入学式という大きな入口
翌日4月9日、この日は高校の入学式が行われた。普通は登校しなくても良い日なのだが写真部の活動として入学式の日も登校しなければならないのだ。だから今日もまた午前七時のスマホのアラームがなり、僕は面倒ながらも起きる予定ではあったが、
「お兄ちゃん、見てみてー!私の制服姿、似合うでしょー。てか、起きろーー!!」
というこまちの大声で急に夢から覚めた。別に夢なんて見ていたかどうかなんてそんなことまでも一瞬にして忘れさせるような大声だ。
「う、うるさいよぉ。えっと…つか、まだ午前六時半じゃん」
こんな時間に強制的に起こされる義務は、僕にはない。だからあと三十分…
「だから、寝るな~!」
体が揺さぶられる。ああ、鬱陶しいことこの上ない。
「な、なんなんだよー?」
「だから、よく見てよ。私の制服姿。似合ってるでしょ」
にひひ、とばかりに笑う。全く人を三十分早く起こしておいてそれだけかよ。僕はこまちの制服姿を見た。いつも頭につけているヘアバンドを外してピンク色のヘアピンで止めている。制服は紺色のブレザーにチェックのスカート、水色のリボンは見慣れていたが、こまちのこの制服姿は新鮮だった。
「まあ、似合ってるんじゃないの」
「え、やっぱりそう~私、うっれしいなぁ」
こまちははしゃいでいた。そう、徳山こまちは今日から僕の通う高校の新入生だ。高校生ってだけではしゃぐところは当時の僕と時は真反対である。
「ほら、お兄ちゃんも今日は入学式来るんでしょ。早く準備しないと、間に合わないぞ~」
と言い、こまちは僕の部屋を出た。全く、もう目が覚めたじゃないか。まあ、遅刻寸前でバタバタして学校でつばめ辺りに「部長なのに遅れるなんてサイテー」なんて言われかねない。
僕は体を起こし部屋を出る。家族はどうやら全員起きていたらしくこまちはこまちで自分の髪型チェックでもしているのか洗面台にいた。母親はキッチンで朝食を作っており、父親はリビングのソファーで「入学式ってどんな服装で行けば良いんだっけ?」なんて意味不明なことを言っていた。僕は洗面台に行き顔を洗い自室に戻り制服に着替える。こんな早くに制服を着たのは初めてだ。着替え終わる頃にはダイニングテーブルに朝食が用意されており、トースト、スクランブルエッグ、コンポタ、牛乳が用意されていた。もう既に母親が朝食を食べている。僕は椅子に座ると、「いただきます」と言い、食べ始める。半分ぐらい食べたところでこまちと父親も朝食を食べ始めた。
「ねえ、ねえ、お父さん。私の制服姿似合ってる?」
こまちってばまた自分の制服自慢かよ。
「うん、バッチシ決まってるぞ!まあ、あとは牛乳の髭さえなんとかなれば良いんだけどなぁ」
「!!」
こまちがティッシュペーパーをとりだし、口回りを拭いた。なるほど、それは気づかなかった。そうだ。
「ねえ、父さん。僕も制服姿似合ってる?」
紺色のブレザー、黒に水色の入ったネクタイ、黒のズボンといういつもの制服姿。別段僕的には特別な日でもなんでもないのだが、つい聞きたくなった。
「ん?まあ、フツーじゃないかなぁ」
「ごちそうさまでした」
食器を台所に持ってき行き、小走りで僕の部屋に入った。顔が火照るように熱い。今日の僕は、多分どうかしてる。
その後八時ぐらいに高校に向けて自転車で向かった。途中何人もの新入生を見かけた。制服はキラキラ輝いていて、緊張しながら学校に向かう姿を見て自分もこういう感じで入学式の日を過ごしたっけ、なんて思いながら自転車を漕ぐこと約十分、いつも通っている高校に着いた。昇降口には新入生が溢れかえっていて、僕はそれを避けながら自分のクラスまで行く。ドアを横にスライドさせて開ける。クラスの中には既に川内つばめが来ていた。
「なんだ、つばさか」
「その口ぶり、一体誰を待ってたんだ?」
「部員。少なくともつばさ除く。ていうか、なんで写真部は入学式に来なきゃいけないの?」
「それは僕も同感だ。てかなぜ僕は除外されなければならないの?」
「小山さんといちゃいちゃしていた変態だから」
「あれは…」
まさかひかりのレアな画像を撮っていた、なんて絶対に言えない。言ったら多分殺される、なんて思っていると、
「おっはー!、つばさと…誰だっけ?」
と、小山ひかりが入ってきた。今日も相変わらずの笑顔だ。この笑顔の放つ輝きと新入生の輝きはどちらが上だろうか。
「川内つばめ、あと、おはよう」「おはよう、ひかり」
名前を忘れられていたつばめと僕は揃って挨拶を返した。ひかりの制服はキラキラ輝いていた。
「つばさ、なんで写真部は入学式に来なきゃならないの?」
ひかりが唐突につばめと同じ質問をしてくる。
「入学式っていうのは情報としても残しておきたいし写真部の活動にもなるからかな」
すべて先輩に言われたことなのでそう言っておくが、やっぱり何故写真部が来なければならないのかは疑問につきるまでだ。
「なるほど~で、さっきまでなに話してたの?」
「昨日の小山さんとつばさのいちゃいちゃしていた件」
「小説の題名みたいに言うなよ」
つばめはなにすらすらと言っちゃってるんだよ。
「あ、ねえ?つばさくん?」
「は、はい?」
「昨日のやつ、消したよね?」
「え、えっとー、」
「おっはよー、みんな!」
ナイス!はやて!グッドタイミングだ!
「「「おはよう、はやて」」」
三人ははやてに挨拶した。はやてはいつも通りの明るい笑顔を見せた。
「あー、疲れた。てか、つばさ、なんで写真部は入学式に来なきゃいけないんだ?」
「それははやても一緒に聞いてただろうが」
僕とはやては先輩から説明を受けているのだ。つばめはそのとき居なかったけれど。
「で、けっこう響いてたけど、一体なに話してt」
「さあ、今日の活動内容説明するか!」
僕は勢いでそう言った。バッグの中から一眼レフの入ったバッグを取り出した。
「つばさくん?まだ話は終わってないよ」
ひかりが笑顔の圧でそう言ってくるが無視する。
「一応入学式がそろそろ始まるから入学式の写真取り、あとは門の前で写真撮りの手伝い、みんな頑張っていこー!」
「つばさ、昨日n」
ピンポンパンポーン
『まもなく入学式が始まります。新入生保護者の方は体育館にお早めにお入りください』
ピンポンパンポーン
「じゃあ、移動しよっか!」
僕はバッグからカメラを取り出して教室を出ようとする。はやてやつばめも同様にカメラをもって移動準備を始めている。ひかりはまだ諦めてないよと言いたいばかりの目線を感じたがさらりと受け流す。僕含め四人は入学式会場へ足を運んだ。
「えー、新入生というのは…」
校長話長ーよ。もう二十分ぐらい話してんじゃねーか。ていうか去年もそんな感じだったか、と思いながら僕は写真を撮るが校長が二十分独壇場状態なので写真を撮ろうにも新入生の写真ぐらいしかとれない。ちなみに新入生の写真はかなり撮ったので後半は校長の話をただただ聞いているだけになってしまった。はやてやつばめも同様な感じであり、ひかりにいたってはもう寝そうな感じでもある。
「おーい。頑張って起きよ、ひかり。さすがに入学式で寝るのはまずい」
一応僕はひかりに小声で忠告する。
「う、うん。ていうか校長って催眠術師?」
ひかりが小声で聞いてきたので「ま、そうなんじゃねーの」と小声で返した。
「では、高校生になっても羽目ははずさないように、以上」
やっと終わったか~。校長、四分の三ぐらい話カットしましょうよ。続けて生徒会長の話だったり学校紹介だったり先生発表だったりで約十五分、そして入学式は幕を閉じた。校長の話がいかに長いかが理解できる場面である。
僕達は一旦自分達の教室に戻り、そして新入生が新しい教室にいるところを撮ったりした。そして午前十一時を回る頃に新入生の写真を撮るために校門に出た。まあ、それと同時に写真部の宣伝をしてみたものの何人来るかはあまり期待しない方が良い気がする、って思いつつ新入生の写真を撮っていた時、
「あ!お兄ちゃんだ!おーい!」
こまちの大声が学校中を響かせた。こまちは周りの集中を浴びていることに気付いていないのか?全く、恥ずかしいことこの上ない。
こまちの方に視線を向けた。勿論制服姿こまちが左手を振って大声で僕を呼んでいる。けれど、こまちの隣には新入生と思われる一人の少女がいた。青みがかったボブヘアーに丸眼鏡をかけていて、身長がこまちと同じくらいの小柄な少女だ。けれど胸はかなり大きい。
おそらくもう友達でも作ったのだろう。明るいやつだ。
「声がでけぇよ、こまち。で、隣の女の子はどちら様?」
「んー、この子は上田みずほちゃんっていうんだ。可愛いでしょー」
いきなりこまちは隣の少女の腕を組んだ。「ひぃえっ」という小さな悲鳴が聞こえた。僕は申し訳なささに苛まれた。もう少し大人しくしてなさいよ。
「こんにちは。上田みずほです。よろしくお願いします」
一礼して丁寧に自己紹介してきた。最後に眼鏡をクイッと上げた。うむ、丁寧なことは良いことだ。逆にこまちは礼儀知らずである。
「こんちわ。うん。こちらこそよろしく。まあ、確かに可愛いなぁ」
一応僕も挨拶ぐらいは返しておく。だが何故か上田の顔がみるみる赤くなっていく。
「か、可愛いなんて、そんな、そんなことないですよ」
みるみる小声になっていったが反論してきた。眼鏡をまたクイッと上げた。けれどその仕草さえ可愛かった。
「いやいや、十分可愛いよ。もっと自分に自信を持たなきゃ」
「そうそう、みずほっちは可愛いんだよ~。兄ちゃんは見る目があるな!」
「ふふっ」
何故かみずほがクスクスと笑い始めた。僕はこまちと一瞬目を合わせて、そしてみずほに聞いた。
「どうした、いきなり笑っちゃって」
「いえいえ、確かにこまちさんと先輩は兄弟なんだなって」
もう一度こまちと顔を合わせた。
「「そりゃ兄妹ですから」」
合わせるつもりはなかったが、こまちと僕は同じことを言った。そして、またみずほはすくすくと笑った。
「おーい、つばさー」
こまちの声といい何故皆は僕を呼ぶときに全校にいる人皆気づくくらいの大声をあげるのだろうか。声の方を見るとひかりが新型のデジタル一眼レフを持ちながら右手を振っていた。勿論こまちもみずほも気付いていた。なんなら、他の新入生もはやてもつばめもひかりの方を向いていた。
「ここにいる人全員に聞こえるくらいの大声をあげて注目の的となるのは止めていただけないだろうか、ひかり」
「ごめんごめん。別に困らせようとしたわけじゃないんだけどね。で、お隣にいらっしゃる方はどちら様?」
「右の方が僕の妹の徳山こまち、左の方が上田みずほ」
「「よろしくお願いします、先輩」」
とこまちとみずほがひかりに挨拶する。ひかりは先輩と言われて「先輩かぁ~♪」と言いながらにやにやが止まらなかった。
「私は小山ひかり。こちらこそよろしくね♪そうそう、こいつに変なことされなかった?」
「し、してないよ!」
「変なことされそうになったらすぐに私を呼んで。すぐに首筋に手刀喰らわしてあげるわ」
「おい、そりゃねーよ」
僕はひかりにそう言った。こまちはゲラゲラ笑い、みずほはクスクスと笑っていた。それが面白くて僕もひかりも笑った。
ひときしり笑った後、「あ、そうだ!」と僕はここでナイスアイデアを思いついた。
「二人はそこに並んでくれ」
こまちとみずほは言われた通り桜の木の下で並んだ。桜の花びらがパラパラと舞い、少しだけ彼女達の頭に乗った。
僕はカメラを構えると、
「はいじゃあ笑顔になってねー。はいチーズ」
カシャッ…
僕は二人のツーショットを撮った。こまちは本当に良い笑顔、みずほは微笑んでいるが、それはそれでとても良い。僕は二人にこの写真を見せると、
「お、よく写ってんじゃん」
とこまちから称賛の声をいただいた。
「後日写真を印刷して二人に渡すから、それまで待っていてくれ」
「りょ」
とこまちが、
「ありがとうございます」
とみずほがそう言った。
「やるじゃん、つばさ」
「まあな」
「照れてんじゃねーよ」
ひかりは僕の頭にチョップをおみまいした。痛がる僕にまたこまちとみずほは笑った。
「じゃあ僕はあの長蛇の列の写真撮ってくるから、二人で新入生気分でも味わっとけ。じゃな」
「バイバーイ!」
と僕とひかりは他の場所へと向かった。みずほの眼差しがずっと僕に向かってるに気付きながら。
その後入学式終わりの写真を撮って高校が閑散としたところで、「よし、今日の活動は終わりにするか」と僕が部員に呼び掛け写真部の今日の活動が終わり教室に戻る。つばめとはやては昨日同様片付けを早く終えると一目散に帰宅した。そしてひかりはまた僕の片付けを待っている。
「あー、疲れた。てかつばさに妹いたんだ」
「天真爛漫な妹だけどな」
まあ、家族全員性格が変わっているのでもうそんなに疲れたりはしないが。
「まあ、つばさも人のこと言えないけどね」
なんと、僕も性格が変というのか?
「一言で言うとめんどくさい性格してるねー」
「……………」
どこがどう面倒なのかお聞かせ願いたい。
「例えば私の写真を盗撮したり、後輩を困らせたり」
「……………」
僕はまた黙ってしまった。
「けどさ、そういうのってやっぱ周りは迷惑するかもだけどやっぱりちょっと嬉しいんだよね」
「……………」
褒められてるのか貶されているのかよくわからない。
「私さ、高校の入学式に良い思い出ないんだ」
「僕もだ」
僕の場合はただただ入学式がめんどくさいだけなのだが。
「私もね普通の女の子のように、例えばさっきの子のように友達も作って、良い一歩を踏み出す予定だったの」
「……………」
ひかりの言わんとしていることが若干分かったが無言を貫く。
「けどさ、入学式当日、入学式途中に私倒れちゃって」
「……………」
「私気を失っちゃって救急車に運ばれたって感じ。貧血たったんだけど、検査の結果白血病と診断され、まあその日から入院だったけどね」
「……………」
つまり一年前に病気を発症したって感じか。
「かなり病気が進行してたっていうのもあって夏ぐらいかな、医者に言われたの。高校二年に上がるのは難しいだろうって。ま、でもさそれからは手術とかもあったりで若干回復してたんだけど、医師の提案で東京の病院に通院することになって今私はここにいる。これが今までの話」
ひかりは言い終えたと言わんばかりに深呼吸した。
「…でもさ、良かったじゃん。今を生きれて、そして高校は違えど入学式を体験できて。まあ、校長の話はクッソ長かったけど」
僕に言えることはこれだけだった。彼女は辛い闘病生活を今なお続けているのだから、その気持ちを理解するのは今の僕には到底不可能だ。
「つばさってさ、案外優しいのね、盗撮魔だけど。気に入ったわ。ねえ、私と友達になりましょ」
「ん?もう友達じゃなかったのかよ。もしかして案外友達少なかっt」
ドカッ!
「そんなわけないだろうが!!」
怒りという感情に支配されたひかりがそこにはいた。どうやら逆鱗に触れたらしい。腹パンするぐらいだからそうなのだろう。今もなお拳を突き上げてくる。
「わかった、わかった。僕が悪かったです。全面的に」
「わ、わかればいいのよ」
とふてくされながらもひかりはそう言った。
「じゃ、友達っていうことで」
僕はこんなシーンを体験したことはなかったので一応そう返しておいた。
「じゃ、帰るか」
帰りの支度のできた僕がそう言った。ひかりは満面の笑顔を浮かべていた。太陽以上に輝いていた。
「うん!」




