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至高の一冊  作者: ○●
求めることはテーマ
3/3

求めるものはテーマ「第一章.2」

 本が学校に着いたのは五時間目の授業が五分ほど過ぎた頃だった。誰もいない廊下に教室から先生達の声だけが聞こえてくる。

 本はその中を一人歩き、自分の教室に向かった。教室にたどり着き、二つある扉のうち黒板から遠い方の扉を開き中に入る。扉を開けると少し音が鳴なった。その音を気にせず本は、教室の中に入って行った。

 授業中に教室の扉が開けば、普通は注目の的だろう……しかし、本が教室の中に入っても、誰も、先生さえ、見向きもしない。まるで機械のように先生は授業を続け、生徒は黒板の文字を書いている。

 それが、本の通う学校なのだ。

――文高生徒の暗黙のルール

 自分と違う、周りと違う人を見下し、進学校のため表だったいじめはないが、裏で陰湿ないじめの横行。文高に入学し、多くの生徒は入学して1ヶ月以内に入った部活、周りの空気から暗黙のルールを学ぶ。暗黙のルールの存在を知った生徒達が取る行動は、自分が被害に遭わないように周りと合わせ、差異がないように自分を作っていくのだ。

 故に、転校生、馬鹿、オタク、人気者、ヒーロー。周りと異なる者すべては「異端」「異物」で一般生徒から無視やいじめの対象なる。

 一部の先生は生徒の暗黙のルールを知っているが、先生達の間にも暗黙のルールが存在し、表だって注意することはない。先生達が出来るのは、いじめに合わないように陰でアドバイスをするぐらいだ。それ以上のことをした先生は、職員室の中で他の先生にいじめられる。先生だって人間なのだ。

 本が通うのはそんな学校だった。入学するまで、決してわからないこの学校の闇の部分だ。

(やっぱり、ここは嫌いだ)

 本は自分の席に座り、そう思っていた。

 本が机の中から教科書と参考書を出した時と同時に数枚の手紙らしき物も床に落ちる。しかし、本がそれを拾うことはない。いつも同じ、名前の書いてない手紙。内容を見なくても、中身がわかる手紙だ。

 それから本は、いつものように一人で勉強を始めた。教科書の内容を参考書を使い理解し頭に叩き込む。この学校で勉強を聞ける相手など本にはいなかった。しかし、本の場合は、元々成績が良かったのと、勉強を今まで真面目にしてきた分、あまり苦労はなかったが、この空間で勉強するのは苦痛だった。

(帰りたい……)

 折れそうになる自分の心を必死につなぎ止め、なんとか五限目を終える。本の心にあるのは出席日数とテストでの赤点回避のみだ。それさえ出来れば、進級や卒業が出来る。

 休み時間に入り周りは少しだけ騒がしくなる。この学校で唯一平穏な生活を送るための情報収集の時間だ。自分以外の人はどうしているのか、相手は自分の思っていることついてどう考えているのか、自分を周りと合わせようとする生徒達の本心を隠した探り合い、それがこの学校の休み時間……

 しかし、本は他の生徒達みたいに情報収集をすることはしなかった。目の前の教科書と参考書を見て勉強している。そんな本に周りの生徒は、見向きもしない。まるで本という人間が存在していないかのような完全なる無視だ。そんな休み時間を終え、六時間目が始まった。

 本は教科書と参考書を授業に合わせ変え、また同じように一人で勉強をしていく。周りは五限目と同じく機械的に黒板の文字を写している。

 本はノートを取ることを決してしない。初めの方はしていたが、無駄だと言うことに気がついた。ノートを使っても、次の日にそのノートは無くなっている。

 教科書や参考書も無くなっていることもあるが、それは、また買えばいいだけだ。しかし、ノートはそうはいかない。自分が書いた内容が載っているノートなど全国どこを探しても売っていないからだ。

 だから、本はノートに書くことを諦め、ひたすらに文字を見て、頭の中に詰め込んだ。

 そんな六時間目が終わり放課後になる。生徒達は早くもなく、遅くもない周りと合わせ、徐々に教室を後にし、太陽が傾き始めている頃に教室に残っているのは本のみとなった。 本は誰もいないことを確認してから、机の中に教科書と参考書を戻してから席を立った。

(帰ろう……)

 手ぶらになった本は帰るために、教室の扉を開き、そのまま廊下に出て行った。誰もいない廊下には外で部活をしている運動部のかけ声だけが響き渡っていた。その時、学校に来る前に店長の言っていた言葉を思い出した。

(娘か……果たせそうにない約束だ……)

 店長の娘が学校で嫌われているなら、見つけ出すのは簡単だろう……しかし、いくら同学年と言っても、授業が始まってから学校へ来て、誰もいなくなってから帰る本には、合うはずがない。

 本がそう思っていると、どこからか声が聞こえた。

「すいません」

 本は外の運動部だと思い、そのまま廊下を歩き続けた。しかし、さっきと同じ声が今度は本の後ろでする。

「すいませんってば」

 本は一瞬止まり、後ろを振り返ろうかと思ったが、この学校で自分に話しかけてくる人はもういないとそう感じて振り返ることなく、歩き出した。

「もう!アナタに話しかけてるんです!!」

 本が歩みを再開させたら、声の主が本の正面に回り込で怒ったように言った。声の主は少女だった。ミドルの茶色い髪をしている小柄な女の子。高校生と言うより、中学性や小学生ぐらいに見える幼い子供だ。

「何回呼ばせる気ですか?それとも、人が助けを求めてるのに無視するのがお好きな人なのですか?」

 腕を組んで言う少女に本は思わず見とれてしまった。少女のつぶらな大きな瞳は童顔の顔によく似合っている。

「俺に言われてると思わなくて……」

 本は正直に思ったことを言った。実際、学校をサボり始めてから本に話しかける生徒など一人もいなかったのだ。

「あなた以外の人物が、この廊下のどこにいるんですか?」

 少女はそんな本の言葉に対し、さらに怒ったように言った。

(確かにいないが……)

 本は少女の言葉に心の中で肯定したが、同時に否定もした。この学校の生徒で、知らない他人に話しかけるなど、「私は異端です」と宣言しているようなものだ。

 本は少女の胸元を見る。ふっくらとした胸の真ん中にある赤色のリボンがあった。

(赤色のリボン、一年生か……)

 本は自分に話しかけて来ている少女が、一年生だと確認すると同時に納得もした。入学して1ヶ月以内に暗黙のルールに気がつく生徒が多いのだが、鈍感な人は、夏前の梅雨の時期に気がつく人もいる。しかし、梅雨が終わる頃には、学年全体に暗黙のルールが広まり周りと違う者は、平穏な日常が失われていく。

(この子はまだ知らないのか)

 本は自分が経験してきた日々を振り返り、そう思ったのだ。

「ちょ! どこ見てるんですか!」

 少女は胸を押さえ、顔を赤くしている。リボンを眺める本に少女は自分の胸を見ていると思われたのだ。

「いっや……リボンの色を……」

 本は口ごもってしまう。胸の真ん中にあるリボンを見ていたのは事実で、その際に服の上からでもわかる胸を見てしまったことも、また事実なため、完全に否定出来ない。そもそも、本がまともに話せるのはゲーセンの店長ぐらいだ。女の子など想定外だ。

「まぁ今回はそういうことにしておきます。でも代わりに」

 そう言って少女が指を向ける先には、大きな段ボールと小さな段ボールがあった。

「これを運んでください」

「あの段ボールって……?」

「秘密です!とにかく運んでくさい!」

 少女はお願いと言うより、強制に近い口調で本向かい言った。

「なんで?」

「重くてあれ以上運べないんです!それにさっき胸見たじゃないですか!罪の意識とか無いんですか!」

(服の上からしか見てないのだが……)

 口から出そうになった言葉を本は飲み込み、頬を膨らませながら怒る少女を見ながら思った。

(この場を納めるためには仕方ないか……)

 実際あまり気が進まなかった本だが、逃げられそうな状況でも無かったため、少女のお願いを聞くはめになった。

「わかった」

 本は渋々少女に向かい言ってから、段ボールの元に行き、小さい方の段ボールを持った。

(お、以外と軽い)

 もっと重いのかと思っていたが、想像よりも軽かった。

「で、どこに運ぶんだ?」

「男なんだから大きい方運んでくださいよ!」

 本の問いに少女は答えずに、大きい方の段ボールに指を向けながら、怒っている。

「か弱い女な子に大きい方を持たせないでください!」

(か弱い女の子はそんな言い方しねーよ)

 本は少女を見て、刃向かうとまた「胸を見た……」と言い出しそうな様子を見て、口から出さないようにした。

「わかった」

 やむを得ず本は、大きい方の段ボールを持った。本も内心こうなるとわかっていたのだが、普段ゲーセンでゲームばかりのインドア派の本には驚くほど力が無かったのだ。そのため出来るだけ力仕事はしたく無かったのだ。

「おも!」

 自分の非力の筋肉で持てたことに驚くと同時に、小さい段ボールとは比べものにならないほどの重さに足元はふらついている本だった。少女は小さい方の段ボールを軽々と持ち本に向かい。

「あ、文芸部の部室までお願いします」

「文芸部……」

 本はまさか、その名前を今聞くはめになるとは思わなかった。出来れば忘れていたかった。そんな思いから本の表情は暗い。

「私場所知らないので案内してもらってもいいですか?」

「あぁ……」

 少女は本のことに全く気がつかずに言った。本は文芸部の部室に行きたく無かったが逃げるに逃げられない。諦めて本は、少女と並んで文芸部の部室に向かった。

「ここだ」

 特別棟1階の一番奥の部屋。そこが文芸部の部室だ。特別棟は主に音楽室や家庭家室などの教室が集まる。一階には図書室もあるが、誰も利用しない形だけの図書室だ。

 特別棟は様々な部活の活動の場でもあり、主に吹奏楽部や美術部などあるが、実際活動しているのは、吹奏楽部ぐらいだった。

「ここですか……」

 少女も来るのは初めてだったのだろう……扉の前で「文芸部」と書かれたプレートを見ている。

「誰もいないと思うぞ」

 本は文芸部の部室に初めて訪れた一年ぐらい前のことだ。扉を開けると、そこは物置になっていた。段ボールが積まれ、もちろん人はおらず、机すらない。愕然としたが、その時の本は部屋を少し片付け、何とか自分が座るスペースを確保した。その日から一年経った今日、本は開ける前から結果がわかっていた。

(今や物置に逆戻りだろう……)

 しかし、少女は本の話を聞いておらず、文芸部の部室の扉をノックする。

「どうぞ」

 中から声がした。本は驚いた誰もいないはずの部室から声がしたのだ。

「失礼しまーす」

 そう言いながら扉を開く少女は、中に人物がいることを不思議に思わずに、教室の中に入って行き、本もそれに続いた。

 少女が中に入るとおしとやかな声がした。

「ありがとう、由美」

「お安いご用なのですよ~」

 本は部室の中に入り、一年前とは別の意味で愕然とした。文芸部の部室は綺麗に片づいており、部屋の真ん中に一つの長い机と五つの椅子があった。

(まるで別の部室だ……)

「あら?お客さん?」

 本はおしとやかな声がする方向を見ると、窓際にある椅子に座り、窓から入ってくる風に長い金色の髪をなびかせ、白い肌の手で読んでいた文庫を膝の上に置き、整った顔で微笑みながら本を見ていた。優雅と言う言葉がよく似合いそうな雰囲気だ。

「あなたも、至高の一冊を求めて来たのですか?」

 本は脳がとろけそうだった。

「違いますよ、三咲先輩! ただ、荷物を持ってもらうのを手伝ってもらっただけですよ」

 由美と呼ばれる本に段ボールを持たせた少女はそう言って、優雅な彼女の元へに近寄って行った。

「あら、そうだったの?」

 由美と優雅な彼女の会話を聞きながら、本はどうしても気になっていることがあり聞いた。

「あの、至高の一冊って……?」

「至高の一冊って言うのは、愛読家と作家が求める究極の夢よ」

 そう答えたのは、由美だった。しかし、本はそれだけの説明では、理解出来なかった。

「至高の一冊とは、読む者すべてを虜にする魔法の本です。しかし、そんな本は実際にはありません。まだ、世に出てないと言った方が正しいでしょう、だからこそ、多くの作家は、その幻の一冊を自らの手で、作り出そうとしたのです。それが至高の一冊と呼ばれる本のすべてです」

「なるほど……」

 本は優雅な彼女の説明を受け、何となく理解した。この世界に批判を受けない本など存在しない。どんなジャンルでもそれは同じだ。しかし、仮に至高の一冊と言う本が存在して、読む者すべてを虜に出来るのなら、作家に取ってはそれは憧れの対象だろう……

(至高の一冊か……)

「でも、先輩がその本を書けるかも知れない人を発見したの。小説をあまり読まない私でも、物語に引き込まれるぐらいすっごいだから!」

 由美は少し興奮気味に言っている。

「まだ、発見はしていませんよ?これから探すんです……ところであなたのお名前を聞いてもいいかしら?」

 優雅な彼女の問いかけに本は、少し固まり、そして言葉を出した。

「国文 本二年」

「国文……」

「本……」

 本の名前を復唱する二人は、目を見開き驚いている。

「卒業生だと思っていたのに……」

「学校の生徒だったなんて……」

 本にはうまく聞き取れないが、本もまだ名前を聞いていなかったと思い名前を聞いた。

「そっちは?」

 本の言葉に反応したのは、由美だった。由美は慌てながらも言葉を出した。

「曽賀 由美一年生です」

「私は、原 三咲二年です」

(原 三咲……?同姓同名?)

 本は驚いた。店長の娘の名前と一緒だ。しかし、三咲と名乗る彼女は行きつけのゲーセンの店長とは似ても似つかない。本が混乱していると三咲は、本に近づき言葉をかけた。

「あの……あなたを探していました」

「えぇ?」

 本は三咲が何を言っているのか、意味がわからなかった。


読んで頂きありがとうございます。

今プロットとか、設定とか見直してるので、更新はもう少し先になるかも知れません。

もっともっとよい作品を作るためにしばしお待ちください。



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