第18話 It’s Show Time!
これからお世話になる国の姫に嫌われたくはない。
いや……正直に言うと、国がどうこうより、こんな可愛い娘に嫌われたくないのだ。
殺した理由を明かしてイメージ回復をしておこう。
暗殺者から【魔封じの枷】を取り外し、姫にそれを手渡す。
「姫様、その枷が本物かお確かめください」
「あの……さっきまで暗殺者が嵌めていた物ですよね? 疑うまでもなく本物でしょう? 分かり切った事実を確認する意味があるのでしょうか?」
「そうだけど……確かめさせる事に意味があるのですよ。それと、鍵を預かっていてください」
「良く解りませんが、分かりました……」
「隊長さん、この枷に鎖を付けて、僕の手を体の後ろ側で鍵をかけてしっかりと拘束してもらえますか?」
皆、俺が何をしたいのか解らず困惑気味だ。
「それならば、私が所持している【魔封じの枷】をお使いください」
俺の嵌められていたやつは、俺の魔法を封じていただけなので鎖はついていなかった。
「では、それを使って拘束してもらえますか? 鍵は姫様に預けてくださいね」
どうやらこの国の枷も、俺が嵌められていた物と同じ作りだったので問題ないだろう。
全員俺の前に並んで座ってもらい準備は整った。
It’s Show Time!
「皆さんの前で僕は隊長の手によって【魔封じの枷】で拘束されています」
だからなんだって顔で俺を見ている。
「今から5秒後に何かが起こりますので、よく僕の方を見ていてください。ではカウントを始めます」
俺は右手を皆の前に見やすいようにあげて、指を折って数えていく。
「5・4・3……」
「アッ! ルークお前! それ!」
流石兄様! 彼だけが今のところ気付いたようだ。
「どうしました兄様? 途中で声を掛けたらダメでしょう」
「ジェイル様? 何かお気付きになったのでしょう? わたくしにも教えてくださいませ」
目の見えない姫が、兄様に質問してしまった。
確かに見えない姫からすれば何をやっているのか分からないので、演出に意味はないか……。
「あ、姫様の肩にごみが付いています……」
そう言いながら姫の肩に手を持っていき、何かを掴む素振りをして【インベントリ】からサッとチューリップの花束を出す。辺境伯領の門のところで花売りの少女が売っていた物だ。このチューリップも野生種なのかもしれないが、あからさまな野花よりは可愛くて良いだろうと思い選択した。
「ゴミではなく、可愛い花でした。どうぞ姫様」
姫に手渡したのだが、未だおかしな事に気付いていないようだ。
「ルークどうやったのだ……姫、ルークのヤツ、今さっき皆の前に右手をあげ、指を折って数を数えたのです。それに【魔封じの枷】が付いている筈なのに【亜空間倉庫】から花束を取り出しました」
「エッ? ルーク様は、今、後ろで手は拘束されていますよね? そういえば自ら手渡しで花を……あら、このお花、とても良い香りです」
「「「アッ! ??? ホントだ!?」」」
「拘束されていますよ? ほら……」
そう言って、後ろで枷に嵌っている手をガシャガシャいわせて皆に見せる。
「エッ……でも、さっき指を折ってカウントダウンを……??? それに、花が急に出ました」
皆をからかうのは楽しいが、ある意味目の見えない姫に対して可哀想なのでネタばらしをする。
それに暗殺者とはいえ、人を殺したばかりなので……楽しい気分にもなれないしね。
針金でさっと枷を外し、皆の前に手を差し出す。
「このように、この【魔封じの枷】はちょっとしたコツで簡単に外せるのです……。暗殺者もそういう技術は持っていると思ってください。バカな盗賊と一緒に扱っては長生きできませんよ」
「「「そんなに簡単に!」」」
「この暗殺者はニヤケ顔で姫を見ていました。姫が不用意に近付いてきたので、腹の中で笑っていたのでしょうね……。射程に姫が入ったら、先ほどこいつが【亜空間倉庫】内から撒き散らかした中にあった、このデスケロッグの即死毒がたっぷり塗った針をぷすりと刺すつもりだったのでしょう」
「……ルーク様、ありがとうございます。わたくしはまた命を救われたのでございますね……。今日1日で3回もあなた様に守っていただきました。本当に感謝いたします」
3回? 最初の襲撃時と弓矢から盾で守った時かな。でも、最後のは可能性の話だし、数えなくて良いでしょう。
「暗殺者の恐ろしいところは、個より結果を大事にすることだそうです。任務遂行が絶対で、死を恐れないのではなく、任務失敗は死を意味するのです。失敗すると所属している暗殺ギルドから口封じと見せしめも兼ねて、今度は自分が狙われるのだから必死になると聞きました。大きな仕事ほど大金を得ているので、暗殺ギルドは失敗した者を許さないそうです」
* * *
「ジェイル様、わたくしは一度公爵領に引き返そうと思っております。先ほど叔父様の部隊がこちらに向かってきてくれていると連絡がありました。それまで御一緒して頂けませんか?」
確かに騎士を3名失っているし、到着まで8名じゃ不安だろう。
再度襲撃が有るとは思えないが、絶対無いともいえない。
「了承いたしました。ルークもそれで良いな?」
「はい。兄様の判断に従います」
妖精さんから色々聞きたい事が有るが、公爵領から騎士が来るまでにやっておくことがある。
殺した盗賊たちから装備品や【亜空間倉庫】から死んでぶちまけた中身の回収をしないといけない。
今回盗賊の所持品は全て俺にくれるそうだが、碌な物は持っていないだろう。一番価値が有りそうなのは、盗賊の乗っていた馬かもしれない。駄馬が多いが、奪って手に入れたのか良馬も数頭混じっていた。さっき俺が弓で射た馬のお尻も矢を抜いて回復魔法でちゃんと治してあげていますよ。アサシンの馬だからと言っても、馬自体に何ら罪は無いですしね。
あとは、アサシンが使っていた武器の数々だな。ミスリル製の物が多かったので、これも高値で売れるだろう。
本来投降して生き残った盗賊は犯罪奴隷として売りに出されるのだが、姫を襲ったのだ……。王家が買い取り、公開処刑にするのが通例かな。
投降して一時的に生きながらえたが、こいつらには生き残れる可能性は全くないだろう。
待っているのはきつい拷問のうえ、全て情報を吐いた後の処刑だ。