第29話 従者とか要らないです
料理人を診た後に、久しぶりに風呂に入れた!
兄様も一緒に入っていたのだが、カラスの行水のようにあっという間に済ませて出ていってしまった。今は俺一人湯船でゆったりくつろいでいる。
うん? なにやら外が騒がしい―――
「お嬢様、ダメです!」
ララちゃんが突入してきた……。
「ルークお兄様、ララも一緒に入りたいです!」
すでにララちゃんは素っ裸なのだが、良いのかこれ?
俺にロリコン属性はないけど、この世界でこの年齢の子とお風呂を一緒にしていいものか判断ができずに困っている。
「ルーク殿下、申し訳ありません! お嬢様がお部屋に居ないので探しておりましたところ、こちらに入るのを見かけたという者が居まして……。急いで参りましたが、既にララお嬢様は衣服をご自分で脱ぎ捨てていて、お止めする間もなく……どうかお許しくださいませ」
「いや、僕は良いんだけどね……というか……子供のララはともかく、貴族家のご令嬢の君が入ってきている事の方が問題になるよ」
本来、王族や上位貴族の入浴には介助人が付くのだが、兄姉たちはそういう者を拒んでいた。
俺? ルーク君は可愛い侍女を付けたかったようだけど、兄様や姉様に何故かダメだと怒られて、渋々諦めていたようだ。
『♪ 事実は使用人の女子たちがルークの介助をするのを泣いて嫌がったという裏事情があるようですよ。兄姉たちはルークがそれを知って傷つかないようにと、自分たちは介助人を付けないと言い出したのです』
『マジか⁉ そういえば記憶では子供の頃には介助してくれる者たちがちゃんといた……14歳ごろから兄姉たちによって1人で入るように言われたんだよ』
『♪ それでララですが、マスターがお嫌でないのなら、その年齢でしたら問題ないです』
「ルークお兄様……一緒に入ってはダメ?」
「別にいいよ。入っておいで、体が温まったら僕が髪を洗ってあげよう」
「やったー!」
「ですが……殿下にそのような事をさせるのは……」
「別に問題ないよ。僕にはこの子と同い年ぐらいの妹が居て、何時も一緒に入って髪を洗ってあげていたからね」
「そうですか……一応誰か入浴介助に来させますね」
「介助人は要らないと、事前にガイル公爵に伝えたはずだけど?」
「……分かりました……では、お嬢様の事、よろしくお願い致します」
やっとお風呂場から出て行った。俺が自分でお風呂に入れないと思っているのだろうか?
『♪ 彼女はララ付の侍女ですね。今、慌てて家令の所にこの件の相談に向かっています』
『相談?』
『♪ 子供とはいえ、当主家のご令嬢を、お年頃の男子と一緒にお風呂に入らせても良いものかと……自分で判断しかねたので相談しに向かったのです』
『なるほど……俺と同じくそっちの心配をしてたのか。本当に問題ないんだね? やっぱダメでした……って怒られるのは嫌だよ?』
『♪ 大丈夫ですよ。流石に6歳になったばかりの幼女ですので、女性扱いはこの世界でもしていません』
その後に誰かが怒り狂って入ってくることもなかったので、やはり問題なかったようだ。
この世界では、謎の液体で頭も体も顔も全て洗うのだが、体は良いけど、髪はなんかごわつく……乾いたらパサつきそうな感じがする。
髪も体も洗い終えた後、ララちゃんと一緒に湯船に浸かり、出る前に体を温めているところだ。
『川のほとりで~カエルたちが~♪
歌っているよ~♪
グワァッ! グワァ! グワァ~♪』
めっちゃカエルの声をリアルに再現してみせた。
「ルークお兄様、カエルはこう鳴くのですよ。ンモッ~! モッー!」
「ひゃはは! ララ、それウシガエルじゃん! しかもメッチャ似てるし!」
思わず素が出てしまった……。
体も温まり、お風呂場を出たら、脱衣所に先ほどの侍女が衝立の後ろに控えていた。
「ルーク殿下、ありがとうございました。久しぶりにララお嬢様の楽しげなお声を聞く事ができました。さ、ララお嬢様はこちらに……」
『♪ サーシャが病気になってから、最近ララは笑顔もなく塞ぎ込みがちだったようです。脱衣所で控えている間、ララの楽しそうな笑い声や歌声がずっと聞こえていて安心したようですね』
衝立の後ろから声を掛けてきたが、どうやらララの着替えをしてくれるようだ。
侍女はさっさとララに服を着せ、公爵の伝言を俺に伝えた後出て行った。
最初に入った応接室に来てほしいとの事だ。
* * *
応接室に入ると、控えていた侍女がすぐに冷たい飲み物を出してくれた。
この娘は俺をトイレに誘導してくれた侍女だね。侍女も沢山居るので覚えきれないや……。
「ゆっくり入りたかっただろうに、ララがすまなかったな」
「ルークは妹のチルルの入浴係ですから慣れたものですよ」
「なんで兄様が答えるのですか……」
「疲れているだろうが、少し伝えておく事がある。今回呼んだのはルーク君が学園に通う際の従者の事についてだ」
「うん? 従者ですか?」
「ああ、そうか……俺たちが通ってた竜騎士学校は、従者同伴を認めてなかったからね」
そういえば魔法科に通っている姉様にはちゃんと侍女が付いていた……まぁ、俺の婚約者だったルルだけどね。
「兄様、どうして竜騎士学校は従者同伴を認めていないのですか?」
「授業の最初の頃に説明があったはずだが?」
「き、聞いていなかったかもしれません……」
「お前というヤツは……ドレイクに乗るのは基本一人だ。戦闘を想定した訓練が主な目的だからな。そうなると従者にもドレイクを用意する必要があるだろ?」
「あ、そうか……そう簡単にドレイクを準備できるものではないですね」
「ああ、成績優秀でドレイク所持者……そうなってくるとその者が上位貴族なんだよ……下位貴族がそう簡単にドレイクを持てるわけないからな」
で、今回俺が行くのは魔法科だ……家格に見合った従者を連れて行くのが通例なのだそうだ。
「実は急な話だったので、従者をまだ用意できていないのだ。同年代の優秀な人材は既に本年度に入学してしまっているからね……」
そりゃそうか……でも、違う理由で従者は要らない。
「僕に従者は必要ないです」
「そういう訳にはいかないのだよ。家格が伯爵家未満の者は従者同伴は認められていないが、裏を返せば伯爵家以上の者は連れて来いと言ってるようなものなのだ……」
貴族の子共の中にはルーク君のように怠け者も多いのだ。幼少時より従者が全てやってくれるものだから、着替えの準備すら自分でできない者さえいるらしい。
そんな子たちの面倒まで教師が見る訳もなく、学園側はそういう子には従者を連れてくるようにと始まったのが従者同伴制度なのだ。それがいつからか家の威信にかけて家格に見合った優秀な従者を連れてくるのが通例になってしまったみたいだね。
「僕に公爵家の鈴を付けたいのでしょうけど、流石にそれはお断りします!」
「ルーク!」
「ほぅ……あながち間違いではない……君の噂が酷いので、ストッパーになる者を付けようと考えていたのだが……う~ん……」
噂どおりなら、俺が学園で女子寮に侵入したり、お風呂や更衣室を覗いたりしかねないと思うだろうからね。
でもマジで従者は要らない……邪神退治の邪魔にしかならないからね。




