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月面のジーニアス  作者: 石田リンネ
第四章 Glory to コギト・エルゴ・スム!
22/34

22話

「では第二回の作戦会議を始めます」


 第一回の作戦会議から一週間後、Aランク全員が二回目の作戦会議に出席した。

 ヘルマンが駆け回り、ディックがあちこちに頭を下げに行き、セリアが一人一人と話し合った結果が、ここに現れてくれたのだ。


「各自の配属グループは、端末に送信したデータ通りです。ですが当日、相手が思惑通りに動かない場合、ツァーリがその都度作戦を修正し、航海士(オペレーター)を通じて指示を出す予定です。無茶をお願いすることになるかもしれません。――でも、Aランクならできる、わたしはそう信じています」


 全てが初めてだらけだ。作戦修正だって上手くいくか未知数すぎる。

 でもそのために1to1で判断力を鍛えてきた。Aクラスが出場する意味は、そこにある。


「質問。使うレーザー砲の種類は、指定通りなのか?」

「指定通りです。これも作戦の一部です。今回は1to1でなくて、小隕石相手ですので、バランスを考えて決めてあります。勿論、本番までに様子を見て変更もあると思っていてください」


 ストームブルーは『船外活動機』であり、『戦闘機』ではない。あくまで戦闘行為も可能な船外活動機という位置づけだ。

 1to1では、使用するレーザー砲の種類は数ある中から三種類選んでいる。

 たとえば、連射可能な短距離砲。本来はカッターの役割を果たす長時間の中距離砲。それからチャージの時間はかかるが威力は大きい小隕石を砕くことを前提とした超長距離砲等。

 だれもが自分の得意な戦術に合わせて、装備を変えていた。


「今日は担当となる整備士(エンジニア)航海士(オペレーター)との顔合わせも兼ねています。では一班から順にシミュレーターへ移動してください」


 PR映像の威力は絶大だった。流れてからすぐにサポーター登録が急増した。

 受付をやってくれているケイは腕章を追加発注することになった。もちろんお急ぎ便で嬉しい悲鳴を上げた。

 それから慌ててサポーター登録者達と、練習に時間をとれるかどうかについての個別面談をし、無事にストームブルー一機ずつに担当者をつけることができたのである。


「――やっとスタート地点、ですね」


 セリアにとっては恥ずかしくて見たくもないPR映像ではあったが、対抗戦への興味関心を持たせるという意味では成功した。

 そして情熱は人から人へとじっくり罹患していく。

 毎日毎日、少しずつ生徒達の気持ちが盛り上がり始めた。最近は知らない人から頑張ってと声をかけられることも多い。


「三回目は予行演習も行います。星群カレッジとのルールの最終調整は二日後ですので、予行演習当日までには必ず修正点や注意点をまとめておきます」


 ルール明文化作業、暫定スケジュールの配信、予行演習のプログラム――……やることは盛りだくさんでヘルマンの言う通り『トップは健康管理も大事だ』が身に染みる。

 一つひとつ、確実に。でも急いで済ませる。

 トップのセリアだけでなく、ツァーリもケイもディックも、初期メンバーとして毎日駆け回っていた。


「はぁ……健康管理は今のところ大丈夫ですが、もう一つが駄目ですね……。立ち止まれと言われても、立ち止まれないです、これでは……」


 とにかく全力で走らないと事態が回っていかない。

 この有様ではまだまだ艦長にはほど遠いと、セリアは端末をチェックしながらため息をつく。


「セリア! この件についてだがちょっと来てくれ」

「はい! 今、行きます!」


 ぱっと意識を切り替え、セリアは立ち上がった。









 ―― 1st 訓練 ――



『はーい、スポンサーのケイ・シノハラでーす。注意事項とかアドバイスとか開発側として色々語りたいことは尽きないんだけど、こればっかりは百聞は一見にしかず――もとい百聞は一体験にしかずだね』

『うるせースポンサー!とっとと始めやがれ!』


 通信から聞こえるいつもの軽口を聞きながら、セリアはふーっと深呼吸を繰り返した。今日はシミュレーターで訓練を行うが、気持ちだけは本物と変わりない緊張感で満たさなければならない。


『はいはい、ではミモザ、カウントお願い』


 ナビゲーターのAランクを持っているミモザが、航海士(オペレーター)のリーダーとなり、スタートまでのカウントを開始する。


『10 9 8 7……』


 セリアはぎゅっと操縦桿を握った。今から行うのは、1to1とは違う、ただ前へ泳ぎ切るだけというシンプルな訓練だ。だからこそ、コントロールの正確さ、冷静な判断力、そして前へ進む度胸という基本的な力が試される。


『3 2 1 …start!』


 一斉に船外活動士(パイロット)が飛び出し、降り注ぐ小隕石に立ち向かった。









 ―― 2st 訓練 ――



『ゴール到達皆無の全滅おめでとう、開発側のケイ・シノハラです。さてアドバイスがほしい? ほしい? ほしいー?』

『うるせースポンサー! とっとと始めやがれ!』


 通信から聞こえる軽口を聞きながら、セリアは先程のストームブルーの軌跡を確認する。

 飛び出しまではよかった、その後は飛びこんでくる隕石に翻弄され、前に進むどころか逃げる方に集中してしまい、ゴールまで辿りつけなかった。


『はいはい、ではミモザ、カウントお願い』


 ケイの言葉に、先程よりも鋭い緊張が皆の中に走る。それは整備士(エンジニア)航海士(オペレーター)も同じだった。


『3 2 1 …start!』


 先程の反省を生かそうと、ストームブルーが勢いよく飛びたった。









 ―― 3st 訓練 ――



『全滅おめでとう、整備士(エンジニア)リーダーのケイ・シノハラです。さて、これが現実ならそろそろ撃破されたストームブルーの損額がいくらになるか、実に天文学的数字だよ』

『うるせー整備士(エンジニア)リーダー! とっとと始めやがれ!』


 二回目でも誰一人ゴールできず、ケイがあれ? と首を傾げることになってた。

 整備士(エンジニア)達は設定を変えるかと相談を始め、航海士(オペレーター)はもうちょっとこっちからもフォロー入れてみる? と相談を始めている。


『はいはい、ではミモザ、カウントお願い』


 もう船外活動士(パイロット)の誰もが、余裕を持てていない。黙ってモニターを睨みつけるだけだ。


『3 2 1 …start!』


 三度目の発進を行ったストームブルーは、鬼気迫るような勢いで飛び出した。









 ―― 10th 訓練 ――



『あっはっは、そろそろ一人ぐらいゴールしようよ。作戦も何もないじゃないか~』

『うるせーこの高みの見物野郎め! とっとと始めやがれ!』


 始めてからついに九度の訓練が終わった。

 なのに誰一人ゴールできないという現実を、船外活動士(パイロット)だけでなく全ての者へと突きつける。


『でもまぁ、一度降りようか。整備士(エンジニア)航海士(オペレーター)も、外側からの意見を言いたくてしかたないみたい』


 ケイが強制的にストームブルーのメインモニターをシャットダウンすれば、船外活動士(パイロット)は出てこないわけにはいかない。

 セリアもたった一度もゴールできなかった悔しさを堪えつつ、ストームブルーを降りた。


「設定を変えよう。ビーム出力以前の問題だわ。姿勢安定を第一にして……」

「スピード上げるか? いや、でも反応速度がついていかないと意味ないよな」

「周りの船外活動士(パイロット)の位置って、どの辺りまで来たら警告してほしい? 遠すぎても意識できないよね」


 ストームブルーの各班の専属整備士(エンジニア)航海士(オペレーター)船外活動士(パイロット)にあれこれと言いたいことを言い始める。それを聞く船外活動士(パイロット)の表情は真剣だ。

 セリアは皆がごく当たり前に『相談』をすることに驚いた。他の人へのアドバイスなんて絶対にしないという個人主義ばかりの集まりなのに、寧ろ意見やアドバイスを言いたい、言わせてくれと自主的に行動し始める。

 既にチームプレイに対する意識の変革は始まっていたのだ。


「セリア! 設定どうする? 反応速度重視で、加速減速に強い機体に仕上げてくれって注文だったけど……」


 セリアもぼーっと皆を見ているわけにはいかない。自分も船外活動士(パイロット)としてゴールを目指し、今の最善を尽くさなければならないのだ。


「あ、はい! ……もう少しバランス崩してもいいので、もっと強めにお願いできますか」


 セリアの担当になった専属整備士(エンジニア)に頼めば、すぐさま作業に移ってくれた。


「もうちょっとナビゲートした方がいい? 五回目と七回目、五機が同じコースでかなり接近してたんだ。避け方に余裕があるなら、広いコースを選択した方がいいよね」

「ですね。わたしにそこまでの余裕があるか自信ないですが、ナビゲートしてくれるとありがたいです」


 航海士(オペレーター)はセリアの注文に了解と頷いてくれた。

 よし、と気合いを入れてストームブルーに戻ろうとしたところで、ツァーリによって首根っこを捕まられ、引き戻される。


「おい、問題発生だ」

「ツァーリ? なんでしょうか?」

「全体を見て、当日は臨機応変に作戦修正も頼むと言われたが、そんな余裕は欠片もなさそうだ。ストームブルーの操縦席でなく、航海士(オペレーター)の席に座らないと指示が出せない」

「あー……」


 この作戦を立てたのはツァーリ、そして当日の状況次第で変更指示を出すのもツァーリ。

 しかし、実際に訓練をしてみてわかったが、この『隕石かけっこ』は他人の様子を見ている余裕が本当にない。


「……決断なら今、ですね。わかりました、ツァーリは船外活動士(パイロット)を外れて航海士(オペレーター)席へ。幸いこの隕石かけっこは障害物走のBランク扱いですから、Bランクの方に代理をお願いしましょう。成績上位者のリストは……」

「必要ない。代理はここにいる」


 ツァーリは、ディックと機体の設定について話しこんでいるケイに視線を送った。

 そのケイはセリアとツァーリの視線に気がつくと、ひらひらと手を振ってがんばってという笑顔を見せる。

 セリアはツァーリの言いたいことを読みとり、頷いた。

 たしかに適任者がすぐそこにいた。この隕石かけっこに関しては、確実にBランクで頭一つ分抜き出ている、このシミュレーションを一番よく知っている人がいる。


「ケイ! 話が! すみませんがディックの整備士(エンジニア)を離れて、別のことをお願いします」

「なに? 難しい設定をやってほしい船外活動士(パイロット)でもいる? ディックはスピード! スピード! スピード! のスピード馬鹿だから、実は僕じゃなくてもいいんだけどね」


 気心知れているからチーム組んだだけで、とケイはすぐに了承してくれた。


「助かります。今からツァーリの代わりに、第一グループの船外活動士(パイロット)に異動してください」

「……え?」

「着替えてすぐ訓練に合流しろ。行くぞ」

「ええ!? ちょっ……待っ」


 ここはシミュレーターが置かれた宇宙港の一角である。重力1/6になれば、一度予期せぬ動きをするとすぐに止まれない。

 ケイはツァーリに襟首を掴まれ、力任せにひっぱられて喉がぐぇっと鳴る。その間に手足をばたばたさせてささやかな抵抗を試みたが、無駄なあがきになってしまった。


「な、なに!? なにがあったんだ!?」

「さっさと着替えろ」

「なんで僕!? この間、Bランクに上がってきたばかりなんだけど!? Bランクの上位者ならすぐにリスト作るし、ここにもいるし呼んでくるって!」

「開発にテストパイロットとして演習参加していたお前なら、他のBランクと比べて随分ましだ。さっさとしろ。でないとバルト海に叩き込む」

「ぎゃーそれ怖い! 撃つんだろ、撃つんだろ!? コンクリート漬けはやめてください今すぐ着替えますサー!」


 のちにケイは、人生での最大のホラーはこれだったんじゃないかなと周りに告げることになった。勿論合い言葉である『皇帝のクソ野郎ウーブニュードクツァーリ!』を最後につけて。


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