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第62話 古竜様の過去話

 朝食後、授業開始の時間になるまで皆とくつろいでいたら、ゼノ国王がまたきた。どうしても助けてほしい家臣がいるからと、朝から俺に頼みにきたみたいなのだ。


 家臣の為に頭を下げられる国王のことを、俺はカッコいいと思う。


 とりあえずその危険な状態だという家臣の家に向かうことにした。


 ちなみに、ハティは俺の服の中の腹の上でお休み中。ディアナは召喚の儀が見たいとミーファたちと一緒に観覧授業に出ている。ナビーはディアナのお目付け役に同行させた。ドラゴンの普段の行動がどういうものか知らないので、なにかやらかさないか心配なのだ。




 学園からそう離れていない大きなお屋敷にその人は住んでいたのだが、これは……。


「ゼノ国王、手遅れかもしれません……」

「……そうか……」


 すでに意識はなく、かろうじて呼吸している状態だ。

 俺の鑑定魔法では重篤状態と出た。


「【クリーン】、服を脱がせますね」


 臭いがきつかったので服を脱がせてみたのだが、思ったとおり臀部に酷い褥瘡じょくそうができていた……俗に言う床ずれだ。

 だがこれは魔法や回復剤のあるこの世界では比較的簡単に治せる。


 再度【クリーン】を彼とベッドに掛け、腐ってしまった肉をナイフでそぎ落とし、俺の中級回復魔法より効果のある上級回復剤を患部に惜しみなくぶっかける。見る間に臀部に大きく穴が開いていた皮膚が塞がっていく。


 労咳用の治癒魔法も掛けて治療は終わりだ。


「どうしてこうなるまえに処置をしていなかったのだ!」

「申し訳ありません!」


 彼の介護をしていた使用人にゼノ国王の怒声が飛ぶ。


「ゼノ国王、怒る気持ちは分かりますが、だれも末期の労咳患者と長時間同じ部屋にいたくないでしょう? おむつ交換などもさっと済ませてすぐ部屋を出ていたと思うので、おそらく気付けなかったのでしょう。診療所の介護専門職の人ならともかく、元からそういう知識のない使用人です。責めるのは可哀想ですよ」


 うつるかもしれない相手なのだ、マスクなどの防御方法すら知らない世界で介護者を責めるのは酷な話だ。


「彼は俺が騎士学園に通っていた頃のパーティーメンバーの一人なんだ。卒業後も俺に仕えてくれると言って近衛騎士になってくれた。こいつにはなんどか命も救ってもらった。この魔法で治らないほどの背中の傷は、野盗退治に向かった時に、俺を庇って毒の塗られた剣で切られた時のものだ……」


 ゼノ国王は背中の傷を撫でながら昔語りをしてくれた。

 毒の傷は処置が遅れると火傷のような跡が残るのだ。


「親友なのですね」


 布団を一式交換させ、新しい寝巻を着せてから師匠特製の精力剤を喉の奥に流し込んで飲ませる。


「ルーク様、それは?」


 静かに見ていたイリスが横から訪ねてきた。


「師匠特製の滋養強壮剤。治療したとしても食事を摂らないと人は死ぬ。師匠のこれは、1本で1日分の栄養が摂れるそうだよ」


「大賢者エドワード様の秘薬か!」


 ゼノ国王も食い付いてきたが、成分を聞いたら多分ドン引きするだろうな。


「……ゼノ様?……なぜここに……」


 師匠特製の滋養強壮剤を飲んだ後、彼の意識が戻った……が、助かったわけではない。弱々しい声だ。


「気が付いたか、気分はどうだ?」

「ゼノ様……ゴホッ……早くこの部屋から出てください……俺の病気がうつってしまう……ゴホッゴホゴホッ……」



 俺はもう一度肺の炎症を抑えるように中級回復魔法を掛け、そっとゼノ国王に耳打ちする。


「ゼノ国王、今日明日が山です。気力で生きているので、今の気力を失わないように励ましてあげてください」


 ゼノ国王は俺にこくりと頷いた後、寝ている彼に声を荒げてこう言った。


「お前はいつまで仕事を休むつもりだ! いい加減治して俺の護衛をしないか! 今日は労咳を治せる回復師を連れてきてやったぞ! すぐ良くなるからさっさと職場復帰しろ!」


 酷い励まし方だが、彼の心には響いたようだ。


「ははは、死にかけている病人に早く職場復帰しろとか……相変わらずだな。できるなら俺もそうしたいさ……」


 言葉遣いが国王に対してというより親しい友人に対してのものに変わった。


「この回復師は凄いぞ。弟の嫁のサーシャ夫人の労咳をあっという間に治してしまったんだぞ。そして俺の息子になる予定の奴だ。ミーファがベタ惚れでな……彼と結婚できないなら、一生独身でいると初めて駄々をこねたほどだ」


「ミーファ姫が? 俺は本当に助かるのか?」


「ええ、助かりますよ。もう労咳は不治の病ではありません。あとはあなたの気力次第です」


 あれ? なんかこの人、目に力がみなぎってきたんじゃないか?


『♪ 凄いですね。魔力循環を行い始めました。体内で停滞していた魔素を、【身体強化】に利用しています。多分もう大丈夫じゃないでしょうか』


「なんか彼、魔力循環を自発的に始めたみたいです。多分もう大丈夫です。というか、死ぬ気がしない」


 その後家族が呼ばれ、子供たちに励まされた彼は更に気力が充実してきた。


 お屋敷内の感染者も治療しておく。

 

「4名再治療が必要ですので、明日また来ます」


 そう声を掛けお屋敷を出た。


「ルーク君ありがとう! この恩は必ず返そう!」


 午前中に4軒の家を周り全て治療した。



 * * *



 王城に行き、昼食を振舞われたのだが、俺もイリスも緊張してしまうような宮廷料理が並べられた。ルーク君は食べなれているだろうけど、俺自身だとここまで豪華なものは叔父さんに何回かコース料理を奢ってもらったことがある程度だ。


「ルーク君、治療する相手は本当に何人でも良いのか?」

「ええ、何人でも良いですよ。ただ何度も言ってるように、俺にもやりたいことが沢山あります。ずっと治療だけやっている訳にはいきません。早めに神殿関係者を集めてくださいね?」


「その件なら教皇と聖女も明日来てくれると少し前に連絡があった。水属性2名を含んだ高位術者7名だそうだ」


「了解しました。イリスも同伴させますので欠席扱いにならないよう手配お願いします」


「勿論だ。公務扱いにするので出席日数には影響がないように学園長に頼んでおこう」


「そういえばディアナの件もご配慮いただいたようでありがとうございました」


 学園長からの許可もおりて、ディアナも一緒に授業を受けることができるようになった。


「古竜様があんな可愛いお姿になられていて今朝はびっくりしたぞ。やはりディアナ様はドワーフのガーレルという町の守護竜様だったお方なのだな?」


「守護竜?」

「ああ、伝記として残っている有名な話だ。ガーレルは鉱山にある鍛冶で有名な町なのだが、600年前まで採掘場の側に構えた小さな仮設村だった。そこの村長たちが物資の仕入れの帰りに魔獣に襲われている所を大きな黒竜に救われたのがこの物語の始まりだ。最初は襲ってきた魔獣より竜に恐れおののいたそうだが、魔獣を蹴散らした後一向に襲ってこない竜に、仕入れたばかりの荷馬車の酒樽をお礼にと言って3つ差し出したそうなのだ」


「酒ですか? でもあの大きな体だと飲むというより舐めるようなものじゃないかな」


「竜の姿のままだとそうだろうね。救われた数日後に、その黒竜が村にきたそうなんだ。村の広場に降り立った後、美しい黒髪の少女に変身したと語り継がれている。村長たちの話を嘘っぽい……酒は自分たちで飲んだんじゃないかと疑っていた村人も実物を見て驚いたそうだ。可愛い少女に恐ろしさは全く感じず、村中をあげて持て成したみたいだね」


「まさかディアナの奴、餌付けされたんじゃないだろうね……」

「物語では黒竜様はたいそう喜んでくれて、村に祝福を与えてくれたと書かれている。鉱山の中腹なのでそれまであまり作物が育たなかったのが、祝福を得てから良く育つようになったそうだ。魔獣も竜の気配を恐れて周辺には一切近付かなくなり、黒竜様を信仰の対象にしていたようだよ」


「今度本人に聞いてみます」


「この物語にはまだ続きがあってね。それ以来時々村を訪れるようになり、黒竜様と仲良くなった村人の一人が何気なく『黒竜様の鱗とか寝床に抜け落ちていませんか?』と聞いたそうなのだ。丁度鱗の生え変わりだったらしく、黒竜様の巣から大量に鱗を貰ったそうなんだ」


「鱗? 竜は脱皮じゃないのかな?」

「脱皮だが、ヘビのようにツルンと 剥けるようなものではなく、鱗が生え変わるそうだよ。で、その剥がれ落ちた鱗を使った黒竜のプレートメイルなどの、武器や防具が超硬くて軽い国宝級の品ができるそうなんだ。それを売って得たお金で仮設村が町になったそうだから、凄い品なんだろうね」


『♪ ゼノは抜け落ちた鱗があったら欲しいようですね』


 学園にいるはずのナビーから念話が届く……どうして離れたところにいる俺の会話が筒抜けなんだよ。


『♪ ユグドラシルシステムを介してマスターの動向は監視しています。マスターの身に何かあれば、ディアナを連れて速攻で向かいますのでご安心を』


 マジですか……常に監視されるというのはちょっと心的負担になるが、身の安全に関しては心配がなくなるのか……。


『で、鱗は現在ディアナの巣に落ちてるかな?』


『♪ 結構ありますね。ディアナはお宝しか持ってきていないので、一度回収に行きましょう』


「今度巣に行ってみます。あったら俺も黒いプレートメイルとかカッコ良さそうなので欲しいかな」


「だよな! 絶対かっこいいと思うぞ! 村長が亡くなってからは黒竜様は訪れなくなったと伝えられているが、ドワーフはエルフ同様長寿種族だし、当時子供だった者がまだ生きているだろう。一度訪れてあげると喜ぶんじゃないかな? 鱗を持っていけば腕のいいドワーフの職人が加工してくれると思うぞ」


「確かに。鱗があったらディアナと訪れるのも面白そうですね」


 この話は古竜様の伝記であってドレイクだったディアナの話ではないのだけど、俺のように記憶の一部が融合してしまっているのなら、今のディアナもその町に何らかの思い入れはあるだろうと思う。


 午後からは王城内と婦人たちの縁故の家をまわる予定だ。

 ゼノさんから、『お茶会の情報網は大事にしろ』というアドバイスをもらった。


挿絵(By みてみん)


 よろしくお願いします♪

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