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五話:サルビアの記憶

サブタイトルをもう少し捻ろうかと思いはじめました

「はぁ、疲れた。なんで知らない人にまで愛想ふりまきゃなくちゃいけないのよ」


 あの日は両親の結婚記念日らしくて、出たくもないパーティーなのに無理矢理ドレスを着させられ、私よりも年齢が高そうな知らない男性と会話を作り笑顔で対応して、疲れてた私は逃げるように自室に入り、ベットに倒れるように飛び込んだ。


「あぁあ……、なんで私は外に出ちゃいけないのかしら。町の中ぐらい一人で歩いて買い物してみたいな」


 町に出たいと言うとお父様は”一人じゃダメだ”とか言って私に護衛をつけるし、そのせいでみんなが一目置いちゃうから常に誰かの視線を感じちゃって全然楽しくない。

 普通の女の子みたいに誰かの視線を感じること無く、のんびり選んで買い物してみたいなぁ。


「そういえば、あの子もつまらなさそうにしてたな……」


 今日のパーティーで私と近い年齢の男性は全員、挨拶してきたけど(中には私より一回り歳がいってそうな人もいたが)彼だけは私に媚びを売りに来ないでパーティー料理を馬鹿みたいに食べてたな。ふふっ、変な子。

 彼なら話しかけてくる人達より、面白い話を聞かせてくれそう。

 二人だけで話してみたいな、今度パーティーが開かれることになったら彼はいるだろうか。


「ふああ……少しなら寝てもいいかな」


 軽く目をつぶると、そのまま私は睡魔に襲われ意識が闇に飲み込まれていった。思っていたより疲れていたのだろう。



「んんっ……あれ、いつの間に寝ちゃってたんだろう」


 時計を見るとだいぶ時間が経っていた、まぁ気にすることでも無いか。


「外の空気でも吸って目を覚まそうかな」


 テラスの扉を開けると風が吹き込んできた。


「うぅ、寒っ」


  昼間は暖かくてもやっぱり夜は冷える。


「今日は星がよく見えるなぁ。……あっ流れ星だ!」


 最近は全然、星を見ることが無かったから何か少し感動しちゃった。


「何か流れ星に願い事でもしておこ」


 こういう時に限って、すぐ願い事が思いつかないし……そうだ!


「普通の女の子みたいに誰の監視もなく買い物がしてみたいです」


 両手を組み目をつぶって流れ星にお願いをする。


「…………よし! もういいかな」


 顔を上げると流れ星は未だに星空を流れていた。


「あの流れ星、周りと違って何か全然消えないし、変なの」


 多少は他のと比べて流れるのが遅い流れ星もあるのだろうが、でも、あの流れ星……。


「何かこっちに向かって来てない?」


 どんどん流れ星の光が近くなってきている気がする。というか、もう私の目でも分かるぐらい近づいてるし!

 逃げなきゃ、このままだと直撃して最悪、死んでしまうかもしれない。


「早く、早く部屋に戻らなきゃ」


 そう思うと同時に、その場を離れるために走り出す。


「はぁ、はぁ、何とか部屋に入ったけど……!」


 私が部屋に入ると同時に後ろの方で物凄い風が私を押した。



「っつ……」


 少しだけ気絶してしまっただろうか。

 風に飛ばされて頭を少しうったけど、体の方はけがをしていないみたい。


「どうなっちゃったかな?」


 テラスのほうを覗くと、そこには手入れされていた花が見事に散り、花瓶が割れ、見るも無残な光景になっていた。


「あぁあ、あの花気に入ってたのになぁ、残念だけどしょうがないか」


 そして流れ星が落ちたであろう場所に目を向けるとそこには星ではないものがあった。


「え? えっ? なんで男の子が倒れているの」


 すぐに自室を出てテラスに向かうと、そこにいたのは、今日のパーティーで馬鹿みたいに料理を食べていた男の子だった。

 それが彼との初めての直接の出会いだった。



「ねぇ大丈夫?」


 体を揺すったり、頬を軽く叩いたりしてみたが全然起きる気配が無い。


「それなら、こうすれば!」


 私は朝、花にあげる為の水瓶から近くにあった器を使い、彼の顔に水をひっかけた。


「んんっ、何だ一体!」

「やっと起きたのね、大丈夫?」


 あの流れ星と一緒にここに落ちてきたと思うんだけど、その割には彼を見る限り特に目立った傷はなさそうだし。


「あの、ここはどこでしょうか? 教えていただけますか」

「ここはトリル王国よ、分かる?」

「そうですか! 良かった。じゃあ、ここはトリル王国のどこなんでしょうか?」


 なんなの彼、こんなに食いついてきて、驚いたじゃない。


「今の場所はトリル王国の城内、しかも私のテラスね」


 それを聞いた途端、彼の顔が青くなっていく、そして彼はゆっくり口を開いた。


「あの……もしかしてあなたは、サルビア姫ですか?」

「そうよ、私はあなたが言うサルビアよ」

「あっ……。」


 私がサルビアか確かめると、彼はそれ以降何も言わなくなってしまった。


「ねぇ、ちょっと! 私もあなたに聞きたいことがあるの!」


 彼の肩を掴んで強引に揺すった。


「はっ、すみません、何て言いました?」

「だから、あなたに質問したいことがあるの!」


 大丈夫かな、彼。さっき気絶して起きたと思ったら、今度は私の話を聞いた途端、呆然としちゃうし。


「あなた一体どこから来たの? 流れ星が落ちてきたと思ったら、君が倒れているんだもの。驚いちゃったよ」

「流れ星? あぁ、そんな感じに見えるんですね。あれ僕です」


 えっ? 今、彼の口から衝撃的なことがさらっと聞かされた気がするんだけど。


「ちょっと待って、さっきの光りながら、すごい速さで向かって来てたのあなたなの?」


「そうなんですよ、最初は上手く動けなくて大変だったんですよ?」


 え? なんで彼、こんなに気軽にすごいこと言ってるの。

 普通に笑いながら言う台詞だと思わないんだけど。


「そもそも、何で夜遅くに、しかもこの場所に落ちてきたの?」


 夜更けだったから良かった、いや良くは無いけど、町中の人に見られたとんでもないことになるし、それよりも流れ星じゃなくて、男の子が落ちてきたとは気づかないだろう。


「それは……」


 急に黙っちゃったけど、どうしようかな。何かを考えてるみたいだし、待っていた方がいいのかな。でも早くしないと流れ星が落ちてきたと心配して見ていた誰かが来てもおかしくないし。悶々と悩んでいると彼が口を開いた。


「姫、このような感じで告白をするのは申し訳ないですが、今日のパーティーであなたを一目見たとき、僕はあなたに惚れました。僕の妻として迎える為に攫われて頂けますか?」

「えっ」


 私はそのときの衝撃を忘れないだろう。突然、部屋のテラスに男の子が落ちて来たかと思ったら、その子の口から告白をされ、しかも攫われてくれなんて聞いたことがない。


「やはり、駄目でしょうか?」

「ちょっと待って! 突然そんな事言われても頭の整理が追い付かないから! そもそも何で攫われるかどうかを聞いてくるの?」


 全く理解が出来ないし、人を攫う行為ってこんな感じで行われるものじゃないと思うんだけど。


「実は、父にあなたに一目惚れした事がバレてしまって、それで告白して攫ってこいと言われてしまいまして、困ったものです」


 頭を撫で、苦笑いしながら言ってくる。

  いや、何で平然と攫う事を困ったことだけで済まそうとしてるの? 普通の会話から攫うなんて言葉は出て来ないよ。


「あなたって一体何者なのよ?」


 一国の姫を軽々しく攫ってこいなんて言える人、どんな教育を受ければ出てくるのかしら。


「そういえば、名乗っていなかったですね。僕は魔王の息子のアリムです」


 彼の口から魔王って言葉が聞こえた気がしたけど気のせいよね。私が思っている魔王って存在はもっと禍々しい雰囲気のはずだし。


「…………ごめんなさい、もう一度言ってもらえるかしら?」

「魔王の息子のアリムです。今宵あなたを攫いに参りました」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい、でも。


「ごめんなさい、魔王の息子って何! そんなの聞いたことが無いんだけど?」


 魔王が一国のお姫様を攫って、勇者が姫を助けに魔王を倒してやがて二人は結ばれる。

  そんなおとぎ話を幼いころに聞いたことがあるけど、それはおとぎ話であって現実にあった話じゃない、しかもそれは魔王がお姫様を連れ去ったのであって、そもそも魔王の息子なんて存在がいるなんて驚きだ。


「すみません、今は魔王って呼ばないですね。アマリリスと呼ばれる国は聞いたことがありますか?」

「ごめんなさい、そういうのは疎くて……」

「今でこそアマリリスと呼ばれてはいますが、実はちょっと前までは魔王城と呼ばれていたので知らなくてもしょうがないですね」


 魔王城はおとぎ話で聞いたことがあるけど、実在したんだ。まぁ、魔王がいるんだから城があって当然か。


「父が最近、魔王城なんて物騒だから名前を変えると言い出しまして、アマリリスに呼ぶと決めたんです」


 彼は屈託の無い笑顔で話してくる。これが本当に魔王の息子なんだろうか。


「魔王って話で聞く限り物騒な感じだけど、君の話を聞く限りそうとは思えないのだけど?」

「昔は酷かったらしいですが、今は魔王って呼ばれても実際は一国の王と大差無いですよ、見た目も仕事も」


 ここに居てもいずれは好きでも無い男性と政略結婚させられるのが関の山だ、でも今なら彼にここから攫ってもらえる。攫ってもらうだけじゃ駄目だ、いくつか条件をつけなきゃ…………そうか!


「アリムさん、私は攫うにあたって条件が二つあります。一つは私の願いを叶えること、もう一つは私があなたを好きになる保証はありません。それでも私を攫いたいというのであれば、あなたに攫われましょう」


 これなら願いを叶えると同時に無理矢理、結婚させられることも無くなる。少し条件が厳しいかもしれないかな?


「分かりました。それでも私はあなたを好きでい続けます。ですが、あなたの願いというのは何でしょうか?」


 この人間髪入れずに返事してきた! なんで私なんかに惚れてるだか。ふふっ

 あれっ?何で私、笑ってるんだろう……まぁいいか。


「私を姫としてでは無く、一人の少女、女の子としての生活をさせて頂けますか?」


「あなたが何を考えているかは聞きません、ですが私は諦めませんから覚悟してくださいよ?」


  そして、私はアリムに攫われた。

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