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自信という大きな治癒魔法

 目の前には小さな神社があった。その証拠に鳥居までちゃんとある。閑散とした場所に佇むのは僕、徳山つばさと国民的有名人の橋本のぞみがいる。何故僕達がここの閑散とした神社にいるのかというと、それは少しばかり時間を遡ることとなる。


       ※  ※  ※


 「ここどこです?」

 僕は来たことのない場所が何処かをのぞみに聞いた。ビル街がありそれ以外はここがどこかなんて僕は知らない。のぞみはそれを知ってか微笑を浮かべながら、

 「さあ、どこでしょうね」

 幸い駅が近いのか駅の入り口が見える。それは公園のある駅の確か隣の駅だった。

 「僕たち隣駅まで散歩しちゃいましたね」

 「ええ、私達端から見たら一組のカップルみたいだよね」

 笑顔で凄い事言ってくるのぞみに僕の顔がひきつる。

 「僕達今日始めて会ったんですけどね」

 「あれれ~?私達は海浜公園の観覧車の列で、」

 「そ、それはノーカン!」

 のぞみの言葉を遮るようにつっこむ僕。だんだん相手するのが面倒臭くなってきたぞ。帰っていいかな?周囲の目も怖いし。

 「ちょっとこっち行ってみません?もちろん私の勘ですよ」

 私の勘というのはどうでもいいんだけど。

 「それは別にいいですけど。迷子になったらのぞみさんのせいですからね」

 「私達にはスマホがあるのに?」

 「あ、そうですねー。なら大丈夫っすね」

 もう言葉さえ返せない僕にのぞみは僕の方を見て、

 「ねえ、つばさくん」

 「なんすか?小悪魔のぞみさん」

 「バーカ」

 「もうどうしていいかわかんねぇよ!」

 意地悪な笑みを浮かべながら罵倒してくるのぞみに呆れを通りすぎてむしろ泣きたい。泣いていいかな?

 

 よくわからない道を歩き、たわいもない話をしているうちに僕達が辿り着いたのは、小さな神社だった。

        

          ※  ※  ※


 回想シーン終了。てか思い出したくない事ばかりな気がする。そして、のぞみとみずほが友達なのも納得がいく。小悪魔怖い。助けて。

 「そこまで怖がらなくてもいいじゃないですか。こう見ても私はあなたに心を開いてもいい人だという確証を得てありのままの私を少しずつ出しているんですよ」

 「これでもちゃんと芸能界やってるお前超怖いよ!」

 怖いじゃ収まりきれない。もう感心するしかないよね。

 神社に入って僕達はすぐに手水舎(ちょうずや)で手を清め、そして賽銭箱に五円玉を入れて、二礼、二拍、一礼する。

 お詣りを済ませ、二人はおみくじのところへ向かおうとした。

 「つばさくんは何をお願いしたの?」

 「のぞみさんが小悪魔から天使になってくれないかなって」

 「バーカ。それは二度とないと思いなさい」

 唇を尖らせながら怒るのぞみ。頬が膨らむその様子を楽しみながら、

 「本当はひかりの退院と病気の完治ですかね」

 「病気?」

 「あとは御神籤(おみくじ)で大吉を出すこと」

 と、僕はお金を払い御神籤を引く。出たのは奇跡の大当たり『大吉』だった。

 「僕は大吉をしっかり出しました。のぞみさんは?」

 聞いてみるとのぞみの顔はあまりご機嫌がよろしくないように見える。

 「笑うがいいが、『末吉』よ」

 口をへの文字にするのぞみ。こんな顔を見れるのはせいぜい僕くらいである。

 「アハハ、僕の勝ちですね」

 「ちょっ、本当に笑うなんて、サイテー。それよりも、」

 御神籤を結びながらのぞみは質問してくる。内容は、うん、わかってる、だから。

 「ひかりは白血病なんです」

 「白血病…」

 声のトーンを落として復唱するのぞみ。誰もが一度は聞いたことある病気のひとつである。

 「のぞみさんが海浜公園で僕たちのこと見たでしょ。その数日彼女は教室で倒れました。今は病院で入院しています」

 「状態はどんな感じなの?」

 元の道を戻りながらのぞみは再びちゃんと質問してくる。けれど僕は、

 「ごめん。実はそこまでひかりが今どんな状態なのか僕は知らないんだ」

 「謝らないで。別に謝られることじゃない」

 「……………」

 数秒の沈黙が流れた。さっきまでの楽しい雰囲気が嘘のようだ。日も沈み、暗い雰囲気がいっそ深まっていく。

 「……でも前来たときはまあまあ元気そうでした」

 人の前で裸になるくらいだ。見た目はまあまあ元気そうで、すぐに退院しそうである。しかし心はボロボロだった。

 「…元気そうだけじゃまだまだね。よし、私もお見舞いに行こうかな。少なからずとも会ったことはあるんだし」

 うんうん、その方が喜ぶ…!?

 「は、はい!?今なんて!?」

 「だから、私もお見舞いに行きます。お見舞いに来てくれると嬉しいでしょうし」

 「そりゃ嬉しいですけど、周りからの視線とかって」

 「大丈夫でしょ。少なからずとも今現在周りの視線が私に集中していますか?」

 周りを見たのだが残念ながら大通りではないこの道に誰もいなかった。

 「誰もいないじゃないですか!」

 僕のツッコミでのぞみは笑う。今日何度目の笑顔だろうか?

 「それに会ったことと捉えてるのは少なくとものぞみさんだけですし」

 「ええ、だから行くのです。知り合うために。それに、」

 そしてのぞみは上目遣いで僕を見てきて、そして、

 「つばさくんとはもう友達じゃないですか。そしてその友達のひかりさんのお見舞いに行くのは別に不自然なことではないでしょう」

 不自然さしかないのですが、と言いたかったが言わなかった。

 「理論的には意味不明ですけど、まあそこまで行きたいと言うなら別に大丈夫なんですけど、その、」

 「スケジュールなら4日なら空いてるわ」

 「穴がねぇな!」

 そしてまたのぞみの笑い声が周りを包んだ。そして長い長い活動&散歩も終わりを告げるかのようにとっぷりと日は沈んだ。


         ※  ※  ※


 あれから数日が経った。僕はいつも通りに起床し午前中はアニメ視聴を楽しみ、そして昼食を食べないまま財布とスマホだけもって外に出た。

 自転車を漕ぎながらあのときのことを思い出す。それはのぞみと別れ際での出来事である。


 「そういえば連絡先交換していませんでしたね。交換します?」

 「勿論構いません、っていうか、それ拒む人いるんですか?」

 と、LI●Eの交換だけ済まして、駅のロータリーで別れて、るんるん気分で帰宅したときにスマホを見てみたら、それはそれは面白いことになっていて、

 「ひゃ、百件スタ連してやがる!」

 全く、のぞみの小悪魔さは侮れない。


 『やっほー。いやいや~、ごめんね~百個のスタンプ一気に送っちゃって(^ω^)』

 『それ、微塵(みじん)も反省してませんよね』

 『それよりも明日は十二時くらいに病院のロビーで待ち合わせない?』

 『いいですよ。とりあえず周りの視線さえ何とかなれば大丈夫ですから( ´∀` )b』

 『大丈夫、大丈夫。その時はつばさくんのことを彼氏扱いしてあげるから』

 『さぞ楽しそうですけど後が怖いので遠慮します』

 『だと思ったよ。なら明日は十二時に病院のロビーね。ちなみに病院ってどこ?』

 『つばさが地図を添付しました』

 『ありが(ry』


 という前日のやり取りを経て今僕は病院に向かっている。途中のスーパーマーケットでシュークリームを買うことも忘れない。何故シュークリームかというと、


 『明日お見舞い行っていいか?』

 『いいよ!んじゃとりまシュークリーム頼むわ』

 『りょ』


 というやり取りが昨日あったからだ。スマホが使えるだけ容態は安定しているだろう。それだけで僕は安堵した。


 スーパーマーケットを出てから自転車を漕ぐこと数分。ようやく病院に到着した。数日前に来たのだがかなり時が経ったように思えるのは僕だけだろうか?

 ロビーから入り、しかし僕は病院にあったソファーに座る。そしてスマホを見ると、


 『あと十分程で着きます!』


 と来ていたので即行スタンプを送信すると上から僕の名前が呼ばれた。元気溌剌(はつらつ)な声に僕は静かに応じる。

 「ご無沙汰してます」

 目の前にはいつも病院で見かける看護師がいた。今日も病人を安心させるような弾けた笑顔である。

 「元気ないなぁ、つばさくん。さてさて今日は何の用かなぁ?記憶が戻ったとか?」

 「僕かあの記憶を思い出すのは未来永劫(みらいえいごう)無いと思うんですけど」

 あの記憶。かつて僕は一人の少女に恋していた。その恋は初恋で当時の僕の頭の中には彼女しかなかったに違いない。だけど僕はそれを断言できない。彼女はもうこの世にはおらず彼女といた記憶すべてを断絶してしまったのだから。

 「それともなにか思い出しそうな予兆とか?」

 「僕はさっきあの記憶を思い出すことは未来永劫無いって言ったんですけど」

 「んじゃあ、私かなぁ」

 ニヤニヤしながら言う看護婦をシカトしたが、

 「黙ってるってことは正解かな?」

 「違うので勤務に戻っていただけます?」

 「つれないなぁ」

 唇を尖らせながら拗ねる看護婦なんて僕にはどうだっていい。勝手に拗ねて下さい。

 「んじゃあ、小山さんのお見舞い?」

 「分かってるんならわざわざ聞かなくてもいいでしょうに」

 「いやいや、お見舞いに行くなら何でここに座ってるの?誰か待ってるの?」

 「ええ。お見舞いに行きたいなんて言うもんですから仕方なく」

 「でも来てくれたら小山さん嬉しいと思うの。仕方なくなんてもったいないわ」

 「そうですか。まあ僕ならそう思いますね」

 「ふふ、つばさくんはやっぱりつばさくんね」

 「それ、どういう意味です?」

 さぁね~、とだけ言いそれ以上はなにも言ってこない。僕は言及するのを諦めた。

 「んじゃあ、私は勤務n」

 「つばさくん。遅れてゴメン!」

 いきなり会話に割り込んできた人がいた。その少女は帽子を被り眼鏡をかけた姿で現れた。その姿を見ただけでは誰かなんてわからない。それは先日証明されている。が、

 「ん?この娘がつばさくんの連れ?ってあなた!?」

 看護婦の観察眼には敗北した。


 「ご、ごめんってば。まさか看護婦に気付かれるなんて思わなかったの」

 「…べ、別に気にしてないです。早く騒ぎが広がらないうちに面会を終わらせましょう」

 受付の時点でバレるのは当たり前なのだがこればかりは仕方がない。看護婦が情報漏洩(じょうほうろうえい)しないことを祈ろう。

 迷路のような道をどんどん進んでいき、遂に僕達はひかりの病室に着いた。

 ノックを三回。そしてすぐにひかりの返事が聞こえた。

 スライドのドアを開ける。数歩歩くとそこにはひとつのベッドがあり、そこにはひかりが横になっていた。ひかりは僕を見て、

 「やあ、いらっしゃい。シュークリームはあるだろうな」

 と笑顔で聞いてきて、そしてすぐに後ろの人に気づいたのだろう。首を傾げて、

 「ねえ、つばさ。後ろの人って誰?」

 帽子女は素性が知られていないことに一瞬僕だけにわかる笑顔を見せた。

 「ひかり。どんなことがあっても大声だけはあげるなよ」

 「え?それってどういう意味…!?」

 語尾が詰まるひかり。僕の後ろで帽子女が帽子と眼鏡を取った。そこにはショートヘアーの可愛い少女。春物の装いを着ているその少女はテレビを付けたら一日に確実と言っていいほど見る国民的有名人、橋本のぞみだったのだから。

 「っっっっ!!!!」

 声にならない悲鳴をあげるひかり。忠告を守ってくれるのは心底ありがたいのだが、

 「僕は大声を出すなとは言ったけど声までは出すなとは言ってないぞ」

 驚きの初対面が無言はさすがに辛いものだ。

 「ぇぇぇえええ!?つばばばば」

 「名前くらいはちゃんと言おうぜ」

 「つばばばばww」

 「のぞみさん、少し黙っていただきます?」

 とその時ひかりが首根っこ捕まえグッと顔を近づかせた。

 「ねえ、つばさ!あの人って!」

 「さあ、誰だろ~ねぇ」

 「のぞみさんって言ったよね!?」

 「言ったかなぁ?」

 と言った時に急に逆側の首根っこをつかんで引き戻す力が加わりひかりとの会話は中断される。でもそこまで引っ張られると、

 「……………!!!!!!(苦しい!!!!!!)」

 首を絞めないで!死んじゃうから!

 「自己紹介が遅れてごめんなさい。私の名前は橋本のぞみといいます。今日はひかりさんがご病気を患ったと聞いていてもたってもいられない私をつばさくんと共にお見舞いしに参りました」

 と微笑を浮かべながらそう言った。この一言をかけられたらそりゃ、

 「わ、私のために。のぞみさんがぁ…」

 と言ってそしてひかりは気を失った。無理もない。初対面の僕だったら同じことになってるし他の人でも似たことになるだろう。彼女の本当の性格さえ知らなければね。

 「あれ?気絶しちゃいましたね。どうしたのでしょう」

 「貴女のせいですよ完全に」

 そして俺は尊死しかけているひかりを一生懸命に呼び起こした。


 「あれ?夢?つばさ。さっきのって」

 「ひかり、もう少し現実を見ようね。のぞみなら椅子に座って待ってる」

 「えっ!!!夢じゃなかったの!?」

 夢じゃないんだけどね。てか、いつの間にか大声になろうとしてる。まあ、仕方ないのだろうけれど。

 「ようやく気がつかれましたか。さっきはすみません。いきなり驚かせたりしちゃって」

 突然の登場に謝罪するのぞみ。しかしそれどころではなかった。

 「わ、私小山ひかりって言います!あなたのファンで、私、!」

 「その元気があればすぐ退院できそうだなぁ」

 「もう、つばさ。連れてくるんだったら連絡してよぉ」

 「そしたらサプライズの意味無いだろ!」

 シュークリームを食べながら苦情を口にするひかり。それよりも、

 「で、元気有り余りのひかりはいつ退院できるんだ?」

 「健康状態も安定してるし、明後日には退院できるんじゃないかな?」

 「ふふ、私が思ったよりも大丈夫そうですね」

 「なんか心配させてすみません」

 「謝らないで。私が勝手に心配しただけですから」

 「そうですね。ありがとうの方が良いですかね」

 にしてもやっぱりのぞみは大人なのだと、僕はその場で思い知らされる。接し方が上手だ。僕はのぞみに二度と叶わないんだろうと、そう思った。

 「んじゃあ、来週には学校来れそうか?」

 「大丈夫だよつばさ。それこそつばさには心配してほしくないなぁ」

 「心配して損するとはまさにこの事!」

 笑い声が病室を包む。そんな時間がずっと続けばいいのに。


 「そんな時間長く続くわけねぇよなって!」

 「へぇ、私の知らないうちにそんなことが」

 パンドラの箱が開かれたとはまさにこの事!中につまっていたのは僕とひかりとの仲を赤裸々に語った物語であった。しかも出会いから前回のお見舞いまで全てである。つばめには知られたくはなかったと当時には言ったが前言撤回する。

 「お前にも知られたくはなかったよ!」

 「近寄らないで下さい!この、変態!」

 「やめて!僕が逝っちゃう!」

 恥死しちゃう!

 「ふふ、これからはこの人を頼れば今後つばさは変なことをしなさそうね」

 「僕はいつ変なことしたんだよ!」

 「私の変な写真を撮ることだよ!」

 「つばさくん。このあとが楽しみですね」

 のぞみの目が怖い。笑顔なのに目が笑ってねぇ!


 「では、そろそろおいとましようかしら。ではひかりさん。また機会があればまた会いましょう」

 「その時はまたお話ししましょう」

 二人が別れの挨拶をして、

 「じゃあ行きましょうつばさくん」

 「んじゃひかり、また学校でな。僕が生きてればの話だけど」

 「あはは、またね。あと、頑張って」

 小さく手を降って別れを告げた。そして病室を出た。


 病院の敷地内をどんどん歩き出すのぞみ。圧が凄いため逆らえるわけもなく自分の自転車を押して追い付く。

 僕達は病院を出るまで一切話さなかった。そして病院を出た後、のぞみはその怖い顔を僕に向けて言った。

 「んじゃあオブラートに包んで今の気持ちを伝えますね。○ね」

 「それ包んでるのきっと毒か針だから!」

 「ほんっと信じられない。変態!近寄らないで!」

 「誤解される側ってこんなに辛いの?ねえ、僕の言い分くらい聞けっちゅの!」

 罵詈雑言もいいところである。そしてのぞみは軽蔑するような瞳を向けて続けた。

 「ならどう説明するんです。出会って二、三週間の相手に己の裸を見せつける件について。本当は貴方が勝手に脱がせたんでしょう?」

 「ちっげーよ!!それには月よりも重い話があってだな!」

 あのときのお見舞いのと気をひかりが話したとき恐らくわざと自分の影の話とその後の僕の名言を全てカットしたのだ。どんだけ僕を地獄におとしめようとしてるんだろう。

 「話になりません。まあ、脱がせてないというのは事実でしょうが、それだとしても人としてどうなんです?」

 「その言葉をそうさせたひかりに言ってやりたいね」

 のぞみが何かを諦めたように溜め息をつき、そして、

 「やっぱりつばさって」

 「ッ!」

 くんが消えたことに親近感が芽生え、

 「バーカ」

 笑顔でそれを摘んだ。

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