第1話 事故に遭う
一仕事終え、現在日本に向けて飛行機で帰路についているところだ。
嬉しい事に、海外で大きな契約を無事に終えたご褒美として、社長である叔父さんがビジネスクラスを予約してくれていた。
流石高額なだけあって快適だ!
10時間ほどのフライトで、毎回海外出張の移動は結構退屈だったりするのだが、今回同じ便に乗っていた父娘の子供が俺に懐いてくれ、一緒に遊びながらなので退屈もせず楽しい思い出になりそうだ。
搭乗した時は父親と会釈しただけだったのだが、5歳ぐらいの女の子が席に立って、俺をチラチラと気にして見ていたから、少し手品をしてからかったらすぐに懐いてくれたのだ。今はすっかり仲良くなって俺の膝の上に乗って折り紙で遊んでいる。
父親の方は申し訳なさそうにしていたが、俺は歳の離れた妹の子守りをやっていたので全然苦にならない……むしろ素直な可愛い子は退屈凌ぎになって大歓迎だ。
鶴を折ってあげたら『そんなの簡単!』と言われてしまった……流石は現役の園児。
だがお嬢ちゃん、俺を甘く見ないでほしい。
トトロとピカチュウを折ってあげたら、むっちゃ驚いて喜んでくれた。教えてあげると、失敗しつつも数回で覚えてしまった……子供の学習能力ハンパないね。
「とっとろ~♪ とと~ろ♪」
鼻歌まで歌って超ご機嫌さんだ。
『当機はこれより徐々に高度を下げ、着陸態勢に入ります。席を御立ちのお客様はご自身のお席にお戻りください。お座席のテーブルや肘掛け、背もたれは元の位置に戻し、シートベルトをしっかりとお締め下さいませ』
機内アナウンスが流れた―――
どうやら高度を下げる際に多少揺れるそうで、席を立っている人は自分の席に戻る必要があるらしい。この娘の父親が迎えに通路の奥からこっちにきているのが見える。
「もうすぐ日本に着くようだから席に帰ろうね?」
「うん。お兄ちゃんまた会える?」
多分もう会う事はないだろう……意外と日本は広いからね。
「そうだね。縁があったらまた会えるよ……」
「うん! またね~♪」
否定はしないが、嘘は言いたくないので肯定もしない。大人らしい嫌な躱し方だ。
その時、大きな爆発音がして、強い衝撃と共に機体の床に大きな穴が開いた!
『エッ!?』っと思った時には、開いた穴に吸い込まれるようにこの娘の父親が機内から飛び出たのが見えた……耳にかかる気圧の変化と凄まじい風の轟音が耳に痛い!
そして時が止まった―――
何を言ってるか分からないだろうが、目の前が白黒になって止まったのだ。モノクロ写真の世界とでも表現したら少しはイメージが湧くだろうか? 膝の上で引きつった顔のまま俺にしがみついている幼女も静止状態で固まっている。あれほどの轟音も穴が空いて吹き荒れていた風の音も今は全くしない。
まるで俺以外の時間が止まったようだ―――
『はい。認識的にはそれで合っています』
「エッ!?」
急な声に周りを見て声の主を探すが誰も居ない……はっきり聞こえたのだが、幻聴か?
それに体を動かすのに強い負荷がある。
『こんにちは。幻聴ではありません。直接あなたの思考に語りかけています。強い負荷があるのは、思考速度に体が付いて行かないからですね。無理をなさらないで体の力を抜いて、思考だけで会話するようにすると負担が少なくてすみますよ』
突然の声掛けに戸惑うが、可能性の幾つかを問いかけてみる。
『こんな感じかな……僕は死んだのでしょうか? あなたは神様? それとも閻魔様?』
『はい、それで通じています。結構冷静ですね? 神という認識で正解ですが、あなたはまだ死んではいません』
『神様って本当に居たんだ……『まだ』という事は、この後に死ぬのですか?』
多分死ぬんだろうな……神様に会って助けてもらったとか聞いたことないし。
『あなたのご想像通り、残念ながら先ほどの爆発が原因で乗客全てお亡くなりになります』
全てか……膝の上で俺にしがみついている幼女に視線を落とす―――
まだこんなに小さいのに不憫な……。
『自分の命が終えようとしているのに、今日出会ったばかりの娘の心配ですか?』
『俺は若いながらも結構遊んでいますからね。今、死んだとしても十分満足かな。色々教えてくれた叔父さんに感謝です。でも、折り紙ひとつで喜んでいるようなこんな幼い子が若くして亡くなるのはちょっと可哀想です……』
『そうですね。あなたもその子も人生まだこれからでしょう』
『あの、さっきの爆発は何だったのでしょうか?』
『乗客の1人が趣味で作り、日本の友人に見せて自慢しようとこっそり持ち込んだ爆発物が―――まぁ、この際起こってしまった原因は今更どうしようもないですし……大事なのは今後の事です』
『確かにそうですが……』
この神様は、どうして時間を止めて俺に話しかけてきたのだろう?
俺が気付かないだけで、他の者にも同じように対処しているのかな?
『いいえ、私が干渉しているのはあなたにだけです。【時間停止】は神力を相当量使うので、あなたのみ【思考加速】しています。ですので、正確に言うと周りが止まって見えているだけですね』
やはり俺の思考が読めるのか……時間を止めているのではなく、俺だけ思考を加速させている? 何のために?
『わざわざ俺だけにそういう対処をしているのは、何か理由があるのですよね?』
『はい。長時間の【思考加速】は脳に負担がかかります。時間も限られていますので単刀直入に申します。私はこの世界の神ではありません。この世界とは違う異世界の管理神をしている者です。異世界とは言いましたが、この世界の……特に日本のラノベやアニメなどの世界観をモデルに創られた比較的新しい世界です』
うん? 異世界の女神? なんか話が怪しくなってきた―――
初めまして。回復師と申します。
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