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第83話 カエル VS ウシ

 俺の作った『カエルさんポーチ』は予想以上の人気だ。

 だからといってみんなの分まで無償であげるつもりはない。イリスやナタリーに請求する気はないが、資金や素材に余裕のある王家のミーファや公爵家のエミリアのところから素材を頂くつもりだ。


「え~と、一応班員のみんなにもあげるつもりだったけど、材料がないので現状製作できないんだよね。お義母さま、商都を管理する公爵家ならミスリルとか余っていませんか?」


 ナビー情報で公爵家に結構な量を保管しているのは知っている。

 ララにはプレゼントしたが、倍返しで素材は頂こうという思惑があってのみんなの前での『見せびらかし作戦』だったのだが、サーシャさんはどう反応するだろうか?


 ガイル公爵の許可がいる可能性が高いが、飛び込みの訪問販売では先に奥さんを落としておいて、渋る旦那を奥さんと一緒に口説くのが効率良いと叔父さんが言っていた。


「ミスリル鋼ですか? 有事の際に必要になるものですので、公爵家でもそれなりの量を保管しているはずです。材料を用意すれば、エミリアやアンナの分もお作り下さるということですか?」


 『有事の際』とは内戦も含めた戦争のことだろう。

 同人数での争いの場合、武器や防具が優れている側の方が圧倒的に有利になる。事が起こってからでは素材は高騰して入手すら困難になるので、平和なうちに少しずつでも備蓄しておくのが賢明な判断だ。



「ええ、でも次の商品開発とかもしたいのでそれ相応、価格に見合った分の材料は貰いますよ。素材となるのはミスリル、アダマンタイト、オリハルコン、ブラックメタルです。できるだけ沢山欲しいです」


 ララにあげた分のミスリルは、ミスリル硬貨を20枚鋳潰して作った物だ。ミスリル硬貨20枚……日本円に換算すると約2000万円だ。決して安くはないが、完成品は億単位でオークションで取引されている品になる。


 素材としてならアサシンから徴収したミスリルナイフもあったが、何人も殺めているかもしれない犯罪者のナイフを材料にして、ララの身に着けるものを作る気ははなからなかった。


「パメラ、オルクにさっきルークさんが言っていた素材を保管庫から出して用意するよう手配してください」


「はい、奥様。各種素材はどれくらいお出しすればよろしいのでしょうか?」


 今更だが、侍女長さん『パメラ』って言うんだね。


『♪ マスター、初顔合わせの時にちゃんとガイルに紹介してもらっていますよ。ちなみに『オルク』は家令の名前です。ガイルの許可なく宝物庫に入れるのは、サーシャ以外では鍵を管理しているオルクだけです』


 家令兼執事長の人と侍女長が夫婦なのは覚えていたけど名前は聞き流していた。

 ガイルの許可がないと、オルク以外は侍女長どころかエミリアですら勝手に宝物庫には入れないそうだ。



「必要最低限分だけ残して、後はルークさんにお渡しするようにしてください」

「お待ちください! 奥様、それは個人にお渡しする量ではございません。一度御領主様に相談されてからにしてください」


「主人には事後報告で問題ありません。さっきも言いましたが、これは国宝級の品です。欲しいからといって、お金で手に入るようなものではないのですよ。それを後2つも頂ける可能性があるのです。我が子のために宝庫を開放したところで、あの人は怒るような愚かな男ではありません」


「ですが……」


 侍女長のパメラさんはかなり渋ってる。


『♪ パメラが渋る理由は、個人に渡すような量じゃないからです。ミスリルだけでも640kgほど保有量がありますからね。マスターのミスリルのロングソードが800本ほど作れる量です』


『800本! それは流石に貰い過ぎだね』


 ミスリルは武器だけではなく盾や防具にも使うので、ガイル公爵はもっと沢山蓄える予定らしい。


『♪ 集めている鉱石類は個人資産ではなく、公爵家の公費として毎年採掘した中からストックしてあるものです。サーシャはガイルが渋った場合、宝石などの私財を売ってでも調達するつもりのようです』


『サーシャさんの私財を売るって……そこまでさせるつもりはないんだけどなぁ』


『♪ 今はそんなに貰っても使いきれませんので、マスターの方で必要分を申告してあげてはどうですか?』


『その方が良さそうだね。足らなくなったら【耐毒の指輪】でも作って国王から物々交換すればいいしね』


「パメラ、期を逃してはいけませんよ。鉱石類はお金さえあれば我が領内で幾らでも手に入る物です。ルークさんの作るポーチはお金で買えるものではありません。『やりたいことが沢山ある』と言っているルークさんの都合で作っていただけなくなる可能性もあるのですよ。その気になっていただいている今のうちに作ってもらうのが最適解です。沢山お渡ししておけば、新たに開発した品も頂けるかもしれませんからね」


「お義母さま、それを本人の前で言いますか……まぁ、ガイル公爵はいろいろこの領地を得た際に粛清しまくって一部の貴族から恨みを買ってるらしいので、【耐毒の指輪】くらいは作ってあげても良いかな。あと、量はそんなに貰ってもしょうがないので、ミスリルは20kgほど頂ければいいです」


 ミスリル20kgと聞いて、パメラさんはほっとした表情をした。

 それ以外の鉱石はガイルさんが帰ってきてから決めるようになった。



「ところで、みんなの分は子供向けの『カエルさんポーチ』ではなくて、こっちのお洒落な牛革製の物にしようと思っているんだけどどうかな?」


 ディアナと狩った牛の革を使ったお洒落な品だ。ナビー工房でアバターたちに試作に数個作ってもらった。ミスリルを組み込んでないので、空きスロットは1つしかない。なので、当然付与はしていない。


 色は明るめの茶色とこげ茶、黒の3色だ。シンプルなデザインで、肩から下げたり、サイドの革ひもを外してベルトに通せばウエストポーチにもできるようにしてある。


『♪ あれ? 予想外な事態が……ミーファ、エミリア、アンナ、イリスはカエルポーチの方が良いみたいですよ。エリカはこげ茶の牛革ポーチ、ナタリーは茶色のものが欲しいみたいです』


 自信満々に出した牛革ポーチが、カエルさんポーチに負けているだと!


『カエルさんポーチは流石に子供っぽくないか? 19歳のイリスだとちょっと痛々しいよね?』


『♪ そうですか? この世界ではそういう可愛くデフォルメされた品はまだ出回ってなく、子供っぽいという感覚はないようですよ。逆に斬新でもの凄く可愛いものとして見ています。イリスはカエル自体は気持ち悪いと思っていますが、このデフォルメされたカエルは可愛いものとして見ています。エリカとナタリーは護衛として、手足などのパーツが付いてなく、動きやすさを重視して判断しているようです』


『世界が違うと価値観も変わるってことか……』


『♪ イリスがカエルポーチを身に着けている姿を想像してみてください、どこか変ですか?』


 ナビーに言われて想像してみた……変じゃない! めちゃくちゃ可愛い!


 意外と人気のあるカエルさんポーチの背の色も、緑・黄色・青と3色増やして希望の色を選ばせてあげた。


『というわけで、ナビー工房で作製は頼むね』

『♪ 了解しました』


 俺が自らの手作業で全部作らないといけないのならここまで大盤振る舞いはしない。ナビー工房があるから請け負うことができるのだ。一度は自分で作ってみないと気が済まない性質なのでララの分は俺が作ったが、他の人の分はナビー工房にお任せだ。




「そうだ、パメラさん。髪の毛をカットして整えられる人を手配できますか?」


 侍女長の名前を覚えたので、さっそく名前呼びする。


「はい可能でございます。ルーク殿下の髪を整えれば宜しいのでしょうか?」

「いえ、お義母さまの髪ですね。前髪は目に入らない程度に切ってもらっていたようですが、寝たきりだった為か後ろやサイドの髪がちょっと伸びて痛んでいます。もう大分動けるようですので、髪を整えたあとお風呂に入っていただこうかと思います」


「まあ! わたくしお風呂に入ってよろしいですの♪」

「ええ、ついでに髪も整えられればいいかなと思いまして……」


「奥様の御髪でしたらすぐにでもカットできます。お風呂の方も手配いたしますね」


「お願いします。ナタリーとエリカはサーシャさんの入浴介助を頼めるか?」

「ルーク殿下、奥様の入浴介助でしたら当家の者で致します」


「特殊な洗髪剤で洗ってもらうつもりなので、ここの使用人では使い方が分からないでしょ? 手順を知っているナタリーたちにお願いするよ」


「あ、シャンプーですね! ルークさま、お任せくださいませ」

「ルークさま、わたくしもお母さまと一緒に入っても良いでしょうか?」


 エミリアが許可を求めてきたが問題ない。


「勿論いいけど、長湯になるとお義母さまが疲れちゃうので気を付けてね」

「はい、分かりました。あの……そのあとにでも少しルークさまの御時間をいただいても宜しいでしょうか?」


「俺? いいよ。じゃあ俺は一旦お義母さまを食休みに部屋に連れて行くね。パメラさんは2時間後ぐらいにお風呂に入れる準備と、髪をカットできる人の手配をお願いします」


「2時間後ですね、準備いたしておきます」


 使った調理道具類に【クリーン】を掛け、【インベントリ】に放り込む。念のため油跳ねがあるかもしれないので周囲一帯にも【クリーン】魔法を掛けて綺麗にしておく。


「ではお義母さま、一旦部屋で休みましょう」


「はい、お願いいたします。ルークさん、ララ、美味しいお昼ご飯ありがとうね♪ カエル料理がこんなに美味しいって知らなかったわ。お母さん、またララの作ったご飯が食べたいわ」


「はいお母さま、ララお料理大好きになりました♪」


 なんとも微笑ましい。


 公爵家の御令嬢が普段料理をすることはない。趣味としてお茶会などで焼き菓子などを自ら作って振舞うことがあるぐらいだろう。料理は良い趣味なので、ララが料理を趣味にするなら応援してあげよう。


「お義母さまを送ったあとに少し作業があるのでイリスはついてきてくれ」

「はい」


  *   *   *


 お義母さまを部屋に送った後、離れの介護人たちの小屋に向かう。


「どう? カエルの解体はどこまで進んだ?」

「「「全部終えました」」」


 見たら事前に渡しておいた数個の木桶に、部位ごとに分けて入れられていた。


「仕事早いね。じゃあこれをご褒美にあげよう」


 さっき事前に取り置いていた唐揚げを渡す。


「唐揚げは21個あるから、1人7個ずつね。熱いうちに食べた方が美味しいよ。それとこっちは今夜の夜食用にまたもも肉を3つあげるね。生肉は痛むといけないから、氷で冷やしておくよ」


 木桶に氷を沢山詰め、ボウルにカエル肉を入れて氷の入った木桶の中に入れておく。直接お肉を氷で冷やすと、氷が溶けて水になって浸ったら、お肉が美味しくなくなるからね。


 彼女たちはお肉を見たあと、後ろに控えている侍女の方を見た。

 この侍女は今回公爵家に来て以来、俺の後をず~~とついて回っている。さっきの昼食時にもいたんだよなぁ~。


 その侍女が『貰っていい』という了承の合図として頷いた――


「「「ルーク殿下、ありがとうございます♪」」」


 前回食べた香草焼きがよっぽど美味しかったのか、めっちゃ嬉しそうだ。


 そして唐揚げを口に入れた娘の反応はというと――


「「「なにこれ! 美味しいです! これ本当にカエルのお肉?」」」

「カエルのお肉だよ。ほら、タレに入れていたやつあっただろ? あれに粉を付けて油で揚げたやつだよ」


「「「もの凄く美味しいです!」」」


「カエルの解体を頑張ってくれたからご褒美だよ」


「「「ありがとうございます♪」」」


「ルークさまが唐揚げを時々【亜空間倉庫】にお入れになっていたから後でこっそり食べるつもりなら注意しようと思っていましたが、この娘たちのために確保しておいたのですね……ルークさまは誰にでもお優しいのですね」


 こっそり唐揚げキープしてたのイリスに見られてた!

 お読みくださりありがとうございます。


 なんかタイトル詐欺のような気もしますが……。

 参考資料として『牛革ポーチ』の画像を貼っておきます。


牛革ポーチ資料

挿絵(By みてみん)



 異世界なので、とあるビリビリ少女のように『ゲコ太君は子供っぽくて恥ずかしい』という概念をとっぱらいました。




≪硬貨の設定≫


 銅貨        10ジェニー

 鉄貨        100ジェニー

 銀貨        1000ジェニー

 金貨        10000ジェニー

 大金貨       100000ジェニー

 ミスリル硬貨    1000000ジェニー

 大ミスリル硬貨   10000000ジェニー

 オリハルコン硬貨  100000000ジェニー


 500円硬貨が7gですので、ミスリル硬貨20枚は大体刃渡り13cmの高純度ミスリルナイフ1本を作れる分量ぐらいとご想像くださいませ。

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