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#1 始まりの『今日』


「みんな、ばいばい」

放課後、ボクは笑顔で挨拶する。偽りの笑顔で。

「あっ小日向さんさよなら」

「また明日!」

「ばいば~い」

クラスメートたちが手を振って来たのでボクも手を振る。

廊下にでると冷たい風が吹いた。

「ひぇっ!?さむっ」

今日も手がかじかむ程寒い。

窓から景色が見える。

今は冬。でも今日の空は澄んでいる。人の心とは大違いだなぁ…。変な事まで考えてしまう。

ふと校門を見たら真っ黒な車が止まっていた。ボクはよく知らないが結構高価な車らしい。(前に車オタクらしきクラスメートが熱く語っていた…ような気がする。)

廊下を通った先生や生徒に挨拶される。

「小日向さん、また明日ね」

「はい。また明日」

「小日向ちゃ~ん!!さよぉならぁ」

「ばいばい」

「あっ小日向先輩!!さようなら」

「うん。さようなら」

どんな人にでもでも明るくフレンドリーに挨拶する明るい子。

校内でのボクのイメージはそんなものだろう。

別に自意識過剰とか、ナルシストな訳ではない。

後ろで名前も知らない後輩達の声がする。

「きゃ~!!小日向先輩に挨拶しちゃった!」

「本当、最高だよね小日向先輩!!」

「うんうん!!うちの学校で一番可愛いし、一番頭いいし、一番運動神経いいし、憧れるわぁ…」

だんだん遠のいていく声を聞き流しながら、ボクはいまだに続いている窓を覗く。

車はまだ止まっている。

ピカピカの新車だ。

しかも高級車。

まあそんな車だが驚いたりはしない。というか驚く方がおかしいか。その車に乗って毎日登下校しているのはこのボクだし。という訳でっていってもどういう訳か分かんないけど、とにかく今日もその例外におけず車に乗り込み、家に向かう。


車の中は暖かい。

「今日の学校はどうでしたか?」

運転手がたずねた。

ボクは適当に答える。

「いつもどおりだったよ」

「そうですか」

何その反応。自分から聞いたんじゃん!?はぁ…つまんない。

ボクは小日向空音14歳。一人称はボクだけど、正真正銘女の子。もちろん他人の前では私っていってるよ!?

いきなりだけど、ボクの人生はまさに波乱万丈だった。あの~14歳で何人生語っちゃってるの?この人。っていうかわいそうな目で見ないで下さい。本当に波乱万丈だったんだってば!

車が赤信号で止まる。

外を見ると、横断歩道をたくさんの人が横切っていく。

ひげをはやして杖をついてるおじいさん、ランドセルを肩に掛けた小学生の集団、それと…仲の良さそうな家族連れ。

ボクは目線を運転手に戻した。

まあそんな波乱万丈人生な訳だが、簡単に言うとこんな感じだ。

ボクは小さい頃、孤児院にいた。が、すごい金持ちに引き取られたので今に至る。いろんなところを省いたような気がするが大体こう。要するに今はすごいお嬢様なのだ。

だから今もこんな車に乗っている。


車が家に着いた。何度見ても無駄にでかい家。

「着きました」

みりゃ分かるだろ。そうは思うが口になんて出さない。

「うん!ありがとう」

そんな風ににっこりと笑う。

「ではまた明日」

運転手もにっこりと笑う。

ボクは礼をして控えめに手を振った。もちろん笑顔で。

家に入ると数え切れないほどのメイドや執事に挨拶される。みんな怖いほど完璧な笑顔だ。変なの。と思いつつもボクはにっこりと挨拶を返す。

さっきから笑顔ばっかり。これだからここは好きになれない。ひきっとってくれた事に感謝はしているが、正直ここは嫌いというか苦手。

そんなことを考えながら、自室へ向かう。


自分の部屋に入ると、窓の外から黒猫がじぃーっと見ていたので窓を少し開けてやった。猫は人に馴れているようだった。

「おいで」

「にゃあお」

猫を抱きかかえてボクはベッドに寝ころんだ。

「君はどこから来たの?猫の国?」

「にゃぁお」

「この世界って色々と大変だよね~」

「にゃっ」

「残念。ボク、猫語は分かんないんだ」

「にゃあ?」

猫は無邪気な瞳で不思議そうに見つめてくる。

はぁ。今時、猫とファンタジーな会話(?)してる女子中学生なんてめったにいないよね~。

もしかしてボクだけ……かな?

………。

うん、むなしくなって来たからこの考えは止めよう。

それにファンタジーなんて言うとあの頃を思いだしちゃうからー


いつの間にかボクは深い眠りについていた。


暗闇の中。

沢山の冷たい目が睨みつける。

馬鹿にしたような笑いが溢れる口が言う。

止めて。

「空音の作る話って夢物語ばっかりだよね」

やだよ。

「だね~ぬいぐるみが動く訳ないじゃん!」

止めて。止めてよ。

「はぁ…マジうざい」

いやっ。

「貧乏の癖に」

やだやだやだ。

「てか孤児でしょあいつ」

いやぁぁぁ。


気がつくとそこはベッドの上だった。まあもとからベッドには寝てたんだけど。

隙間が開いた窓から冷たい風がなだれ込んできた。空はとっくに茜色。さっきの黒猫の姿は見えない。

夢か…。

いやな夢。

「ああ寒い寒い」

ボクはつけ忘れていた暖房にスイッチを入れた。

動きたくない~と叫ぶ身体を無理やり起こし、窓を閉めるため立ち上がる。

コンコン

不意に部屋の扉がノックされた。

「空音さん、お部屋のお掃除をしてもよろしいでしょうか?」

何急に。掃除くらい自分でやるよ。勝手にやられるよりは増しだけど。

「お気遣いありがとう。でも今はいいかな。気持ちだけありがたくいただきます」

「そうですか。ご丁寧にありがとうございます」

足音が去って行った。

「ふぅ。疲れるなぁ…」

いっそ抜け出しちゃえば…なんてね。

よくもまぁ下らないことを思いついたもんだ。

そんなことを考え、ボクはまた一人ため息をついたのである。

さっきつけた暖房が、やっと効果をみせ始めていた。


夕食もすませ、お風呂にも入って部屋に戻ったボクはベッドに寝ころび天井を見つめていた。

べっ別に天井の木目の数をかぞえて、人生これやってれば満足かも~とか考えていた訳じゃないよ!?

ねぇ!!

その哀れだ…。みたいな目線いらないよ!?

何となく机の上に置いてあるルンを見た。ルンは犬のぬいぐるみ。手のひらサイズの小さな犬だぞ☆

……CM風にしてみました。

一人って悲しいね…。

呆れるほどの一人突っ込みの多さに自分でも泣きたくなるよ。

とまあ気を取り直して、次へ進もう!

ルンはボクが孤児の時から持っている。小学校にこっそり持って行き、見つかって2時間怒られた思い出の品だ。

でも、小さい頃から持っている数少ない物の一つなので、愛着はたっぷりある。昔はこの子も―

あ~あ。何で昔のことなんか。

ふぅー。分かってる。

あの夢の所為だよね。

何だか今日は疲れた。

早く寝よう。

ボクはベッドに潜り込み枕元のランプを消した。

睡魔が襲って来た。

今日は良く眠れそうだ。


その時のボクは今日というこの日が全ての始まりとなる事を知らなかった。ただの平凡でいつも通りのつまらない『今日』だったから。



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