ミー
オジサンの家に着いた。
相変わらずドアが古臭い。
ぴーんぽーん
C「オジサンー 」
オジサン「あっ かなちゃん!」
かな「あ…うん、どしたの?」
オジサン「ど…どうしよう…」
かな「とりあえず上がらせて」
オジサン「おう…」
玄関にいくと、オジサンは電気をつけた。
廊下には…
かな「ウッ…」
オジサン「汚くてごめん…」
かな「これ」
言うまでもなく それは、口から出る
胃の中のものだった。
オジサン「お…オレンジが…吐いて…」
かな「え、それだけ?」
オジサン「はぁ!?それだけって…!」
かな「なんだ、良かった」
オジサン「なに言ってるんだよ!お前が連れてきたんだろ!」
かな「みーちゃん、元気?」
オジサン「さっき寝たぞ…」
私が あの子猫をひろってきた。
オジサンには迷惑かけてるけど。
オジサンには 猫の知識が無いみたいだった。
だから、パニックになってた。
オジサン「とにかく病院に!」
かな「そんなことしなくていいよ」
オジサン「吐いたんだぞ!熱かもしれんだろ!!」
かな「うん、確かに猫風邪かもしれないけどさ」
オジサン「タオル…あ、運ぶバッグ…」
かな「落ち着いてよ オジサン」
オジサン「落ち着いてんだろ…」
かな「汚してもいいタオルない?」
オジサン「あぁ…これ」
私は真っ白なタオルで、床を拭いた。
かな「正座して」
オジサン「え…」
かな「いいから」
オジサン「……」
かな「猫はね、自分の毛を舐めるでしょ」
オジサン「毛繕い(けづくろい)だろ、分かってる」
かな「うん、そう」
かな「そしたら 毛を飲んじゃうの」
オジサン「お、おう…」
かな「その毛を出すために 吐くの」
オジサン「……」
かな「これからも何回かあるよ」
オジサン「そ…うなのか…」
かな「うん、ごめんね」
オジサンは難しい顔をしてから、ホッとした表情を見せた。
オジサン「良かった…オレンジが死ぬのかと…」
かな「そんなことないよ」
オジサン「色々…ごめん」
かな「ううん、私が連れてきちゃったから」
オジサン「タオル洗ってる間 居間にいてくれ」
かな「うん、分かった」
そしてオジサンは、汚れたタオルを持って
洗面所へ向かった。
でも、私も洗面所に行った。
オジサン「ん?どうした?」
かな「手、洗いたいの」
オジサン「あぁ」
少し雑談をしつつ、手も洗い終わって
二人で居間に行った。
オジサン「はぁー」
かな「事件みたいな顔してたね」
オジサン「俺にとっては事件っすよ」
かな「そうっすか」
机の上には、リンゴジュースが。
二人ともリンゴジュースが好きだ。
かな「リンゴジュース うま」
オジサン「俺が作ったんだぞ」
かな「嘘ついたら泥棒の始まりなんだよ」
オジサン「サーセン」
かな「よろしいです」
だんだん外の景色が暗くなってきて、
二人とも 会話が続かなくなってしまった。
かな「リンゴありがとう、帰るね」
オジサン「お礼だ」
かな「いつもくれるじゃん」
オジサン「オレンジの遊び相手になってくれるからな」
かな「オレンジなのにリンゴ?」
オジサン「うるせぇ」
かな「それじゃ」
オジサン「おう」
ドアを開ける。
寒い空気が入ってきて、オジサンの家に
居たい気持ちになる。
かな「外のニオイですね、くんくん」
オジサン「早く行け」
かな「寒いよ」
オジサン「知らん」
かな「ひどいよー 体罰だよー」
オジサン「なんとでも言え」
かな「ちぇ」
オジサン「そんじゃ、ありがとな」
かな「うん、またね」
ドアをしめる。
いつもドアから離れるまでカギをしめないオジサン。
すぐにしめたら 悲しくなるの 分かるのかな。
そんなことを考えながら、歩き出した。