幼稚園時代
大きな歴史の転換点に差し掛かった時代に大きな因果に操られる「俺」に関する自叙伝
これは俺が、幼稚園時代の話だ。
「フィリピンの英雄ホセリサールについて話そうと思う」
俺はそう切り出した。
こいつらの興味を引くにはこれしかないと思っていたからだ。
ちなみにホセリサールとはフィリピンがスペインに占領された際、フィリピン人の独立を訴えた国民的英雄のことである。
「いや、今日の議題はすでに決まってるから」
高橋がそう言った。
ちなみにこいつとは、一言も話したことがない。
こいつの声だって、その時聞いたのが初めてだった。
そしてそもそもなんでこいつがここにいるのか俺は理解していなかった。
「議題って何よ?」
「砂場の所有権は誰にあるかって話だよ」
「いやそれはもういいから」
「いや、よくないから」
高橋は意地になっているらしく、頑として譲らないぞ!という態度をあらわにしている。
すまんな高橋、こちらも譲れんのや。
「ともかく今日はホセリサールの話をするからな、そういうつもりでいてくれ」
「いやよ」
と口を挟んで来たのはエリカちゃんだ。
絵に描いたようなエリカ顔で、ちょっと顔がいいのを鼻にかけている節があり、強引さが目に余るメスだ。
「やだって…、なんで?」
「その話をする必要が今ある?」
「ないけど?」
俺は素直なので思ったままを口にした。
「高橋君の言うように、もう議題は決まってるの」
「えっと、所有権がなんだとかいうやつ?」
「違うわ、『すごい棒』についてよ」
でたよ、女の子はすぐに棒の話をしたがる。
「それこそ嫌だよ、駄菓子の話なんて何のメリットがあってやるのさ?」
「そのセリフをそっくりそのままお返しするわ」
とにかく、だ。俺たちはこうやってその日も、何を議論するのかについての共通理解を得られないままに、日々を過ごしていた。
いかがでしたでしょうか、初の長編に挑戦しました。