウドは私の手の上にいる事も知るまい。今頃、必死に駆けずり回っているのが目に浮かぶ)
「アッシュレ、念の為だ。用が済んだらクラウドが国外にいるうちに始末しておけ。バガルダの元国王の二の舞になってはならない。幾ら魔力使いとはいえ不死身ではあるまい」
「ご安心を。近々、私自らバガルダ国に参ります。バガルダ国から戻る頃には父上かご心配している事、全て解決しているでしょう」
「期待しているぞ」
(アルテシア、さぁ、魔法を早く使ってくれ。そして私を導いてくれ。私が必ず迎えに行くから)
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m(_ _)m
誤字報告、大変、大変助かっています。ありがとうございます。皆様のお陰でクオリティーが高くなっています。私の文才が乏しいすぎるので申し訳ないです。
不定期と言いながらも社会的事情で毎日投稿をすることが出来ましたがどうやら、今後は毎日投稿が難しくなりそうです。間が空いてしまうかも知れませんが頑張って投稿を続けます。
今後とも宜しくお願いします。




