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第61話 ゼノ国王の切なるお願い

 朝……何故か怒気交じりの声で起こされた。


「ん? おはよう……あれ……なんか怒ってる?」


「ルーク様! その子はいったいどちらさまなのでしょうか?」

「そうです、わたくしというものがありながら……」

「ルーク様、流石にちょっとそういう趣味はよろしくないかと……」


 イリス、ミーファ、エリカの発言だが、完全に俺の意識が覚醒したころに、体に温かいものを感じる。


 俺の胸の上にナビーが、左側にハティーがぴったり寄り添って寝ているのだが、問題は右側だ。可愛い女の子がくっついてすやすや寝ているのだ。


 ミーファたちは恒例の散歩に誘いに来てくれたようなのだが、そこでシーツから顔をのぞかせて俺の腕枕で眠っているこの子を目にして今に至るようだ。


「イリスさん、起きてすぐに気付かなかったのですか?」

「ええ。私、自室から出てルーク様が眠っているのを確認してそのまま朝食の準備に取り掛かりましたので、良く見ていませんでした。で、ルーク様……その子はどちら様で?」


「いや、俺にも分からない」


 起き上がってシーツをめくるとその子は全裸だった。

 見た目は少女とも幼女とも取れる、微妙な年齢の可愛い娘だ。


「おい、起きろ!」

≪♪ ふぁ~~、おはようマスター~≫


 先にナビーが目覚めた。


「ナビー、この子誰だ?」

≪♪ え~~、誰って……≫


 あ、例の少女も起きた!

 目をこすって、周りを見渡してから俺を見る。


「主様、おはようなのじゃ!」

「ん? ひょっとしてディアナ⁉」


「ディアナじゃぞ? 妾と従魔契約で繋がっておる主様なら分かるじゃろ?」

「「「古竜様⁉」」」


「うん、なんとなく分かる。お前、人化できるの……ちょっと驚いた。ところでディアナ、なんで裸なんだ?」


「なんでと言われても、妾は服など持っておらぬからのぅ」

「イリス、悪いけど何か着るものを貸してあげてくれないかな? 微妙に膨らんでいるので目のやり場に困る」


「微妙にとは、主様は失礼じゃの!」


「ルーク様はディアナ様がベッドに入られた時にお気付きにならなかったのですか?」


「うん、全く気付かなかった。そういえば、ディアナはどうやって入ってきたんだ? 昨日ミーファたちは門限ギリギリまでいたから、その後に来たのだとしたら寮には鍵がかかっていて入れなくなっていたはずだけど?」


 ディアナはそっと指を窓の方に向けた―――


「お前なにやってんだよ!」


 ディアナの指差した方を見たら、窓ガラスの一部が割られていた。


「妾は悪くないのじゃ! 巣穴から荷物を取って戻ってきたら、どの部屋も真っ暗だし、流石に裸で衛兵の前に行くわけにもいかぬじゃろ? 主様の気配を辿ってこの部屋を探し当て、中を覗いたら主様が寝ていたから割って入ったのじゃ」


「全く気付かなかった。ナビーは気付いていたんだろ? ディアナが窓を割る前に起こしてくれたら良かったのに」


≪♪ 声は掛けたよ。マスターは起きませんでしたけどね~。すぐに割って入ってきちゃったから、今更起こしても意味ないかって思ってそのままディアナと一緒に寝たのです≫


「ルーク様、私のものなので少し大きいかもしれませんが、服をお持ちしました」

「イリスありがとう。ディアナ、とりあえずこれ着て……」


「ふむ。可愛い下着じゃの?」

「古竜様! ルーク様の前でパンティーを広げないでください!」


 可愛い水色の下着だね。ディアナGJ!


「ミャン」

「ハティもおはよう」


「「「神獣様、可愛い!」」」


≪♪ ハティは朝のおしっこみたい。ハティー、こっちでするのですよ~。ついておいで~≫


 ヨタヨタとしながらもナビーに付いて行っている。


「マジか? 言っていることを理解しているのか?」

≪♪ ハティの躾はナビーにお任せ♪ 睡眠学習で言葉や基本的なマナーは教えるから、普通の仔狼よりずっと早く賢くなるよ≫


「生後間もないので無茶はしないようにね? まぁナビーに任せるよ」

≪♪ ラジャー! 任されました!≫


「え~と、皆の誤解は解けたかな?」


「あ、はい。ごめんなさい。わたくし、勘違いしていました」

「ルーク様、私も勘違いでした。申し訳ありません」

「幼女趣味と疑ってしまい、申し訳ございません!」


「最後のエリカが一番酷いからね! まぁ、俺もびっくりしたので仕方がないか」

「でも、古竜様が人化できるなら、授業中も一緒にいられますよね?」


「そうだね。ディアナ、どうする? 俺たちは授業中構ってあげられない。学園長に頼んで一緒に授業受けてみる?」


「ふむ、人間の通う学校というものに興味はある。妾も主様と一緒に授業とやらに行きたい。1人だけ留守番は嫌じゃ」




 今日の散歩は大所帯だ。イリスも既に朝食の下ごしらえは終わっているそうで、一緒にきている。


 見た目は5人と獣が2匹、妖精1匹だ。


「ハティはまだちょっと散歩するには無理があるね」


 歩くのは好きなようだが、まだヨチヨチ歩きだ。長距離は足に負担がかかるので、途中から俺が抱っこした。


 *  *  *


 散歩後にエミリアたちと合流し、朝食を食べる。エミリアは今日もちゃんときてくれている。


 朝食後に皆でお茶を飲んで寛いでいたら、ドアがノックされる。

 こんな時間に訪問者? もう少ししたらホームルームに向かう時間だ。


「ルーク君、朝早くすまない」

「お父様?」


 ゼノ国王だった。

 昨日夕飯食べてったのにまた来たよ。


「こんな朝早くにどうなされたのですか?」


「ミーファに釘を刺されているのだけど。どうしても助けてほしい者がいるのだ。君に嫌われたくはないので、言おうか随分迷ったが、そいつは今日明日にでも死にそうなほど弱っている。お願いだ、優秀な奴なんだ。死なせるのには惜しい! どうか助けてやってくれないか! このとおりだ!」


 ゼノさんは深々と頭を下げて俺に家臣を助けてくれと訴えかけてきた。


 この人めっちゃカッコイイな!


 王様なのに部下の為にこうやって娘と同じ歳の奴に頭を下げられるんだ。


『♪ マスター、フェンリルから神獣の加護を得て、更に魔力量が増えていますし、【MP回復速度上昇】と【MP回復量増量】のパッシブが今は付いています。公爵領でいた時とは違い、今なら結構な人数治療できます』


『そうだね。助けられる命は助けてあげたい』


 それでも俺1人ではやはり厳しい。この国王なら俺を大事に庇護してくれるだろう。面倒だが、菌やウイルスについて、神殿関係者に理解させるとしましょうかね。


『♪ そうですね。ではナビーが分かりやすいように、絵本でも作りましょうか?』


『絵本か……うん、それはいいアイデアだ。目に見えないほど小さな菌がいて、それが体の中に入って発症するって理解できるように頼む。風邪との違いも書いておいてくれ』


『♪ 了解しました』



「いいですよ。どうせ1年生は2、3年生の『召喚の儀』の観覧だけですし、俺は授業に参加しないで、これからすぐに治療に向かいましょう」


「いいのか⁉」


「ええ、俺がしたいことの妨げになるようならお断りしますが、人助けがしたくないって訳じゃないのです。ただし、いくつか条件があります」


「どんな条件だい?」


・俺の素性は秘密にすること(仮面でも被るかな)

・治療した相手が貴族なら、その家に見合った寄付をさせること

・その寄付金で、国営の診療所を建設すること


「いま思いつく限りではこのくらいですね。後でまた増やさせて頂くかもしれませんが」


「全部ルーク君に利があるわけではないじゃないか。君の名を売るチャンスにもなるんじゃないか?」


「名を売りたいと思わないからですね。それとどこか部屋数のある大きなお屋敷を用意してください。そこにゼノ国王が治療してほしい人を全て集めてもらえますか? 人数の制限はしません。何人でも良いので、全員集めてください」


「何人でも良いのか⁉」

「ええ、今週の金曜日の晩にはガイル公爵宅に向かいますが、それまでそのお屋敷で、放課後にできる限りの治療を行います。ただし、全員部屋は分けておいてください。同じ部屋に集まると、感染していない者までうつってしまいます。それと、俺のこの治療って実はある程度教えられます。【魔力操作】がレベル5以上で、上級回復魔法と上級解毒魔法を持っている神殿関係者を代表で5名ほど集めてもらえますか?」


「教えられるものなのか⁉ でも、君は教えてしまっていいのか?」

「ええ、問題ないです。ガイル公爵にも同じように、どこか一カ所に治療してほしい患者がいるなら集めておいてと伝えてもらえますか?」


「この治療法は、とんでもない利権が発生するんだぞ?」

「お金には困っていませんし、人の命で儲けようとは思っていません。教えるのが神殿関係者だけなのもそういう理由です。彼らは治療費として寄付を募りますが、孤児院の運営や、神殿の維持のためのものです」


「有り難い。できる限り、国王としてこの恩に報いよう」


「「「ルーク様素敵です♡」」」


『♪ これに関してはエミリアも好感触です!』


 俺とイリスは授業を抜けて治療に向かうことにした。

 どうせ観覧だけだしね。


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