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第75話 ナチュラルハイ?

 迎えに来てくれていた騎士7名と御者には申し訳ないのだが、少し商都内のメイン通りを散策させてもらうことにした。


 夕刻ということもあって、通りは沢山の人で賑わっている。


「結構人多いね」

「外から帰った冒険者や、夕飯用の食材を買いに来た人たちと重なる時間帯ですからね」


 俺の何気ないつぶやきに、なんとエミリアが答えてくれた。

 内心ちょっと驚いているのだが、素知らぬ顔で会話を続ける。


「へー、でも屋台とかは出てないんだ?」

「メイン通りは店舗を構えた商店街です。屋台が並ぶのは中央広場と裏通りですね」


 おそらく、ディアナに乗って戦闘を見たり、川辺で遊んだりしたことで、ナチュラルハイ状態なんだろう。本人は気付いてないのかもしれないが、エミリアがこうやって普通に会話してくれるのが嬉しい。


「あ! ルーク様、屋台はダメですからね! 公爵家の料理人が腕を振るって用意しているはずです。少しの間我慢してくださいね」


「わ、分かってるよ……」


 イリスが話に割り込んで意地悪を言う……。


『♪ マスターの体のことを思っての発言ですよね。分かっていても食欲に勝てませんか?』

『イリスより意地悪発言だよね』


『♪ ナビーは一途にマスターのことしか想っていませんよ? ナビーの構成成分は100%マスターの愛からできています』


『嘘こけ!』

『♪ まあそれはともかく、監視が5名ほど付きましたね』


 イリスを庇うために【念話】で割って入ったのではなく、こっちがメインか。


『護衛の騎士は仕方ないよ』

『♪ いえ、後ろに付いてきている騎士とは別に、ゼノが3名、ガイルが2名用意した暗部の者のようです』


『マジか……MAPになんの反応もないぞ?』

『♪ 護衛を命じられた者たちですからね。敵意のない者にMAPの感知機能は反応しません』


 腕の立つ暗部の者とはいえ、俺は監視されている気配に全く気付けないレベルってことか。


『エリカは尾行に気付いてる?』

『♪ 視線や違和感は感じたようです。ですが、事前にこっそり護衛が付くということを知らされているので、過剰に警戒はしていないようです』


 エリカは気付けるのか……ちょっと悔しい。


『イリスやナタリーは?』

『♪ 全く気付いていないですね。ですが周囲の警戒はきっちり行っています』




「エミリアは自領だから、この辺の商店とかには詳しい? 欲しいものがいくつかあるんだけど」


「どのような物が欲しいのですか?」


「花屋と薬草を売ってる所かな。あと卵と牛乳、ミスリル鋼も補充したい」

「花屋ですか?」


「うん。花屋と薬草類はシャンプーや化粧品の素材に――」

「こっちです!」


 え~~~っ!

 

 エミリアが俺の裾を引き先導を始めたのだ……あんた男性恐怖症は?

 知らん顔作戦で会話を引き延ばす予定だったが、あとで反動がきても嫌なので教えてみる。


「エミリア……直接触れていないとはいえ、大丈夫なのか?」

「ひゃっ! わたくしっ、あわわ……ごめんなさい!」


 さっと袖口から手を放して急に慌てだした。


「まあちょっと落ち着け。頭痛や嘔吐感、眩暈や動悸、緊張や身が竦んだりとかは、今、大丈夫か?」


「は、はい。ルーク様に言われるまで、触れていることさえ気付いていませんでした」


「シャンプー欲しさとはいえ、良い兆候だと思うよ。俺に対する嫌悪感がなくなっているだけでも少し進歩だ。じゃあ、案内よろしくね」


「は、はい……わたくし、間にテーブルを挟んでいないのにルーク様と普通に話せてます……」


 やっぱ気付いてなかったのね……。




 時間的にあまり回れなかったが、ミスリルと牛乳以外は購入できた。


 その後、用意してもらった馬車で公爵邸に向かう。


  *  *  *


「エミリアお姉さまお帰りなさい!」


 屋敷について馬車から降りると、ララちゃんが駆け寄ってきてエミリアに抱きついた。


「ただいまララ、元気そうですね」

「はい! ルークお兄様もお帰りなさい!」


 今度は俺に抱きついてきたが、「キャン」と腹の上から鳴き声が聞こえた。


「あっ! ハティを服の中に入れてたんだった」


 ハティはもぞもぞと動いて、胸元から顔をひょっこりだした。


「ル、ルークお兄様! そ、そ、その可愛いのはなんですか!」

「ちょっとララ落ち着くんだ!」


 服の中から取り出して、地面に下ろしてあげる。

 ハティも寝ていたところに、急に強く圧がかかって驚いただけで、怪我とかはなさそうだ。


「わんちゃんごめんね」


 ハティはララに近付いてクンクン匂いを嗅ぎ始めたのだが、すぐにゆっくり尻尾が振られ始めた。


「どうやら、ララはハティに気に入られたようだね。それとこの仔は犬じゃなくて、神獣フェンリルの子供なんだよ」


「可愛いです♡」


 うん……ララちゃんには神獣とか言っても、希少性や凄さなんか分かんないよね。

 隣を見たら、ミーファやエミリアと挨拶していたアンナがハティをロックオンしてた。


「皆様ようこそ御出で下さりました。ここで立ち話もなんですので、どうぞ中にお入りくださいませ」


 たしか公爵家を取り纏めている家令の人だね。ガイルさんは今夜の会議の為に王都へ登城しているので留守のはずだ。


 屋敷の中に入ると、今回も執事や侍女たちが玄関ホールに並び出迎えてくれる。


 やっぱ綺麗処が揃ってる……凄く良い!

 結構な資産持ちの叔父さんのお屋敷でも、メイド服の美人さんはいなかった。パートのおばちゃんが週に二回掃除と洗濯に来てくれていると言っていた。


 日本にいたのなら決して見られなかったであろう光景をしばし眺める。


 エリカに背中を小突かれた……。


「ルーク様……」


 俺にだけ聞こえる程度の小声で一言つぶやき、なにやら目で合図を送ってきたエリカの視線を追ってみると、ミーファがムスッとした顔でこっちを見てた。


 そうだった……この娘、人の感情が色で分かるんだったね。

 メイド服の美人さんたちに興奮してたのがバレちゃったようだ。


 執事が談話室に案内しようとしてくれていたが、それを断る。


「とりあえず、先にサーシャ夫人の容態を見に行きます。エミリアも一緒に来るかい?」


「行きます!」

「ララちゃんも来る?」


「はい! 行きたいです!」


「なんで私にも声掛けてくれないのよ!」


「も、勿論アンナちゃんも声掛けるつもりだったよ――」

「あ、嘘ですね……」


 ミーファ! 余計なこと言わない!


 イリスも来たそうにしていたが、今回は親子水入らずが良いだろう。


 三姉妹を連れて、サーシャさんの寝室に向かう。


 執事は扉をノックし、開けないで声だけ掛ける。


「奥様、ルーク殿下がご到着いたしました。真っ先に奥様にご挨拶がしたいと仰られましたので、今お部屋の前までご案内させていただいております。今、御面会してよろしいでしょうか?」


「はい。お入りください」


 皆に感染予防の【エアシールド】を掛けて中に入る。


「ルークさん、わたくしのために学園を休んでまできてくださりありがとうございます」

「いえいえお義母さま、俺たちは家族になるのですからそうお気になさらないでください」


 サーシャさんはにっこり微笑んで俺に軽く頭を下げた後、エミリアの方を見た。


「エミリア……」

「お母様! こんなに痩せてしまって……」


 サーシャさんにも【エアシールド】を掛け、部屋の窓を開け換気を行い、【クリーン】で室内を除菌する。


「お義母さま、お加減はいかがですか?」

「以前よりはずっと良いのですが、また少し熱が出てきました」


 おでこに手を当て、熱を測る。


「微熱ですが、少しありますね。咳はでていないですか?」

「はい、咳はでていませんね。以前のように胸も苦しくないです」


 前回同様に治療しておく。


「まぁ! やはりルークさんの治療は凄いですね! 熱っぽいのも体がだるいのもなくなりましたわ♪」


 それを聞いた三姉妹がとても嬉しそうだ。


「ルークお兄様、ありがとうです♡」


 ララちゃん天使か!

 もうこの笑顔だけで俺は満足だ!


「ルークさん、今晩のお食事に、わたくしも御一緒できませんか?」

「ええ、大丈夫ですよ。あ、先ほど家令の人が1時間ほど準備にかかると言ってましたので、それまでお部屋で待機していてください」


「あなたたち9時ごろになるって最初連絡してきてたでしょ? 2時間も前に到着したから、みんな慌てて準備してたわよ」


 アンナちゃんが料理人たちが慌てていたと教えてくれる。


「予想以上に騎竜が速くてね。街に着いた時点で連絡入れればよかったね」


『♪ 街に到着時点で騎士からお屋敷に連絡は入っています。その時点で急いでお迎えの準備に入ったようです』


「ルークお兄様、お部屋の窓から見えました! 真っ黒なドラゴンでした!」


「お屋敷からじゃ小さく見えただろうけど、凄く大きくてかっこいいんだよ。今度乗せてあげるね」


「はい! 乗りたいです♪」


 ララちゃん目がキラッキラだね!


「さて、俺は看病してくれている娘たちをちょっと診てくるね。みんなはまだ居ていいけど、食事前にお義母さまを疲れさせないようにほどほどにね」


「はい。あと10分ほどしたら一旦お部屋を出ます。ルーク様、母を治療してくださりありがとうございます」


 目に一杯涙をためたエミリアにお礼を言われた。


 俺に自ら話しかけたエミリアを見て、サーシャさんとアンナがとても驚いていた。


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