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第85話 エミリアの事情

 現在ナタリーに連れられて3階の廊下を移動中だ。階段を上がってサーシャさんの部屋とは逆側の方に向かっている。


 ナタリーが立ち止まり、ある扉の前でノックをして中に声を掛けた。


「エミリアさま、ルークさまをお連れいたしました」

「お、お入りください!」


 エミリアの声だ。なんかめっちゃ緊張した感じの声だった。どうやらここがエミリアの部屋らしい。


 中に入ったのだが……なるほど。

 めちゃくちゃ女の子っぽいというか、なんとも可愛らしい部屋だった。


 部屋の中ではミーファとエリカもソファーに座って待っていた。


『♪ 凄いですね。ここにある物のほとんどの小物はエミリアの手作りですよ』


 ソファーや机周りに人形がたくさん並べられている。これはビスクドールというやつかな? 陶器製のリアルな可愛い顔の人形に、フリル満載の可愛いゴシックドレスを着せてある。


 どうやらエミリアは手芸が趣味のようだ。応接セットのテーブルクロスもエミリアの趣味の一つのレース編みだそうだ。勿論人形の可愛らしい衣装もエミリアのお手製品だ。


 この部屋を見れば、ナビーの服を作りたがったのもなんとなく理解できる。人形サイズのナビーなんか、趣味全開で弄り倒したくなるのはしょうがないよね。


「可愛らしい部屋だね。ここエミリアの自室なのかな?」

「はい。お恥ずかしながらわたくしの部屋です。外に出るのが苦手なので、お部屋に籠っているうちに手芸が大好きになってしまい、このようなことに」


「恥ずかしがることはないよ。これってエミリアのお手製でしょ? 趣味があるのは良いことだよ。このレース編みなんかよく出来ている」


「ありがとうございます。どうぞお座りください。いまお茶をお入れいたします」


 自分の趣味を褒めてもらえてちょっと嬉しそうだ。


 いまこの部屋には俺・イリス・ミーファ・エリカ・エミリア・ナタリー、俺について回っている侍女の7人がいる。


 ディアナとハティ、スピネルはアンナの部屋でララたちからおやつをもらってご機嫌のようだ。ナビーは俺の周囲を監視しつつ工房で色々作業中だ。


 侍女さんがお茶を入れてくれているのだが、俺が席に座ってからエミリアは緊張した面持ちで会話を進めようとしない。しばらく待ったが中々次の言葉が出ないようなので、少しこちらから話を振ってあげる。


「エミリアは、なにか俺に話があるのかな?」


 まぁ、何となくこれまでの言動でエミリアの言いたいことは分かっているが、自分から話させた方が良いだろう。


「はい……わたくしが男性を怖がるようになった理由をお話ししたいと……」


 そこまで言って、また会話が止まった――

 ゆっくり自分から話し始めるのを待っていたのだが、まず話してもらわないことには解決策があるかの判断もできない。再度話し易いように誘導してみる。


「ガイル公爵の発言から察するに、5年ほど前に何かあったのだろうと推察できるけど、俺以外のみんなは知っている話なのかな?」


 俺の推察が当たっていたのか、エミリアとナタリーは驚いた顔をしている。


「あ、私は知らないです」

「私も知らないです」


 エリカとイリスは知らないようだ。


 エミリアは大きく深呼吸したあと、【認識疎外の首輪】を外した。


「へ~、やっぱミーファと従妹なだけあってどことなく似ているね」

「え~~っ! ルークさまの反応薄過ぎっ!」


「俺はエリカのその発言の方に驚いているよ!」


 実はエミリアの可愛さに内心ドキドキしまくっているのだが、それを顔に出すのは悪手だと分かっているので、エリカのびっくりして出た軽い言葉に乗っかってエミリアから気を逸らしたのだ。


「だってエミリアさま、ものすご~~く可愛いでしょ! 素顔を見てその反応は絶対変ですよ~!」

「まぁ、可愛いとは思うよ。でも俺の周りにはミーファやイリス、俺の姉様や元婚約者のルルティエとか、ナタリーやエリカもかなり可愛い部類だし、耐性がついているんだよね。俺には【美人耐性】レベル5ぐらいの耐性があるかも?」


「「「そんな耐性ないですから!」」」


 みんな良いツッコミだね!


「わたくし、この首輪を外すのに、もの凄く勇気を出したのに……」


「エミリア、ルークさまのお優しいお心遣いですわよ。わざとおちゃらけてあなたの緊張を解こうとしてくれているのですよ」

「ミーファお姉さま……やはりそうなのですね。これまでの行動から考えればそうなのでしょう」


 ミーファが俺の折角の道化をバラしてしまって台無しだ。なんでも馬鹿正直に発言するのはあまり感心できないな。言わない方が上手くいくこともあるんだよ。




 エミリアの素顔なのだが……めちゃくちゃ可愛い!

 面立ちはサーシャさんにどことなく似ている。三姉妹の中では一番お母さんに似ているかな。小顔で髪色は明るめの赤茶色? 【認識疎外の首輪】をつけている時と髪色はあまり変わっていない。


 外にあまり出ないのか肌は色白で、顔にあったそばかすは一切なくなっている。ミーファ同様可愛い系だ。正直めっちゃ好みのタイプだ!


「そんなことより、話を進めてくれるかな」

「「「そんなこと!」」」


 ポーカーフェイスを気取った俺の態度への班員たちの反応がちょと面白くなってきたけど、ちゃんとエミリアの話を聞いてあげないとね。


「そこの侍女やイリス、エリカはこの話を聞いていても良いのかな?」

「シエラは幼少時よりわたくしの専属侍女をしてくれている方です。班員のイリスやエリカにも聞いておいてほしいです」


「シエラと申します。エミリアお嬢様があの件をお話になるのはお辛いでしょう。不肖ながらわたくしにお話しさせていただけませんか?」


「シエラさんね……名前は2度ほど聞いていたけど、なにせここには使用人が沢山いるので申し訳ないが覚えていなかった。じゃあ、シエラが男性恐怖症にエミリアがなってしまった経緯を話してくれるかな」


 エミリアの私的な事情を侍女たちが聞いても良いのかと思い尋ねたのだが、どうやらその侍女のシエラがエミリアの事情を話してくれるようだ。


『♪ 補足説明です。シエラ・E・ハーキンス29歳、ハーキンス家の三女です。学園卒業後に王家に侍女見習として赴いたのですが、そこでエミリアに気に入られてそのまま公爵家に仕えることになったようです』


『うん? 王城へ侍女見習として、貴族の礼儀作法を学びに行ったのだろ? なんでそこでエミリアのお付きになったんだ?』


『♪ 10年前はまだ王位継承がなされていなかったので、ガイルは第2王子として王城でサーシャやエミリアたちと生活していました。公爵領を引き継いだのは、現王のゼノに後継してからです』


『なるほど、分かった。じゃあシエラはエミリアとは10年来の仲なんだな』





 シエラから語られたエミリアの事情話は概ね予想通りだった。


「あまりにも予想通りで、ある意味納得した」

「ルークさまはシエラさんの話を聞く前から分かってらっしゃったのですか?」


 イリスが不思議そうに聞いてきた。


「まあ概ね予想通りだったかな」



 シエラの話をまとめるとこんな感じだ。


 毎年の恒例行事として王城で年始にその年の10歳になる貴族家の子供を集めて社交デビューが開催されるのだが、6年前の社交パーティーにエミリアが参加した際に事件が起きた。


 パーティーの途中でお手洗いに一人で向かったエミリアを、子爵家の一家が客室に連れ去って襲ったのだ。抵抗した際に腕に嚙みついたエミリアを襲ったそいつは顔が腫れあがるほど何度も殴ったらしく、それ以来男を怖がるようになったそうだ。


「あの時わたくしがちゃんとトイレまでついて行くべきだったのです」

「エミリアのお付きだったのならそうなんだろうけど、それを今更悔やんでもどうしようもない。でも、10歳のエミリアをそいつらは強姦しようとしてたの?」


「実はわたくしもその事件に大きく係わっていたのです」

「ミーファが?」


 ちなみに強姦は未遂で、エミリアは連れ去られた際にすぐにコール機能で救援を求めていたそうで、殴られている最中に助けられたとのこと。


「エミリアお嬢様が襲われたのは怨恨でした。襲った子爵家の者たちは、前フォレスト領主の家臣です。当時ガイル様やゼノ国王様によって主家が粛清された為に没落寸前まで追い込まれていたようです。資金繰りが苦しくなった際にガイル様が後を引き継いだ公爵家にお金を借りに何度か訪問していたようですが、この子爵家も証拠が出なかっただけで不正な脱税を行っていたようでして、ガイル様はあえて無視していたようです」


「うん? それでどうしてエミリアを襲うって話になるんだ? 恨んで襲うならガイルさんの方じゃないのか?」


「ガイル様はお強いので、少人数で襲っても返り討ちになる未来しか想像できません。それよりは娘のエミリアお嬢様を強姦して既成事実を仕立て、自分の息子を婿に迎え入れさせて資金援助をさせようと企てたようです。何もしなければ没落は必至……後がない状態なので、恨みも晴らせて一石二鳥と考えたようです」


 当時のことを思い出したのか、シエラさんは眉間に皺を寄せ腹立たしそうにしている。


 日本人的な感覚の俺からすれば、どうして強姦されているのにそんな相手と結婚になるのか理解できないが、貴族家としては娘が強姦されたという事実は相当不名誉なことになるらしいのだ。


 名誉を重んじる貴族社会では、強姦した相手がオークやゴブリンなどの魔獣なら娘を自害させるほどの案件で、相手が貴族家なら結婚ということでその不名誉をなかったことにするそうなのだ。マジで理解できない。


 まぁそれは一般的な貴族社会のお話で、王家や公爵家のような者に対して行えば結婚なんかあり得ないのだ。


 その子爵家がどうなったか……一族郎党皆殺しだ。


「なるほどね。没落寸前じゃ襲撃する人を雇う金もないか。既成事実を作るために、10歳の子供を襲うって発想が怖いな……。で、ミーファはどうこの事件に絡んでいるんだ?」


「ルークさまはミーファさまの『二つ名』知ってますか?」

「エリカっ! 言っちゃダメですからね!」


「二つ名? いや知らないが……」

「『首狩り姫』です!」


「言っちゃダメって言ったのに!」

「えっ!? 『首狩り姫』! なんでそんな物騒な二つ名が? あ~解った! 一級審問官の公務のせいだね?」


「正解です! 流石ルークさまです。ルークさまってもの凄く頭良いですよね」


 エリカに褒められて照れくさいが、褒められるのは良い気分だ。


「ひょっとして、ガイルさんが叙爵して公爵領を与えられた際にやらかした?」

「はい……当時子供だったわたくしは、お父様や叔父様に言われるまま、考えなしに笑顔で嘘を暴き回りました。ここの公爵領の領民からは感謝されていますが、貴族家の中には未だに恨んでいる者もいるようです。こんな二つ名持ち……ルークさまはお嫌ですよね」


 ミーファが直接首を狩ったわけではなく、ミーファが嘘を暴いて首を落とされた貴族があまりにも多いことからこの二つ名が付いたそうだ。


 ミーファからすれば、ただ『褒められたかった』だけなのだが、当事者の家族からすれば、楽しそうにニコニコ顔で父親を処断されたわけで……そりゃ残された家族の中には恨んでいる者もいるだろうね。


「そんな不安そうな顔しなくても良いよ。俺の二つ名知ってるかい?」


「『オークプリンス』! 確かにそれよりはミーファ様の方がまだ良いですね」

「エリカ、ちょっと傷ついたぞ! まぁそういうことだ。二つ名なんか気にしてもしょうがない。エミリアの男が怖い理由も分かった。その時の暴力が原因でトラウマになっているんだね?」


「はい。どうしても怖いのです。あと、男性の性的視線ももの凄く不快で嫌です」


「あ~うん、性的視線ね……なんかその点に関しては申し訳ない。俺も男である以上抗えない。じゃあ、エミリアの男性恐怖症の改善案を話し合おうか」


 実はエミリアに関しては、いくつか考えている案はあるんだよね。


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