第49話 ゼノ国王との食事会
どうもうちの親父は、俺が回復剤を作れる事を知ってた上で隣国に婿に出したようだ。そう思うと腹立たしさより悲しくなってくる。
宿主のルーク君の記憶からくる感情なのだろうけど、俺にもちゃんと情のようなものがあるのだ。そう簡単に割り切れるものではない。
『♪ マスター、ルークの事を想っての婿入りです。自国では男爵位しかやれないだろうと考え、男爵位で生活するとなると、王家に不平不満のある上位貴族の良いはけ口にされかねないと考えたようです』
『あ~そういうことか。確かに王家も一枚岩ではなく派閥があったようだし、そこに男爵位の元王子がいたら、どんな因縁をつけてきて揉め事に発展させようとしてくるか分かったものじゃないな』
「君のお父さんは、ルーク君が思っているよりずっと食えない男だぞ」
「そのようですね……」
「まぁ、俺も君に対して悪いようにはしない。ミーファを大事にしてくれるのであれば、強制も束縛もしないので、この国で好きに生活してくれればいい」
「でもそれは子作りが前提でって話なのでしょう?」
「う~ん、違うといえば嘘になるが、それも好きにしていい。ミーファに任せることにしたからな。娘を信じよう……」
「お父様!」
「うん? どういう事でしょうか?」
「なんでもありませんわ! お父様の戯言です!」
何の事だ?
『♪ ミーファはマスターとのお付き合いをゼノに迫った時に、「子供はわたくしが沢山産みます! エリカやエミリアも上手く誘導いたします!」と言ってゼノと交渉していますね』
『マジか⁉ エリカちゃんは、その事を知っているのかな?』
『♪ 知っていますし、まんざらでもないようです。まだ踏ん切りは付いていないようですので、迫っちゃダメですよ』
『まんざらじゃないって、ルーク君のどこが良いんだ? 正直俺だったら絶対拒否するぞ?』
『♪ そうですか? 確かに見てくれは太っていますが、エリカからすれば命の恩人ですし、治療のためとはいえ胸まで見られたという意識があります。そして将来は侯爵夫人で、第一夫人は知った仲のミーファ姫です。エリカの嫁ぎ先としては好条件だと思いますよ』
『そうやって言われるとありなのか? 俺は知らない事にしておくよ……』
「随分待遇が良いですね……」
「だってルーク君、束縛したら絶対この国から逃げるだろ? そのくらい才があれば、どこの国に行ってもお金に困る事はないだろうからね。ヒーラーとしてでも薬師としてでもいかような暮らしもできるだろう。束縛して逃げられるくらいなら、自由に暮らしてもらって、できる範囲でこの国に恩恵を与えてくれればそれでいい」
才のない無能なら、逃げる手段さえなくマジで種馬として飼殺されていたかもしれないな。お金を稼ぐ手段があるというのは大きなメリットだね。
「分かりました。そこまで俺の事を認めて自由にさせてくれるのなら、この国で頑張っていこうと思います。とりあえずお礼にあなたの治療をしましょうか……。例の流行病に感染して、既に発症しています。お義母様の方は大丈夫のようですね」
「……この熱っぽさは、病にかかっているからなのか?」
「ええ、この病の特徴は高熱ではなく微熱が続くのです。体のだるさはありますが、動けないほどではないので、皆この時点では無理をしてしまうのです。そのうち咳が酷くなり、どんどん悪化していきます。咳に血が混じり始めたらそれはもう末期症状です」
「お父様」
「あなた……」
「という訳で、【クリーン】【アクアラヒール】初期症状ですので、これで完治です。王なので面会も多いと思いますが、変な咳をしている人や熱っぽい人との面会は事前に調べて取りやめた方が良いですよ」
「ありがたい。感謝する!」
「ルーク君、ゼノを治して下さってありがとう」
「ルーク様、ありがとうございます♡」
「な? 俺が言ったとおり、良い買い物になっただろ? 噂が全てではないのだ……」
「あ、でもあの噂はほぼ真実ですよ? 自国では悪戯ばかりしていました」
「うむ。母君へ対しての反発ではないかと聞いている」
「チルル付きの侍女が間者ですね?」
『♪ 副料理長と古参の執事もそうですね。末端の使用人にも2名紛れ込んでいます』
『副料理長とかヤバいじゃないか! 戦争にでもなったら内部から毒殺されてしまう。チルルの侍女も何かあった時に人質にする為か?』
『♪ あはは、考え過ぎですよマスター。絶対ないとは言えませんが、ゼノはそのような事まで考えていませんよ。いち早くできるだけ正確な情報を得るために、隣接している国には全て間者は潜ませています』
「よく分かったね?」
「副料理長と古くからいる執事もかな? 万が一戦争になった時に毒殺でもする気ですか? 妹のチルルに何かしたら許さないですよ……」
「そんなつもりは全くない! 誤解だ! 君の父君も気づいているうえで放置しているくらいだ。戦争なんて万が一も起こりえないよ」
「ルーク様、お父様の言葉に嘘偽りはございませんでした」
「ん? あ、そうか……。ありがとうミーファ、君は嘘が吐けないから、そうだと言うならそうなんだろう」
「妹君の御付きになったのはたまたまらしいぞ。チルル嬢の方から指名して頂いたと言っていたぞ。でもどうして間者だと分かったのだ?」
「王城内で俺の事を馬鹿にしたり陰口を言っているのを見た事がないからですね。俺の事を詳細に調べられる距離にいる者はそう多くないのです」
いつもチルルが遊びに来た時、後ろでジーっと俺を観察していたのだ。めっちゃ冷めた目で俺を見ているが、侮蔑した目とは違っていたのでちょっと怖かった。
20歳前後の超色白の美人さんなのだが、あまりにも冷めた態度なので、ルーク君が付けたあだ名が『スノーレディ』。「今日もヒエヒエだね?」と言うと「殿下は今日も暑苦しいですね」と返すような娘だった。
「そのような理由で? 彼女に対してのセクハラ行為は一切なかったと聞いているが、それも気になっているのだが……何かあるのかね?」
「妹に嫌われたくないってのもありますが、一番は俺の覗きや悪戯は、その者等に対しての仕返し的なやつです。覗いた事もないのに蔑んだような応対をしてきた者には期待どおりの行動をしてあげただけです」
「まぁ! ルーク様、そのような言い訳しても覗きなどしてはダメですよ。覗かれた女子は一生心に傷を負ってしまいます」
ミーファに怒られた。
「そのような者に対しては、悪戯だけに止めて覗いていないよ」
「本当のようですわね。でも、もう覗きはダメです! 女子の裸が見たいのなら、わたくしので我慢してくださいませ」
ミーファを見る……ゴクリと喉が鳴ってしまった。
我慢どころか、なんて我が儘ボディーなんだ!
ミーファが居れば他は要らないよ?
「いや~、その、なんというか、ミーファが居れば他の娘は必要ないかな……」
「ルーク君。そう言わず、我が国には沢山いい娘がいるので、是非つまみ食いしてくれたまえ」
「お父様!」
イリスたちが追加の料理を作り、皆で食事をしながら結局2時間ほど国王たちは寮で過ごして帰った。途中騎士が様子を伺いにきて「毒見もせず、また勝手に口に入れて!」と息巻いていたが、すぐ部屋から追い出していた。
この国王様となら上手くやっていけそうだ。
でも、種馬扱いは勘弁してほしい。




