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6.

 凶暴な山賊パッサカリアはどうしてもファシストの列車を襲いたかった。村から村へ兵隊を運ぶ装甲列車は騎馬ゲリラにとり、目障りでヘタをすれば命取りになりかねないやっかいなものだったが、そういうものこそ襲い甲斐もあるというもの。ただ列車を襲うのならもっと人手がいる。彼は自分とともにチェーザレ・モーリと戦う人間を集めていた。モンテアルファロの若い《名誉ある男》たちや食いはぐれた一文無しの農夫、インチキ賭博で追われる男、そして、本土で爆弾事件を起こした無政府主義者カルロ・メルロもその一人だった。

 彼はパッサカリアの支配する山脈に人類の理想郷を見出していた。独裁者も専制君主もブルジョワジーに牛耳られた議会もいない世界。それは今から数年前、ネストル・マフノが東ウクライナに確立しようとしたフリー・テリトリーで見たものと同じだった。旧帝政派もボルシェビキも否定した一切の権威が排除された状態、全ての人が生まれながらに持つ権利が最高の水準まで行使された世界だった。おそらくパッサカリアの父親殺しもそうした権威への抵抗の一環として本人も意識しないうちに生みだしたものだろう。カルロ・メルロはそう判じた。

 フィレンツェ出身のカルロ・メルロは自分が爆発物の専門家であることを説明して、なんとかパッサカリアに認められた。カルロ・メルロは硫黄鉱山の倉庫から持ち出したダイナマイトを高圧磁石発電機の箱につないでから線路の下のラバが通れるほどのアーチにしかけ、ワイヤーを砂で隠しながら岩山の上で待ち構えた。

 線路は建築士が図面をひくときにクシャミをしたのかと疑いたくなるほど出鱈目に敷かれていた。二本の鉄のレールは崖を切ったかと思えば、小さな丘に遠慮して低地を通り、村の建物は全てムーア人が建てたかもしれない貧村を貫通したかと思えば、大きな町を無視して曲がっていく。一般の常識の通じないその動きはまるで山賊のようだった。

「そうだ、山賊だ」パッサカリアは自慢げに手をひろげ、この不規則な動きをする線路をさした。「この山脈の線路は全て山賊を退治するためにひかれたものなんだ。信じられるか? ローマの政府は四十人足らずの人間を逮捕して公開裁判にかけたいばかりに鉄道をこさえちまうんだ。それほどの金がローマにはうなっていて、それほどのプライドがローマにある」

 丘のむこうから時計塔の鐘が鳴った。小麦畑では何も知らない収穫人たちが腰を曲げてしゃがみこみ、麦を束にして刈っていく。彼らの通った後には小麦の刈り株が等間隔に残されていた。

 曇るということを知らないシチリアの空に煤で重くなった黒煙が湧いていた。それは丘をまわりこむように近づいてきた。岩にへばりついている山賊の数人は自分には関係ないといった態度で煙草を呑んでいたが、新入りの山賊たちは神経質そうに足踏みをしたり、爪をかじったりしていた。散弾銃やカルカノ銃がカチカチ音を鳴らして、いつでも撃てるよう準備された。パッサカリアはヴィラール・ペロサ機関銃を手に散弾銃は弾薬ベルトにつなげて背中に背負い、スペイン製のアストラ・ピストルを腰のベルトに挟んでいた。

 機関車が遠い橋を渡りながら、黒煙を吐いた。二十世紀の四分の一が終わろうとしているこのご時勢に機関車を未知の化け物のごとく恐れるものがシチリアには少なからずいた。機関車は装甲板を溶接した砲台のような貨車を曳いていた。機関銃が見えた……ひとつ……ふたつ……みっつ……カルロ・メルロはクランクをまわした。

 爆風で機関車が浮き上がり、炎の混じった濃い砂ぼこりのなかから斜めに傾いたまま飛び出した。貨車が次々と線路から転がり落ち、引っぱられるように機関車も線路をまたいで落ちていった。全ての車両が真横に転がり、大砲がひしゃげて五十メートル離れた場所に転がった。銃眼は意味のない方向を向くか、ねじまがった装甲板で射線を妨害されていたので、憲兵たちは敵を迎え撃つために車両から出なければいけなかった。山賊たちの機関銃が発砲を始めた。他のものも発砲を始めた。十分後、パッサカリアが轟音のなかで撃ち方やめを叫び、聞こえないやつを殴り倒して、発砲をやめさせた。列車は蜂の巣状にされて燃え上がり、憲兵の死体が数体ほど線路わきに転がっていた。

「あーあ」パッサカリアは紙袋のように破れた列車をさして残念そうに言った。「これじゃ機関銃はぶっ壊れてるな。新しいのが欲しかったのによ」

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