転校という小さな冒頭
みんなは学校にいきたくないと思うだろうか?少なくとも僕はそう思う。学校なんて行ってもつまらないし授業はやたらと疲れる。けれどそれでもみんな自分の将来のために日々学校に向かう。
僕、徳山つばさもその中の一人だ。つい最近まで続いていた春休みが過ぎ去り、あっという間に今日4月8日、始業式を迎えてしまったというわけだ。
その日の僕も学校にいきたくないなんて思いながら学校に行った。自転車に乗り約10分ぐらいこぎ続けると、自分の通う高校に着く。
その後は新しいクラスの公表を早々に見、新しいクラスへと赴く。そこに入ると僕はなにもせずボーとしていた。なにも考えることもなく新しい友達を作るわけでもない、ただ、ボーとしていた。そうして時間の流れに身を包もうとした。
「おーい、生きてるか?つばさ?」
と、誰かが僕の生存確認をしているかのように手を僕の前でヒラヒラさせた。僕はうざったらしい顔を浮かべた。
「誰が死体だ、、なーんだはやてか」
「おう!てか友人が同じクラスだってーのに気付かないつばさもあれだけどな」
「あれって?」
「意外と友達には興味がない、みたいな?」
「ご名答過ぎて言葉がでないなぁ」
と、僕とはやては二人揃って呆れた。一ノ関はやて、僕の数少ない友人で同じ部活『写真部』に入っている。数少ない写真部員の一人なのですぐに打ち解けあい友人になったあの日のことはもう既に忘れた。
「少しは友達を作ろうなんて思わないのかい?」
「友達を作るのが面倒、それに僕にははやてっていう友達がいるから大丈夫だろ」
「俺がいつもつばさを構ってるとは限らないぜ。他の友達と吊るんじゃうかも」
「とかいって時間が空いたら僕と話すくせに」
まぁなとはやては言った。陰キャな僕に構ってくれるのははやてぐらいだ。
「あ、あと友達といえばつばさの数少ない友達のもう一人つばめも同じクラスだぞ」
川内つばめ、僕の数少ない友人の一人で数少ない写真部員である。いつも眼鏡をかけている紺色ショートヘアーの女の子だが、中身は毒がまとわりついているのか疑うくらい毒舌だ。
「僕は去年以上に罵倒されるのかな?」
「だとしたらおつかれさん」
「冷たいなぁ~」
「まあ、いいんじゃないか。つばめが言ってたんだけど私の本音をぶつけられるのはつばさとはやてぐらいだって」
「その言われてる側はたまったもんじゃないけどな」
と話しているとその当人がクラスに入ってくるや否や僕たちのところまで来た。まさか僕たちがつばめの話題に話していることがばれたのだろうか?
「お、ご本人登場」
「ご本人って、さっきまでなに話してたの?」
「つばさは友達が少ないよなーって話」
「つばさは友達なんて多くなくていいみたいなこと考えてたんじゃない?友達作りとか面倒って」
「いやー、二人して同じ言葉を言われるとなんか傷つくなー。てか、つばめも人のこと言えるかっちゅーの」
友達が少ないのはつばめも同じっていうことを伝えたのだが何故かふてくされなかった。
「いやいや、つばさよりかはましだと思うよ。少なくとも私はあんた達以外に五人いるもん」
「ハハ、五人か」
「何がおかしいの?つばさ」
「いや、僕と変わらないなーと思って」
「いやいや、つばさにははやてと私ぐらいしか友達いないじゃん」
「悲しいこと言うなよ。友達っていうのはな友情の薄い友達が山ほどいるのよりも友情の濃い二人の友達の方が良いに決まってると僕は思う」
「じゃあつばさは友達が少なくて平気なんだ」
「まあな、はやてとは違ってな」
「なんでだよ!」
「新しい友達を作れって言ったのはどこのどいつだ」
「友達を作ろうとしないボッチもどうかと思うけど」
「……………」
世界一人や二人ぐらいそんな人がいると僕は信じよう、そう思っているとチャイムが鳴った。そのチャイムとともに新しいクラスの担任が入ってきた。
「みんな、おはよう!今日から君たちの担任を勤める羽島陸だ。みんなよろしく!突然だがな、クラス発表のときに気付いたかもしれんが転入生を紹介しよう」
クラスのみんながざわめいた。転校生なんて、アニメのテンプレじゃあるまいし、そこまでざわつかなくてもいいのに。
「じゃあ、入ってくれたまえ」
羽島先生がそう言うとクラスのドアが開いた。165㎝はあるだろうか、ロングヘアーの一人の少女が入ってきた。黒の髪のたなびかせながら、にこやかにこれからのクラスメートを見渡した。ニコニコしているところを見るとこの場を楽しんでいるようにも見えた。
「じゃあ自己紹介はクラスのみんなでやるから君はそこの席に座りたまえ」
自己紹介は後回しかい!というツッコミがあちらこちらで飛び交う。それよりも、僕は先生の指差した席を見た。誰も座らない席。そこは僕の隣の席だった。少女はこっちに歩いてくると隣の席に座った。
「よろしくね、えっと、誰だっけ?」
「徳山つばさ。徳山駅の徳山にひらがなのつばさで徳山つばさだ。詳しくはこのあとある自己紹介で」
「じゃあつばさね。よろしく」
「どうも、よろしく」
僕はさっぱり返した。先生の言う通り転校生の少女を席に座らせると、クラスメート達に自己紹介させた。
「出席番号1番!一ノ関はやてだ!!好きな食べ物はカレーライスだ!!!みんなよろしくな!!!!!」
はやての暑苦しい自己紹介から始まり、次々にクラスメート達の自己紹介が続いていく。そして、隣の席の出席番号になったとき、少女は立ち上がり、教卓の前に立った。
「ども!出席番号7番、好きな食べ物は卵かけご飯、笑顔がとりえ、だけど白血病という病気持ち、小山駅の小山のひかり、小山ひかり、どうぞお見知りおきを!」
自己紹介の雰囲気的には明るい人格の人だなぁ、なんて思うのだが、白血病という言葉だけでクラスをざわつかせることに成功した。そして彼女のフォローするように先生が付け足す。
「小山はさっき言ってた通り白血病だから体が弱いんだ。だから変な真似はするなよ。じゃあ次いってみよー!」
小山が笑顔で席に戻ってきた。僕はひかりに疑問を問うてみた。
「病気持ちなのか?」
「うん」
彼女が笑顔で返した。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
彼女がまた笑顔で返した。
「怖くないのか?」
「むしろ楽しいよ」
彼女がにやにやしながら返した。
「つばさー、次お前だぞ!」
急にはやてがそんなことを言ってきたのですぐに教卓のところまで行って自己紹介する。
「呼ばれた通り僕は徳山つばさです。徳山駅の徳山にひらがなのつばさでつばさです。基本的に勉強は面倒です。あと写真部所属なんで、一年間よろしくお願いします」
ひかりのようにとりわけ明るい自己紹介ではなくはやてのように暑苦しい自己紹介でもない、普通の自己紹介である。僕は自分の席に座った。
「つばさってさ、普通だね」
「普通でけっこう」
僕は普通に返した。
「あと暗いよ」
「麗しの春休みが終わったからな」
僕は暗く返した。
「写真部だったよね?」
「写真部だけど」
僕は棒読みで返した。
「だったら」
「じゃあ始業式始まるから体育館に移動してくれ」
羽島先生がそう促したところでクラスのみんなが移動する。そのときにひかりの周りに女の子が集まったため僕はすぐさま廊下に避難した。
「なあ、さっき小山さんとなに話してたんだ?」
いつの間にか僕の横にははやてがいた。つばめはというと他の女子と話していた。名前はさっき自己紹介していたはずだが、まだ覚えきれていない。それよりも、
「僕は暗くて普通だってさ」
「あはは、いえてる」
はやては笑う。その通りだと言いたいように。
「けどな、ひかりのやつ僕になにか言おうとして羽島に口挟まれちゃったんだよな」
「つばさって、もう小山さんと仲良しなんだな。他の人とは距離をおいているくせに」
「そんなんじゃねーよ、ほら行くぞ。それとも陽キャとつるんでくるか?」
「い、行くよ!」
はやては僕についてきた。はやても笑顔で爽やかだ。ひかり同様どうして明るく過ごせるのだろうか?
「であるからして___」
校長の話が長すぎる。お経のように聞こえるのは僕だけではないだろう。かれこれ15分話続けている。飽きないのだろうか?既に全校生徒が立ち疲れており、先生も少し顔が曇っている。
「ねえ、つばさ。ここの校長の話長すぎない?」
僕の横にはひかりがいる。その理由として並び順は席順というちょっと特殊な並び方なのだ。そして、ひかりも少々疲れているように見えた。
「これでもましな方だ。前に終業式やったときは30分話すどころかクッソ寒いギャグを冬にかまして体育館中が凍りそうになったんだよ」
「うっ、まじか」
これには流石にひかりの顔から笑みが消え嫌なものを見ている顔になった。
「じゃあ今年度も勉強を頑張るように、以上です」
はあ~っと全校生徒から溜め息が漏れた。それは先生も例外ではなくやっとかという顔をしている。ひかりはというとなんと立ったまま寝ていた。僕はひかりを揺らし起こす。
「おい、起きろ、先生に見つかるとヤバイ」
「むにゃむにゃ、ママ、そこまで心配しなくてもいいのに」
寝ぼけていた。しかしその寝言は僕の胸に強く響いた。響いたからもう起こそうとは思わなかった。先生なんてどうでもいい、胸をざわつかせる思いが僕の体をいじめている。ひかりの言葉がガンガン頭上をならしていた。まとわりつく言葉に身体が締め付けられた。
気が付いた頃にはもう既に始業式が終わっていた。まだひかりは起きていない。流石に起こさないと本当にヤバイ。
「おい、起きろ、ひかり」
「むにゃむにゃ、私のことは大丈夫だから」
その言葉でまた胸がざわつく、だがそれを抑えるとともにひかりの頭を軽くはたく。
「大丈夫、じゃねーよ、起きろ!」
「ふ、ふぇぇ、あれ?」
変な声を出すやつだ。僕はそう思った。
「あれ、つばさ、どした?」
「どした?じゃないよ。全然起きなくて苦労したよ、て言うか」
「どした?泣きそうだよ、つばさ」
「な、なんでもない。ほら、クラスに戻るぞ」
「え、えー!もう終わってるじゃん、始業式」
「じゃあこの資料を親御さんに渡すこと、じゃあ今日はお終り、自由にかえっていいぞ。俺は今日新刊の発売日だから急ぐ、じゃな」
と、羽島先生が勢いよくクラスを飛び出した。クラスのみんなも新しい友達でもつくったり、羽島先生のようにクラスを飛び出したりしていたが僕は今日部活なのでお弁当を食べる。はやては新しい友達と、つばめもいつものメンバーとでお弁当を食べているはずだ。そう僕一人悲しくお弁当を食べようとすると声を掛けられた。
「ねえ、つばさ、写真部ってどこでやるの?」
声の主はひかりだった。相変わらずの笑顔の根元はどこから来ているのだろうか。そのエネルギーを感じつつ僕は部長として答えた。
「どこって、なんで?体験入部か?」
そう言い僕はペットボトルに入った緑茶を飲んだ。緑茶は一瞬の時を止め、僕の思考をフル回転させた。けれど、
「いやいや、もう正式に入部してるよ」
「ブフーーー、げぼ、げぼ、げぼ、」
「だ、大丈夫?つばさ」
トントントンと背中を叩かれた。思考は既に停止していた。
「だ、大丈夫だけど、いいのかよ写真部で。他の部活とかあるだろ」
「私が入りたいって言ってるの、文句ある?」
笑顔でそう言う。だがそれがまた怖い。
「いや、他の部活とか見なくてもいいのかよ」
「私はね、写真部に入りたかったんだよ、だから入った、以上説明終わり」
「へぇ、なるほどね、じゃあまず飯食べてから部活にするから、?」
僕がお弁当を取り出すとまじまじとひかりが見てきた。その目は何故か輝いていて、口元に僅かによだれが垂れていた。
「どした?」
「お腹減った」
「食べればいいじゃん」
「お昼持ってき忘れちゃった!てへっ♪」
キラーンとポーズをとって、それでもぶんぶんと顔を振った。何を葛藤しているのかはさておき、僕の頭にはゲームの選択ボタンが表示されていた。
ひかりが物欲しそうにこちらを見てくる。どうしますか?
1、自分の分をあげる
2、ほっとく
3、シェアする
僕は速攻答えを出した。
「いいよ、これ全部食べて、僕は近くのコンビニの弁当でも食べるから」
「えっ、でも」
「安心して。これ昨日の晩御飯の余ったやつだから、食品添加物あんまり入ってないと思うけど」
「いやでも申し訳ないよ」
「じゃ要らない?だったら僕食べるけど」
「ハワワワワ」
ひかりはまたよだれを垂らしながらこちらを見てきた。身体は素直だった。
「ほら食べろよ、そんなに食べたいなら」
「いいの?ありがとう!」
と言ってひかりはばくばく食べた。そのスピードは物凄く早く僕がコンビニに行き終わるときには既に食べ終わってた。
「ありがとう!このお礼はいつか」
「はいはい」
僕は適当に返した。そして僕は素直に思ってたのを口に出す。
「ひかりってさ、カメラ持ってる?」
「持ってるよ、しかも最近のやつ」
「すげーな、それってやっぱり自分の生きた印を撮るためなのか?」
「えっ、」
ひかりから笑顔が消え驚愕な顔になった。




